毒親育ちで余り物だった俺が、高校で出会った強面彼氏の唯一になった話 (浮気相手にされて〜スピンオフ)

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13 馴れ初めを知らされる(※軽微なR18描写あり)

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 部屋に入り、西谷が障子を閉める。鍵は無い。セキュリティとしては心許ないように思えるかもしれないが、日頃から西谷の許可無くは誰もこの部屋には立ち入らないから、そんなに気にする事もない。

 布団を端に捲った西谷のベッドに横たえられて、西谷から借りて簡易に着ていた寝巻きを脱がされた。
 飾り棚に置かれた間接照明の仄暗い灯りに浮き上がった素肌。

「…綺麗だな」

 西谷が、ほうっと感嘆を混じえたような声で言うから、途端に羞恥に襲われた。部活をやってきた西谷なら、着替えや何かで男の体なんて見慣れているだろうに。

「…貧相だろ」

「細いだけで、きちんと筋肉はついてる。綺麗な体だ」

 西谷は、俺のどんな部分もこうして褒めてくれる。そして、馬鹿正直なこの男が、決してその場のお世辞で言ってる訳じゃないのを知ってるから、聞いてる俺は照れ臭くなる。

「先輩も、脱いで」

 不公平、と俺が唇を尖らせると、西谷は苦笑しながら寝巻きを両肩から落とした。露わになる上半身。
 首が太いのは見て知っていた。服の上から見ても、分厚い胸をしているとも思っていた。でも、普段着ですらきちんと着ているものだから、鎖骨すら滅多に見えなかった。西谷と同じで、俺も西谷の肌なんて、服から露出している部分以外には見た事がなかったんだ。キスはしても、それ以上触れると歯止めが効かなくなりそうで、理性がセーブを掛けていたんだと思う。

 でも、今やっと見えた西谷の体は…想像を超えた完成度だった。盛り上がった胸筋、引き締まった腹斜筋、発達した三角筋。肌も滑らかで、まるで美術品のようだ。難しい事はわからないけど、西谷はこの年齢のα‬として卓越し過ぎている気がする。

 俺は思わず唸ってしまった。

「…すごく綺麗に筋肉ついてる…どんだけ鍛錬したらそんなになんの」

 鍛錬だけじゃなく、元々持つ‪α‬のポテンシャルもある筈だ。おそらく、俺が鍛えてもそんな風に筋肉を付ける事は出来ないだろう。純粋に羨んだ。

「俺のこの体は、余の為のものだ」

 西谷に言われて、胸筋に触れていた手を止めた。

「余は、きっと覚えてないだろう。でも、俺は余と会っている。中学2年に上がって、直ぐの頃だ」

「…何処で?」

「道場帰りに少し遅くなった事があったんだ。その時、何時も通る住宅街の外れの道で3人の高校生に絡まれた。夜だ。未だ‪α‬としては覚醒前で、体も小さくて力もなかった俺は只、怖くて震えた」

 西谷は元々体躯に恵まれていたんだと思ってた俺は少し驚いた。もしかして頑なに高校以前の写真を見せるのを拒むのはそれが理由だろうか。

「財布を出せと言われて、拒んだんだ。そうしたら、殴られた。何発も」

「ひっでぇな。カツアゲかよ…」

 ‪覚醒前だと、バース性なんて関係無い。幼い者は弱いし、より強い者に虐げられるのは珍しい事じゃない。でも、普通に考えて中学生を高校生が何人もで囲むのはどうなのだ。怒りに眉間に皺が寄る。

「でも、また俺を殴ろうとした高校生が、走ってきた誰かに飛び蹴りされてな」

「へっ?」

 思いも寄らぬ展開だ。何それ。

「しかも、その後他の2人にも見事な正拳突きと鉄槌を…。相手の急所を的確に捉えて最小限の力でのダメージの与え方を知っているようだった」

「へえ…」

「しかも、よく見ればその人も俺とそう変わらない体格だったんだ。なのに、俺を助けに飛び込んで来てくれた」

「すげぇな」

 俺は感心した。何処の誰かはわからないけど、その頃の西谷を助けてくれたそいつに感謝だな、と思っていたら、西谷がじっと俺を見つめて言った。

「赤く染めた髪が風に靡いて綺麗だった。どんな怖い奴かと目を凝らしたら、白い小さな顔が思いの外綺麗で、胸が躍った。細い首が、華奢な手首が、躍動する細い体が、只々、美しかった」

「…赤い…?」

 何だか…そのワードに何かを思い出しかける俺。

「その後、直ぐにその人の仲間が何人か追いついてきて、俺を脅していた連中は逃げた。でも、助けてくれた人も、直ぐに仲間と行ってしまった。早くお家に帰りな、お坊ちゃん、と言って」

「わ、わあーーー!!!」

 そこ迄聞いて、俺は全てを思い出してしまった。

『早くお家に帰りな、お坊ちゃん』

 それは、たまたまむしゃくしゃしていた時に、チビの中学生を囲んでた高校生の屑ヤンキー達を見かけて、コイツらなら殴っても合法な気がする…と気晴らしにノシた後に、中学生に吐き捨てた言葉だ。決して善意なんかじゃなかった。
 あの中学生男子は、俺よりも弱く見えた。体も細くて、顔はよく見えなかったけど、制服は有名私立のものだった。だから、お坊ちゃん、と言ったのだ。育ち良さげなこんな奴には、きっと優しい家族が待ってる家があるんだろうと、少しの皮肉を込めて口にした、あの言葉。

 恥ずかしい黒歴史をいきなり突き付けられ、俺は呆然とした。羞恥に胸がもだもだするぞ…。許されるなら今すぐ布団を頭から被りたい。だがそれは許されなかった。

 西谷は目を泳がせる俺の顎を掴み、自分と目線を合わせるように仕向けた。

「あの時は、ありがとう。
あと、一目惚れだ。心底惚れてる。‪あの時の余の姿が俺を強くしてくれた。
性別もバース性も知らなかったあの時から、余は俺のたった1人の人だ。もし高校で会えなかったとしても、一生捜し続けただろう。」

「あ、あ、うん…どいたま…うん…」

 だから、臭いセリフを流れるように吐くんじゃねえよ。熱烈過ぎるんだよ。
 胸の中で毒づきながらも、でも、嬉しい。
 嬉しいけど、恥ずかしくて何と返したら良いのかわからない。

「好きだ…胸が焦げそうなくらい、好きだ…余。
これからは、生ある限り俺が余を守りたい」

「…うん、ありがと。俺も好き…遼一」

 言って直ぐに、首筋に西谷の熱い唇が触れた。
 そんな所に、性的な意味合いを持って触れられるのは初めてだった。擽ったいような、もどかしいような。
 
「…ぁ、」

「余…お前を、喰らいたいほど愛してる」


 西谷の目が光って、俺の唇を柔らかく食む。

 乳首を掠める、西谷の指。
鎖骨を擽る、艶のある黒髪。

 甘い、官能を呼び起こす、男(‪α‬)の香り。


「…んっ!」

「首筋から、良い匂いが強く出てきたな」

「…遼一、も…」


 抱きしめあうと、胸と胸が密着して素肌の熱が伝わってくる。
鎖骨を食まれ、窪みに舌を這わされた。唾液の滑りがそんなに気持ち良いなんて、知らなかった。

 体の芯に、徐々に熱が点っていく。


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