毒親育ちで余り物だった俺が、高校で出会った強面彼氏の唯一になった話 (浮気相手にされて〜スピンオフ)

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7 西谷んちの犀川さん

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「おかえりなさい、坊ん。いらっしゃいませ、仁藤の坊ちゃん」


 立派な平屋の木造建築の家の玄関前で出迎えてくれたのは、なんというか……

 西谷を3倍くらい厳つくしたような、眼光鋭い40代半ばくらいの、ワイシャツとスラックスの上に割烹着を着ためちゃくそ体格の良い男性だった。
身長は西谷とそう変わらないけど、が、ガッチリ加減が凄い…。割烹着に何かの予感が過ぎる俺。まさか、な…。

「あ、はい…お邪魔します…」

「仁藤、犀川だ。犀川、こちらが何時も話している…、」

 西谷が俺のまさかをズドンと肯定して来た。やっぱりかよ。

「仁藤の坊ちゃん、お会いしとうございました。坊んが何時もお世話に」

 厳つい風体にそぐわぬ丁寧な所作でお辞儀をしてくれる犀川さんに慌てて俺も頭を下げる…が。

「…いえ、こちらこそ何時もお世話になってます…」

 ………思ってたんと違う…。

 しかし直ぐに我に返った俺は、持っていた和菓子屋の紙袋を犀川さんに差し出した。

「あ、あの…何時も美味しいお昼、ありがとうございます。これ、お礼です」

 何時も犀川さんが食べてるのと同じくらい美味しいだろうか?もっと高いの食べてたりして…。でも干菓子って小学校以来食べてないし、正直何処のも同じに見えるんだよな…と葛藤する俺。そんな思いで手渡した袋を、犀川さんは大きな手で大事そうに受け取ってくれた。鋭い目が細められて…どうやら喜んでくれてるようだ。

「ありがとうございます。こりゃあ嬉しい、百葉ですかい」

 それから指で袋の口をそっと開けて覗いて、

「大の好物です」

と、笑ってくれた。
 俺はびっくりした。親と同じような世代の大人に、そんな風に優しく接してもらった事があまり無かったからだ。滅多に会わない親戚の伯父だって厳しい表情しか見た事が無い。
 俺に無条件に優しい大人は、この世でばあやだけだった。そのばあやも、今じゃ何処にいるんだかわからない。何処か遠くにやられてしまったんだろうか。

(優しそうな人だ)

 西谷といい、犀川さんといい、人って本当に外見じゃないんだな、とつくづく思う。一見取っ付き難く見えても性格が穏やかで優しい人もいれば、どれだけ見た目が綺麗で万人受けする美形でも、温かい心を持ち得ない人もいる。俺の家族達のように。



 よく磨かれた廊下を進んで通された和室は掃除や手入れが行き届いていて、何だかソワソワするくらい清浄な空間に思えた。エアコンが効いてて、真夏の外を歩いて来た汗がスッと引いていく。

「こちらにお座りになってて下さい。直ぐにお飲み物を」

 犀川さんはそう言って、直ぐに何処かへ行ってしまった。

「仁藤、そこ座ってくれ」

 西谷がそう言ってくれた席の座布団の上に腰を下ろした。廊下側の障子は下半分がガラスになっていて、その向こうの縁側もガラスだから庭が良く見える。
床の間に飾られてる掛け軸に書かれてる文字はちょっと書体的に読めないけど、値打ちがあるものなのだろうか。欄間は透かし彫りとかは無くてスッキリしてて、妙にその辺に贅をこらしていた祖父の家に嫌な思い出しか無い俺にはこの飾り気の無さが逆に落ち着く。
 でも俺、よくわからないけど…この床柱?だかの材質とか、この家って多分かなり…と考えたところで犀川さんがお盆を持って戻って来た。

「お待たせしました。お茶どうぞ」

 そういいながら座卓の上に盆を置いて、俺と西谷の前に茶托と湯呑みを置いて急須から茶を注ぐ犀川さん。ほかほかと湯気が立つ。

「中、少し寒いでしょう?エアコン温度調整しておきましたから」

「ありがとうございます」

 あ、なるほど。室内に入っていきなり冷えたから熱いお茶って事か。

「坊ちゃん達みたいなお若い人らには、お茶より別の飲み物が良いんでしょうが、それはまあ、食後に」
 
 犀川さんはそう言って唇の端を上げた。笑い方がいちいちニヒル。多分本人達は普通に笑ってるんだろうけど、俺も西谷を見慣れてなかったら怖いと思ってたかもしれない。

「ありがとうございます」

「お昼ご飯、もう少しでお出しできますから」

  犀川さんはそう言ってまた廊下の向こうに姿を消した。足音が消えたのを見計らってから、俺は西谷に言った。

「犀川さん、男の人だったんだな…」

「ああ、…あれ、言ってなかったか」

「聞いてねえよ」

 すると西谷は、ゴメンと言った後、腕を組んで何かを考える素振りをしてから、こう言った。

「犀川には俺が赤ん坊の頃から世話になっている。そうだな……仁藤のばあやさんみたいなものだな」

「ばあや」

 いや、確かに俺もそのイメージで来てたけど、俺のばあやとはあまりに違い過ぎた。ギャップに心構え持つ前情報が欲しかった。

「まあ、見た目はああだけど、ばあやさんと思ってくれて構わない」

 そう言って、ニコッと笑う西谷。

「ばあやだと…思って?」

 何て無邪気に無茶を言い出すんだ、西谷。
 犀川さんが良い人なのはわかるが、ばあやだと思うには俺には少し…いや、かなりハードルが高い。

 そこに体躯には不似合いなくらい静かな足音が聞こえてきて、再び犀川さんが今度は大きなお膳を持って現れた。

「さあさあ坊ちゃん達、ご飯ですよ」


 ……あ、うん。まあ確かにばあやかな。


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