身の程を知るモブの俺は、イケメンの言葉を真に受けない。

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2 元カ……セフレ、本條 和生。

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実は俺は半年前迄はまっさらの処女だった。
女子とは付き合った事もないから童貞は継続中。

今は元カ…いや、彼氏じゃなかったか。えーと…この場合何て言うんだ?浮気相手?
…いや、そうするとまるで俺が浮気したみたいだな。却下。

えーと……セフレか?
ていの良いセフレか。
じゃあ、元セフレでいっか。

数合わせで出席した合コンで、アリのように群がる女子達をスルーして何故か俺の横に陣取ったのが元セフレの本條 和生(かずい)である。
誰だこいつ?と思って適当に合わせて話していたんだが、知らぬ間にドリンクが違うグラスになっていて、口をつけてしまってから不味い、と気づいた。
その一口が命取り。

後から合流する筈だった元親友が来た時には既に俺と本條は居なかったというから、俺はものの1時間もその席にいなかった事になる。

目を開けたら初ラブホの天井とか笑えない。
頭と尻の穴がしこたま痛かった。

横に気配を感じて顔を向けるとどえらいイケメンがスマホを弄ってたんだが、頭がぼうっとしてて それが合コンの席にいた本條だと気づくのに時間がかかった。


「あ、目覚めたんだ?」

「……。」


いやもう頭ズキズキするんだが。正直言えば、頭と尻だけじゃなくて何故だか腰も足も痛いし首も乳首も内股もちんこも痛い。つまりどこもかしこも痛い。
こめかみを押えて俯いた俺に、本條は言葉をかけてきた。

「大丈夫?お酒、あんま得意じゃ無かったんだね。俺のを間違えて飲んじゃったみたいだから、俺が責任持って送ろうと思ったんだけどさ。
田中君、吐いちゃったから。」

「えっ、吐いた?!
ごめん!!」

俺は焦った。何てこった。
めっちゃ面倒かけとるがな…。
だが本條は何でもない事のように笑って首を振る。

「大丈夫大丈夫、服は無事だったし、直ぐ横にこのホテルがあったからさ。」

「…はあ。」

え、服が無事だったのにホテル入ったの?と俺は首を傾げる。
すると本條はにこりと笑った。

「田中君を早く休ませてあげたくて。」

「ああ、そう、なんだ…、ありがとう?」

「いいのいいの。」

吐いて具合いの悪い俺を休ませてやりたいと思ってくれたのはありがたいが、ホテルに入るほど切羽詰まって見えたのだろうか、申し訳なかったなと反省する俺。だが、それが本條に更に付け入る隙を与えてしまったらしかった。

「俺に頼りっきりな田中君があんまり可愛くて、つい我慢できなくって。俺こそごめんね。」

そう言いながら俺に覆い被さって来て、キスしてくる本條。いや、許可無く?

「……えー、っと…?」

「田中君、やっぱ処女だったんだね。嬉しいな。」

「……処女?」

男も処女で良いのか。
処男とかじゃなく。

いや今そこじゃない。

「……もしかして、ヤったの?俺達。」

体は十中八九そうだと訴えていたが、一応の確認の意味で聞いた。

「責任取るよ。付き合おうね。」

「…………。」


いや、いやちょっと待ってくれ、と俺は困惑した。
いや、初体験したらしいのに記憶に無い。
つーか結構何年もグジグジ幼馴染みに拗らせていたのに、ここに来て初見の男とセックスしたのか俺は。

酒の痛みとは別の頭痛が押し寄せて来た。

だがそんな俺の思惑を他所に、本條は俺をよしよしと抱き締めて言ったのだ。

「俺、田中君の事、好きになっちゃった。」

「…………。」


羨ましい程に軽いな。
イケメンはフランクにこういうお愛想も言えちゃったりするんだな。

しかしだ。
男は別に肉体関係=交際って考えな訳ではないので…。

「あー、んーと…責任とか、そういうのはいいよ。お気遣い無く。
酔って迷惑かけた俺も悪いし、それに酒の上での事だし…。」

「…へ?」

「忘れてくれて良いからさ。俺も忘れるし。」

本條のありがたい?提案を謹んでお断り申し上げてやった。
と言うか、実際覚えてないしな…残念ながら。
それに、幼馴染みの裕斗と離れて暮らしてみてわかったのだが、俺はどうやら男が好きって訳でも無さそうなのだ。裕斗がイレギュラーだっただけのようなのだ。
だからイケメンとヤれた、付き合えるラッキー!!
…とは、正直ならなかった。

しかし本條は何故かポカンとしている。
もう少し噛み砕こうか。

「そもそも俺、男だしさ。別に責任とか、考えなくて良いから。」

俺がそう言うと、本條は我に返ったように身を乗り出してきた。

「え?付き合わないの?」

「付き合わないよ?」

「な、なんで?」

「なんでって…、」

寧ろ何故、俺みたいなモブ(♂︎)に責任を感じるのか。

「本條にしたら、はずみだろ?たまたま酔っ払いの面倒見て、ラブホってシチュに何となくもよおしちゃったんだろ、セックスする場所だもんな、ここ。」

俺は部屋の中を見回しながらそう言った。

広い室内、大理石の床、やたらでかいベッド、壁掛けの大きなスクリーン、その前にあるガラステーブルとソファ。黒い革張りっぽいマッサージチェアにガラス越しに見える凝った作りと照明のバスルーム。

全体的に統一感のある落ち着いた雰囲気の色味や柄だが、ベッドカバーとかの一部が派手な金色や赤だったりして、何処と無くカタギじゃねー部屋だ。ラグジュアリーってこんな感じか?
ラブホは初めて見るけど、内装からして何となく高そうな部屋だな、と感じた。

本條はきっとこういう場所に慣れてるんだろうなあ、イケメン裏山。

「あ。ごめん本條、悪いけど水貰える?ちょっと体が痛くて。」

テーブルの上にミネラルウォーターのペットボトルがあるのが見えて、本條に頼むと、本條は無言でベッドを降りて取りに行き、開栓して何故か自分でそれを飲んだ。え、飲んだ。

俺が呆気に取られていると、本條はベッドに戻ってきて、俺を押し倒して口移しに水を飲ませてきた。

正直、げっ、と思った。

だって俺はその時、別に本條を好きではなかったからだ。
意識の無い内にセックスしたとは言え、意識を取り戻せば只の飲み会で知り合ったばかりの他人だ。
その上、未だ少しばかり裕斗への気持ちが残ってた頃だったし。
実を言うと、この1週間前くらいに裕斗が 土日を使って俺の部屋に泊まりに来た後だった。
単に、とあるイベントに行く為の宿に使われただけだったが、久々に会えて嬉しかったので、消えかかっていた恋心が微妙に戻ってしまっていた。 
だから余計に他の人間とこういう事をする事に、何故だか一方的に罪悪感を持ったってのもある。

裕斗は俺の幼馴染みでしかなくて、勿論体の関係も無い、にも関わらずである。


俺は本條の唇を押し退けて、その手からボトルを取り、

「ありがとう。」

とだけ言った。


本條が何を考えているのか全く理解出来なかった。



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