ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる

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38 皇城だより 初めてのお外

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息せき切る宇城なんて初めて見た。しかも超満面の笑み付きって。どーしたお前…。

「七晴さん、お出掛けしましょう!!」

「えっ?」

腕を広げて上機嫌な宇城。1人かと思ってたら後ろからたまに見る、三十代半ばくらいの侍従っぽい人が何か荷物を肩通りに持って入って来た。いや何故そんなキツそうな持ち方を?どっかに供え物なのか?


「み、皇子様…、お速い…。」

…気の毒に、息切れしてるじゃないか。一体宇城は何処から走って来たんだ。年齢差による体力値の違いを考えてあげなさい。

「七晴さん、動き易い服を持って参りましたよ。さあ、お着替えになってください!枝原!」

「は、はい!」

「は、きがえ?」

宇城がじ…枝原さんの名を呼ぶと、枝原さんが下にも置かぬ扱いで持ってる何かをとうとう頭上に捧げ持った。マジで供物?
ぜえはあ言いながら俺の座ってる横のテーブルにそっと荷物を置く枝原さん。何かすいません。

「どうぞ、桐原様。」

深く礼をして後ろに下がる。

(袋?)

横流長方形の、オレンジ色の大きな紙袋。紙袋なのにいやに高級感出してくる、某ブランドのショッパーっぽい感じだ。

「さあ、お着替えを!」 

「わ、わかったって。」

急がせるなよな…と思いながら金色の口留めシールをそっと剥がす俺。白い薄葉紙に包まれた品物を両手で取り出して、開ける。

「あ、シャツ…。」

包まれていたのは淡いミントグリーンのスタンドカラーのてろんと光沢のある素材のシャツと、黒いパンツ。シャツはオーバーサイズっぽいけど、こういうものなのか?
ふと、最初に公園でこっちの世界の俺に遭遇した時の事を思い出した。確かあの俺も、白くて大きめで、ヒラヒラしたシャツ着てなかったっけ…。
俺はシャツの両肩を両手で摘んで掲げ、じっと眺めた。あの俺の着てた服がギリシャ風ならこっちはチャイナ風だ。良かった。でも気になるのは、こっちって今こういうでっかいサイズ感で着るのが流行りなの?って事だ。
じっ、とシャツを眺めたまま着替えようとしない俺に、宇城が話しかけてくる。

「お気に召しませんか?」

「いや逆。ナイスチョイス。」

「?ありがとうございます。」

「ありがとう。これ選んでくれてマジでありがとう。俺の趣味にピッタリだわ。」

助かった。ヒラヒラじゃなくて助かった。
色もデザインもごちゃついたのは苦手だ。
それ以前に、この歳の男の分を弁えないヒラヒラは、着る方も見る方も、等しくきついからな…。
宇城は俺の答えに、そうですか、と微笑んだ。

「それなら良かった。七晴さんには落ち着いたスタイルの方が似合うと思いまして…。」

…俺には落ち着いたスタイルが似合うと思ったと。じゃああの俺には誰が服を選んでいたんだろうか?やっぱり宇城?それとも侍従かメイド?

…いかん。気になる。

「前の俺にも、宇城が服を?」

つい、聞いてしまった。
宇城は薄いレンズの奥の目を丸くして、いえ、と言った。

「桐原先生はあば…、…少しばかりやんちゃな方でしたからね。もう少しくらいはお淑やかにと、隠月が。」

「隠月が。」

ぐるん、と少し後ろに離れて立っている隠月を見ると、ややドヤ顔でこくりと頷いた。

「……そっか。」

何かあの俺、思ってた以上に可哀想。





1時間後、新しい服に身を包んだ俺は外に居た。正しくは、街中を走る黒塗りの車の後部座席から宇城と一緒に外を眺めている。
皇城から外に出る迄に少し時間を要したのは、宇城に付いている護衛部の打ち合わせの為らしい。
大変だよね、雇用主に予定外のスケジュールぶち込むっつー無茶振りかまされるとね。短時間で警備体制整えて走行ルート決めなきゃなんないんだろうな。俺のせいも多分にあるから、何だか申し訳ございません。

(やっぱり街並みが全然違うな。)

高さ制限で規制され、3階迄が最高だという建築物ばかりの並ぶ街並みは、何か物足りなく頼りない。
せめて5階とかくらいあってよくない?皇城は極端に天高く聳え過ぎてるし、バランス悪くない?

何だかな~と思いながらも、見覚えのある建物や店も幾つか見えて、共通点を見つけては内心喜ぶ俺に、宇城は意外な事を告げた。

「今夜はこの付近の神社の宵宮なので一日中色々な出店が出ているのだと、枝原が。」

「え、宵宮?お祭り?あ…そっか、神社とかは大昔からあるんだもんな。こっちでも同じなのか。
てことは、伏龍神社か。」

俺が呟くと、宇城が頷きながら言う。

「明日が本宮祭です。」

「そっかぁ。」

近々外出に連れてってくれるとは言ってたけど、まさか祭りに連れ出してくれるとは思っていなかった。

「日が暮れてくると灯りが点いて賑やかになるそうです。だから日のある内は七晴さんが行きたい店を回りましょう。欲しい物は?」

そう言った宇城も、心做しか楽しげだ。服装も普段の地味っぽく見えて実はお高そうな刺繍の服ではなくて、その辺にいる少し良い家の子、みたいな…つまり、一般庶民に紛れてしまいそうな黒いシャツにパンツ。どうやら宇城は皇子としてゾロゾロ護衛に護られながらではなく、一般人に紛れながら外出を楽しみたいようだ。とはいえ、私服SPが運転する車両は宇城と俺が乗る車を挟んで前後に走行しているし、降りてからも人知れず数人が囲みながら進む段取りになっているとか。
た、大変ですね…。(2回目)
 
警備の皆さんの気苦労に思いを馳せながら唇の端を引き攣らせていると、不意に宇城が口を開いた。

「実は私も、夜の祭りなどには一度も行った事が無いんですよ。」

「そうなんだ?」

「高等部に上がってからはある程度自由になったんですが、一人だと行く機会も無くて。」

「あー、まあぼっちだとつまんないよね、きっと。」

「でも、これからは七晴さんが居てくれるんですね。」

その言葉に思わず右横を見た。そこには穏やかな微笑みを浮かべた宇城。

「…うん。」

俺はその笑みに誘われるように、自然に返事を返してしまった。








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