ゆきげのこえ

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12 弥音 12(※R18描写あり)

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 部屋の隅に敷かれた褥に弥音を押し倒すと、顔の右側を覆い隠していた髪が流れて痛々しい痕が露わになった。それを恥じて、醜いからと隠そうとする弥音の手首を良寿郎は柔らかく抑えて言った。

「わざわざ隠さなくて良い」

「でも…こんなものを見たら、あにさまの気が滅入ってしまう」

「そんな事はないから気にするな」

「でも…」

 申し訳なさそうに顔を背けた弥音の頤を、良寿郎は手で掴み自分に向かせる。

「良いと言っている」

「…はい」

 男の体を抱いてくれというだけでも申し訳ないのに、と弥音は思った。その上醜い痕を見せてしまえば、せっかく良寿郎がその気になってくれても、心身共に萎えてしまうのではないかと危惧したのだが、しかし本人がそこまで良いと言うのなら、大丈夫だろうか…。
 押し負けた弥音はおそるおそる、顔から右手を外した。
 すると良寿郎は、再び露わになった弥音の痘痕に口付けた。当然、そんな事をされたのは初めての弥音は、驚く。

「あにさま、やめ…」

 また顔を背けようとしたが、頤にかけられたままの良寿郎の手がそれを許さなかった。

「俺は本当の弥音が美しい事を知っているし、この痕はお前が病と戦って勝った証だというのも知っている。だからお前はこの痕を恥じる事など無いんだ」

「あにさま…」

 良寿郎の静かな声が言葉を紡ぐ。

「和も…、おじさんもおばさんも、幼い妹も、じいさまもばあさまも…家族みんなに死なれて、弥音がひとりで必死に生きてきてくれた事を知っている。小さな頃からたくさんの家族に囲まれて育ったお前にとって、それがどれだけ淋しく辛い事だったのか…俺には想像もつかない…。
いっそあの時死なせてやっていれば良かったのかと思った事も、幾度かあった」

 梁に縄を掛けた自分を間一髪で救った良寿郎がそんな懊悩を抱えていたとは知らなかった弥音は驚いた。良寿郎が弥音を止めた事が正解だったのかわからず、そんなにも悩んでいたなんて。
 
しかし、確かに、と弥音は思い返す。

 あの時、殆ど片足を幽界に踏み入れていたところを引き戻されて、弥音も戸惑った。引き戻してきた相手が良寿郎でなければ、その者が帰った後にとっとと命を断ってしまっていただろう。生への絶望だけを抱えて…。
 けれど、あの時踏みとどまったからこそ、今こうして良寿郎の腕の中に居る。彼への想いを遂げて、明日、命を捧げるその瞬間も幸せ冷めやらぬままに逝く事が出来るだろうと弥音は信じている。だから…。

「あにさま。あにさまがあの時止めてくれたのを恨めしく思った事もある。でも今、俺は幸せだ」

 そう言って儚い微笑みを浮かべた弥音は不憫で、哀しくて、たまらなく愛しく、良寿郎は彼の唇にそっと口づけた。
 

 男の抱き方は事前に禰宜の一人が丁寧に説いてくれたが、果たして聞いた通りにできるのか良寿郎は不安だった。
 褥の横に用意された盆の中には、行灯のあかりに照らされた紙切れのようなものが幾つも見える。交合の際にはそれを口の中に含み、唾液でふやかしてとろみをつけて使うのだと教えられた事を思い出し、顔が熱くなる。それと同時に、陰茎と睾丸がくんっと重くなった気がした。
 良寿郎は、弥音に苦しい思いをさせずに抱きたい。その為には、自分の快楽よりも弥音の反応に気を配らねばと思うのに…、何処を触っても小さく漏れる嬌声。

