身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。

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4 幼馴染み 九重 裕斗

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年明け1月4日。


朝9時を数分過ぎた頃、スマホが鳴った。


「……ぇ、何この音量。」

有り得ないデカい音でめちゃくちゃビビって目が覚めた。
しかもアラームではなく着信だ。
因みに俺は着信音は無し派、常にバイブ。
なのに着信音が鳴るという事は、やった犯人は1人しかいない。
取り敢えず出た。


「……暇なん?」

「ちげぇよ。暇にしてんだよ。早く開けろ。」

「……。」

両親が今日から出社なので俺以外に開ける者がいない。面倒だな~。

俺は欠伸をしながら階段を降りて玄関を開けた。

「ヒロ……お前、勝手に人のスマホの設定弄んな。」

「良いだろ別に。俺の連絡に気づかないと困るだろ、お前が。」

「いや困らん。」

玄関外には紙袋を手に下げた裕斗が立っていた。
ドアを開けると裕斗はズカズカ上がり込んで、何故か2階の俺の部屋ではなくキッチンへ向かった。
レンジを開けて紙袋から取り出した耐熱容器を入れて加熱している。

「……なに?」

「どうせその様子じゃ飯まだだろ。ラザニア。」

「えっ、おばさんが?」

「何で母さんだよ。俺だ。」

目が丸くなる。

「…ヒロが?」

いや俺が言うのも何だけど、裕斗って奴はそういう家事とかは全く興味の無い男だった筈だ。


「え、料理始めたの?何時からだよ。」

「半年くらい前から。」

「何かきっかけがあったん?」

あの裕斗がねぇ、と俺は感慨深い気持ちになった。
俺、偉そう。


すると裕斗は言った。

「いや、俺とお前の好物くらいは作れるようになっとこうと思ってよ。」

「あはは、何で俺www
普通はせめてカノジョとかじゃねーの。」

俺が裕斗の回答に笑うと、裕斗はまたしてもサラッと言った。

「は?カノジョはとっくに別れてるし。」

「へっ?」

俺は耳を疑った。

「い、何時?」

「去年、お前のアパートに泊めてもらって帰ってから直ぐ。」

「……そう、だったん?」

いや初耳。初耳だが。
高2から付き合ってたカノジョだった筈だが、何かあったんだろうか。

つーか、裕斗が女を切らした事は、小5以来殆ど無かったから純粋な驚きだ。

確かに今回の年末年始はなんかずっといるなぁ、と思ってた。そういう事かあ。

「え、まさかそれからずっといないのか。」

そう聞くと裕斗は何故か微妙な表情をして、

「当たり前だろ?浮気になんじゃん。」

と言った。

……?浮気?
彼女と別れてるのに次を作ったら浮気になるのか。
よくわからん感覚だ。

「でも告白されるだろ?」

「そりゃされるけど、別に断りゃ済むじゃん。」


加熱が終了して、ミトンを付けた裕斗が容器を取り出しトレイの皿の上に載せた。
俺は2人分のスプーンとフォークを出して、トレイに載せる。
お茶のボトルとコップも持ってくか。

「じゃ、上に行こっか。」

裕斗がにっこり笑ったので、俺もつられて笑ったが、まさかこの笑顔がゴングだったとはな。





2階の俺の部屋のローテーブルで、2人でラザニアをつついている。
朝からラザニア。嬉しい。

「ヒロ、美味いね。すごいじゃん。」

お世辞抜きに美味かったので俺は裕斗を褒めた。

「今度グラタン作ってやるよ。」

「楽しみ~。」

次は多分春休みだから結構直ぐだな。

「ところでさ。」

あらかた食べて茶を飲んで一息ついてたところで裕斗が口を開いた。

「うん?」

「和生って、誰だ?」

「は…」


カズイ?和生?
本條の事か。

ギクッとする。

「……何で?」

一時期とはいえ、俺が男と付き合ってたのを裕斗は知らない筈なのだが、何故本條の名が出てきたんだろう。
というか、違う大学に進んでからの互いの交友関係はほぼ知らないんだが。


「寝言で言ってたし、お前のLIMEのブロックリストにも入ってるよな。何、そいつ。」

「えっ、スマホ、着信設定以外も見てたの?!」

おま、それは…それは、駄目だろ。いくら幼馴染みで気心知れた相手ったって、それは駄目だぞ。

俺はつい咎めるような声色を出してしまった。

だが、裕斗は気にも留めていないように話し出す。

「着拒もしてるよな。
どういう関係?」

責めるような尋問口調に流石の俺も少しイラッとした。

「ヒロに関係ある?
つか勝手に俺のスマホ見るって何?」

俺がそう反論すると、裕斗は形の良い眉を顰めて立ち上がり、俺を見下ろした。

な、なんだよ…俺は当然の主張をしただけだぞ…。



「浮気か?」

「   へ?」


裕斗はテーブルを迂回して俺の横に立った。
気圧されて思わず後ろに手をつく。

「浮気か?」

裕斗がもう一度、同じ事を言うが、言葉の意味がイマイチ理解出来ん。

浮気というのは通常、恋人のいる者が他の人間に目移りをする事ではなかったか。
幼馴染み…つまり、殆ど兄弟みたいになってる友人関係に於いても、それは成立しただろうか?


……いや、しねえ。
しねえわ。
んな訳ねえよ。
だって裕斗普通にカノジョいたじゃんか。

裕斗があまりにも当然のように俺を攻めてくるから、一瞬考えちゃったけど、幼馴染みは単なる幼馴染みだ。
それ以上でも以下でも無いな。

俺は冷静にそう判断した。
そして満を持して、裕斗に言う。

「浮気も何も、俺がお前にそれを言う理由あるか?」

すると裕斗は、今度は訝しげな顔をした。
俺の前にしゃがみ込み、目を覗き込むようにして


「お前…俺を好きなんだよな?」

と聞かれる。それに対して俺は、

「へっ?!!」

と、盛大にギクッとする。
何故それを!!?

「泊まりに行った時、そう告白してきたじゃねえか。
ずーっと好きだったのにぃ、って 泣きながら。」

「は、はあ?!」

「だから俺は、こっち帰って来て直ぐ女と別れたんだけど?」

「ひ、ヒェ…、」



俺が、いつ。
いや、そんな記憶は全く無いんだが。
どうなってるんだ。

只、裕斗を好きだった事を知られていたという事実に、心臓がバクバクとうるさい。


何がどうなってるのか、全くわからない。











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