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3 元親友…? 風祭 千歳
しおりを挟む正直言って、口移しってあんまり良いもんじゃない。
あの後、何となく気不味くなって本條は口が重くなってしまったので、俺は部屋代を出すつもりで財布を出した。こういうホテルってどんくらいするんだろう。5000円じゃ無理かな。
「なあ、本條。」
「ん?」
本條はソファに座って弄っていたスマホから目を上げて俺を見た。
「こういうホテルっていくらくらいするもんなのかな。」
俺は財布の中を確認しながらそう聞いた。
すると本條はプフッと笑いかけて、堪えた。
いや既に見えたから。
そうか。この歳でラブホの料金相場知らないのは笑われてしまうのか。
俺は少ししょんぼりした。
それを感じとったのか、本條は少し慌てたように言った。
「あ、いやごめん。
知らない事を笑ったんじゃないんだ。可愛いなと…。」
「?」
「いやさぁ、だって田中くん、俺にヤられちゃったのにホテル代払おうとするとか、律儀というかお人好しというか。」
「だって、そもそも俺の具合いが悪かったから入ったんだろ?俺の為に入ったんなら俺が払うのが筋じゃないか。」
「えぇぇ…そういう理屈なんだ…男前。」
本條は面白そうに笑っていたが、不意に真面目な顔になって財布を持つ俺の手を両手で包んだ。
「それはカードで払うから、覚えてたら後日半分請求するね。」
「おう…頼むわ。」
覚えてろよそれくらい。
「でさ、やっぱ俺、田中君と付き合うよ。」
おおう…。
断言してきた。
それは良いとして、俺の意思は?
「いやぁ、でもさ。
1回勢いでヤっちゃったくらいで、そんなさ。」
昨日まで処女だった俺が言うセリフではないと思うが、言っとくぞ。
だって、どっから見ても遊び慣れた鬼モテイケメンが、たかだか1回抱いただけの平凡な男に惚れるとは思えない。
もし本当にそうだってんなら、それは気の所為だから早急に目を覚まして欲しいと願う。
だがそんな俺の願いも虚しく、本條はやけに真剣な顔で首を振って言った。
「ううん。そうじゃなくて。何か俺、やっぱ田中君の事、好きだ。」
「…ぁ、そう…?」
イケメンにそこまで何度も言われては、何だか申し訳なくなってきた俺は、少しの間付き合ってみる事にした。
取り敢えず付き合ってみればきっと本條も気が済んで、自然に飽きるだろうと踏んだからだ。
しかし、意外にも本條は俺を大事にしてくれた。
結局、あの日のホテル代の請求はついぞ無く、後から彼処はやっぱりなかなかお高い方のラブホだと知り青褪めた。
本條はイケメンなだけじゃなくて、裕福な家庭の息子で、その上優しかったのだ。とんだ高スペ彼氏だ。
体も程良く筋肉質で長身だからどんなお洒落な服だって似合う。
しかも待ち合わせなんかすると、そんな男が逆ナンなどに脇目もふらず俺のところに弾ける笑顔で真っ直ぐ歩いてくるのだ。それに何度ときめかされた事か…。
そういう男に、優しくされて好きだと言われ続けてたら、何時の間にか勘違いしてしまっても仕方ないと思わないか。
俺と本條が恋人同士であると。
俺がそう思い込んでいたのは俺だけの責任ではないと思う。
半分以上は思わせぶりな本條のせいだと思う。
しかも、寂しい離れたくな~い、とか言って夏休みだって実家に帰省させないとか…。な?勘違いするよな?
ま、良い勉強になったぜ。
イケメンの優しさに他意は無いんだって言うな。
まさか俺の、大学に入ってからの親友の方が本命だったとは気づかなかったが。
元親友、風祭 千歳(ちとせ)は、大学に入学したその日に話しかけられてからの友人だった。
学部学科も同じ、必然的に講義も被る。住んでる地域も近く。
そんな俺達が仲良くなるのに時間はかからなかった。
見た目も経済状況も、月とスッポンくらいには違うのに、何故かウマがあったのだ。
風祭は実家住まいだったから、俺が本條と出会う前はよく俺の部屋で勉強したり、一緒に飯を作ったりして、友人の中でも特別な存在だったというか。
好きなゲームも同じだったし、趣味がカフェ巡りなのも同じだったし。
とにかく一緒にいて楽しかった。
ここ迄で勘の良い皆様はお察しだろうが、風祭も頗るイケメンだった。
…イケメン…イケメンというか、美形、か?
こう、なんつーか…深窓の令嬢ならぬ令息って感じの、色白で儚げで物静か~な感じだ。見た目はな。
中身は負けん気が強くてやや短気。俺には優しかったが、他の人と言い合いをしてたのは何度か見た事がある。
基本的には人間に興味が無くて、自分自身のモテにも無頓着。
だから好きになる人達の風祭に対するスタンスは、触れずに愛でるって感じだ。
告白して鼻で嗤われた人が数人いたとかいなかったとか。
真実かどうか本人に聞いても、知らないな~って言ってたから、只の噂なんだと思うけど。
でもまあ そんな噂がある相手に玉砕覚悟で告る胆力のある人も、そういないよなあ。
それにしてもそんな風祭と、本條は何時から付き合っていたんだろうか。
もしかして俺より前からだったりして…。
でも…風祭は俺が本條と付き合ってたのを知っていた。
実際には俺のひとりよがりだった訳だが、取り敢えず関係性はともかく、付き合っていたのは知っていたのだ。
彼氏が浮気していたのを知ってて、大目に見ていた?(本命の余裕?)
それとも、俺が勘違いして浮かれていたのを2人で面白がっていたんだろうか。
……どっからどう見ても、自分達とは不釣り合いな俺が いい気になってるのを見て、2人はどう思ってたんだろう。
そんな卑屈な考えが浮かんで、俺は再びクリスマス・イブのような憂鬱な気分になった。
……やっぱブロック解除はやめとこう。
自意識過剰と思われても、万が一があるからな。
俺はスマホを見つめて溜息を吐いた。
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