 我を忘れるなと言う方が無理で、良寿郎は弥音の細い肢体に溺れるように愛撫を与えた。

 首筋を吸い、ちいさな淡い色の乳首を夢中で舐めた。腋も腕も指先も、臍のくぼみも内股も太腿も、脛や足の指、その爪先まで、丁寧に舐めしゃぶった。
 そして、期待に震えながら先端にぷっくりと涙を滲ませている、弥音の陰茎に舌で触れた。

「ああっ…あにさま…そんな、そんな…あ…」

 弥音の声色が一際艶を帯び、良寿郎の男根が硬さを増す。
 亀頭を唇に含み、裏筋を舐め上げ、全てを口内に収めてじゅぷじゅぷと唇で扱くと、刺激に慣れていない弥音はあっさりと良寿郎の喉に精を放った。

「ぅあ…っ!!」

 反らした白い喉からか細い悲鳴を上げて気をやった弥音の精液を、良寿郎は喉を鳴らして飲み下す。

 でも、まだだ。

 ぐんにゃりと蕩けたように見える弥音の体だが、肝心の場所にはまだ触れていない。
 
良寿郎はくにゃりと脱力して肩で息をする弥音をうつ伏せにして、腰を持ち上げて膝を立てさせ、その双丘を両手で割った。そこにある小さな窄まりは、汗なのか弥音の陰茎からの先走りが下たり落ちたのか、既に濡れたように艶めかしく蠢いて見えた。

 ごくり、と良寿郎は喉を鳴らす。
 馬鹿な、と思う。そんなところを見て劣情を煽られるなんて、考えた事すらなかった。此処に来るまで、弥音を抱いてやれるのか案じてすらいた。
 なのに、どうだろう。
 いざ抱き合ってみれば、良寿郎の体も頭も、次にどうしたら弥音が悦ぶかを知っていた。まるでずっと以前から、彼とこうする時を待っていたかのように自然と体が動く。
 
 羞恥に震える窄まりに舌を伸ばした。
 
「あ、いやっ、や、…あ…ん…」
 
 力無い抵抗の声は、良寿郎の舌が動く度に小さくなり、吐息混じりになっていく。暫く舐めて、舌を差し入れていると少しシワがふやけたようだ。良寿郎は弥音の尻から顔を離し、盆の上に用意されていた紙切れを指で摘んで口に含む。温かいだ液にたちまち溶けていく、和紙に塗られたぬめり。
 暫し含んで頃合いを図る。
 間も無く手のひらにそれを出した良寿郎は、そのとろみを弥音の秘部に塗りたくり、ぬめりの力を借りて指を差し入れてみた。当然、最初から上手く飲み込む筈もなく、弥音は体を強張らせる。しかし数回、ぬめりを作って慣らす事を試みる内に、強張りは解けていった。

 そうして、慣らし始めて半時も経った頃、弥音の体はようやく良寿郎の昂りを受け入れる事ができた。

「あにさま、すき…あ、すき…ああ……しあわせ…しあわせだ…」

「弥音…弥音…」

 良寿郎は弥音との交わりのあまりの甘美さに、腰の動きが止められなかった。
 優しく優しく、こわれものを抱くようにしようと思っていたのに、ちっとも自分を抑えられない。
 弥音が愛しい。健気に自分を想ってきたという、薄幸の青年。彼の事は、ほんの赤ん坊の頃から知っている。ずっと弟のようだと思い可愛がってきた。それが何時の間にか、こんなに美しい青年になって、まさか自分と情を交わす日が来るなんて想像もしなかった。
 
 でも、こうなってしまって初めて思う。

 弥音を離したくない。離したくない。離したくないと心が悲鳴を上げる。

 しかしそれは叶わない事なのも、わかっていた。




 そうして、2人にとって最初で最後の一夜が明けた翌日。

 弥音は予定通り、柱に括り付けられて水神の棲むと言われる暴れ川の淵に沈められた。
 声も無く、ただ静かに呼吸を奪われながら。

 諦め切れずに追い縋ろうとして村人達に制止された良寿郎の目の前で。


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