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31 先生のお世話 (現・宇城side)
しおりを挟むそういえば…。
「先生、リュックの中身って、全部チェックしました?」
俺はそろぼち帰りの時間を見ようとトートバッグの中に手を突っ込んだ時に気づいてしまった。
「こういうの、入ってませんでした?」
取り出したスマホを、片手でひら、と翳しながら聞く。
そうなのだ。伏せっているから弄る機会が無いのかと思っていたが、あの夜駅前で遭遇した時からずっと、先生がスマホを触っているのを見ていない。
テーブルの上にはモバイルが置いてあり、検索に使用した形跡はあるが、スマホは見ていないのだ。
だが今、入れ替わったという話を聞いて、もしやスマホはあっちに行った方の先生が持ちっぱなしなのかと思った。
だとしたら少し不便だろうな。決済や交通系ICカードとかは別に現金があれば問題ないけど、各方面からの連絡手段として…。
先生は俺のスマホを見て、
「無かった。多分、あっちにそのまま持ってってる。」
と言った。
やっぱりそうか、と思う。
なら、紛失したか何か理由をつけて解約するかして、新しく必要だろうな。
この世界で生きるなら。
「取り敢えず、それは早急に何とかしに行きましょう。」
先生は頷いたが、この世界は少し不便だな、と小さく苦笑した。
「取り敢えず、明日はどうします?学校へ行けば授業をしなきゃいけないと思いますけど、出来そうですか?」
俺の言葉に、先生は少し悩んでいるようだった。そして、
「授業は、出来ない事は無いと思う。一応は俺も教職だからな。指導要領さえ読めば何とかなる。
ここに来た夜に全部チェックしたけど、あいつは几帳面できちんとクラス毎の進行具合いも…。」
と言った所で、先生はふと言葉を止めた。そして、にへっと笑いながら言った。
「俺、学校の場所、知らないんだった。」
「…出勤前にお迎えに来ますね。」
…俺がしっかりサポートしなければ。
翌日、俺は朝6時に先生宅を訪れた。
早目に来て良かったと思ったのは、玄関に現れた先生が未だ起きたばかりの寝ぼけまなこだったからだ。
先生がシャワーをしている間に、俺は衣類の引き出しをあちこち開けて、下着(!)と、先生が何時も着ているようなワイシャツとスラックス、ネクタイにベスト、靴下をベッド上に揃えて、万が一にと作って来ていたサンドイッチを皿に載せ、コーヒーを入れた。
此処から学校はさほど遠くはないが、普段の先生達の出勤時間を考えれば、遅くとも7時には出なければならない。
以前の先生を見ていても帰宅時間も遅いようだったし、何だか教師ってハードスケジュールそうだけど、大丈夫なんだろうか?
そう考えながらコーヒーを入れていると、先生がバスタオルを頭から被りながら浴室から出てきた。
「ごめんな、昨夜もあんな時間に帰ったのに、今朝もこんなに早く…。」
髪の滴を拭きながら下着も着てない状態で、キッチンに立つ俺の所に歩み寄ってくる先生。水滴を載せた白い肌に頼りない鎖骨、ピンクの乳首と大事な所を揺らしてるの、セクシーが過ぎる。
「…あ、ごめん。」
俺の顔に熱が集まったのに気づいたのか、全身をバスタオルに隠して、着替えのあるベッドに向かって歩いていく先生。
いやもう遅いんですけど。
そして次に先生が発した言葉に耳を疑った。
「宇城といる時は基本マッパってのを義務付けられてたからさぁ…。」
「…。」
なんつー野郎だ、あっちの俺め。羨ましい。
先生がタオルをフローリングに落として、下着にすらりとした足を通し、ワイシャツを羽織る。ボタンを留めていく繊細な指先。スラックスを履き、ベルトを締めた腰の細さ。
衣類を身につけていく工程のひとつひとつが、こんなにもエロチシズムに満ちているものだったなんて、俺は知らなかった。
脱いでいくのとはまた別の興奮がある。
美しいものを、他人の目から少しづつ覆い隠していく場面に立ち会えたという、昏い愉悦。
(こんな歳でとんだ変態趣味に目覚めてしまった…。)
そんな気持ちになったけれど、こんな人が相手ならそれも仕方ない事だと自分を慰めた。
実際、違う世界の俺だって、この人相手にかなり狂わされてたようだもんな。
この、先生…切原 七晴と言う人には、どんな方向であれ人の感情を揺さぶる何かがある、と思わずにはいられない。
「サンドイッチ美味い、ありがとう。これからはこういうのもちゃんと払うから。」
コーヒーに口をつけ、サンドイッチを食べながら先生は俺に言う。
大人だから、生徒に世話になりっぱなしなのはどうしても気になるのかもしれない。
「わかりました。じゃあ、次から。」
俺がそう了承すると、先生はふっと笑いながら、
「…じゃあこれ迄の分は、その内何かご馳走するな。」
と言った。
食べ終わったら、髪を乾かしてあげますね、先生。
こんな風に貴方のお世話を、生涯俺だけが出来たら良いのに。
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