ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる

Q.➽

文字の大きさ
上 下
25 / 38

25 高校二年、宇城 三環 3

しおりを挟む

 ユーグリッドとレオンが結婚して番になったのは三年前だ。

 18歳で上級学校を卒業し、レオンはすぐにクリスタニア家の研究所員となった。学校でも無事に生活し、Ωであるという認識が、危機感が無くなっていた。薬でフェロモンも発情期もコントロール出来ていると思っていた。
 その過信が良く無かった。
 セルトレインのように少なくとも番を作ってから勤めればよかったと、後悔しても遅い。

 レオンは研究所内で予期せぬ発情を迎えた。

 二週間前に発情期は終わっていた。三か月周期のそれが起こるはずがなかったのだ。
 混乱した。
 とにかく一緒に居たβの研究員に両親のどちらかを呼んでもらうようお願いして、身を隠せる場所を探した。

 番のいるΩは不特定多数のαを惑わせるフェロモンを出すこともなければ、番以外のαから発情を誘発されることもない。だが番のいないレオンのフェロモンは不特定多数のαを惑わすし、αからの発情期の誘発も受けた。

(誰かがΩを発情させようとしたのかな?)

 誤ってそれが自分に起きてしまったのかもしれない。
 第二性を扱う研究の多い場所だ。αも多いためその扱いは慎重に行われているが、番のいないΩの研究員はレオンだけだった。
 そもそもΩの研究員は数が少ないので、今までの設備ではこういった抜けが出来てしまっているのかもしれない。

(原因追求はとりあえず後回しだ。今は隠れないと……)

 他の研究員、特に優秀なαに迷惑がかかってしまう。
 そんな突然の発情期や、αの傲慢にΩが利用されないよう、カトラシアは法律で建物内に一定間隔でΩが逃げ込める避難場所を作る様に定められている。
 それらは不備がないように、抜き打ちで国家組織が点検をするくらい徹底したものだ。

 研究所にもΩが避難できる場所があることを小さい頃から出入りしているレオンは当然知っていた。
 だが、その入り口のことごとくにαがいた。

 そのうちの一人の顔を見た時に、数日前の会議を思い出す。

(そうか! 俺は実験に利用されてるんだ!?)

 今、レオンは首にフェロモンの消臭が期待できる素材で作ったネックガードを嵌めている。その素材の効果をどのように確認するか、先日話し合っていた。この技術が進めば急なΩの発情が起きても、理性を失ったαに襲われる確率はさらに下げることができる。

 番夫婦に頼んで発情期に検証してもらうということで決まったが、その話し合いの中で「番ったΩではフェロモンが変わってしまっているから、番ってないΩで試さなければ意味がないんじゃないか」という意見も出た。
 
 十数名居た会議室の中、数名のαがレオンを見た。その視線にゾワリと背筋が凍る。αの威圧を感じたからだ。

「それは時期尚早だろう。番のいるΩで効果の確認が取れてからでなければ無駄な実験になる」

 そのレオンにとっては気持ちの悪い空気を吹き飛ばすように、静かな声が会議室に響く。会議に参加している中で一番上役であるユーグリッドが否と言えばその話は無効になった。
 会議の後、せっかくだから使ってみたらどうかとβの研究員に渡されたネックガードを、レオンは身に着けていた。

 実験をするにしても、Ωに手出しが出来ないようにαを拘束した状態で行ったり、フェロモンに影響を受けないβを同席させるべきだ。
 もしネックガードの効果がなく、発情中のΩのフェロモンが作用してしまえばαは欲望を止めることが出来ない。発情し運動機能を低下させたレオンにも抗う術がない。

 そんなことは考えたくなかったが、避難場所に行ったが最後、どうなるか判ったものじゃない。

 研究所内でレオンは顔は悪いが優秀なΩと認識されていた。
 αばかりの学校を優秀な成績で卒業した事実は大きい。

 顔が悪くて魅力が無かろうが、番のないΩのフェロモンはαを強制的に発情させるのだ。レオン相手でも発情し、優秀な子どもを産ませることができる可能性は高い。

(いやそんな事じゃなくて、ネックガードの効果実験……だ、間違いない)

 自分が狙われるなんて思えなかったが、震える身体を叱責しながらどうにか足を進める。
 フェロモンを消臭するネックガードはきちんと効果があったのだろう。αに捕まることなく、気付けばユーグリッドの執務室の前にたどり着いていた。

 扉をそっと開ければふわりと大好きなユーグリッドの匂いがする。
 レオンはふらふらと室内に入り執務机の足元のスペースに身を隠した。そのままユーグリッドの匂いの濃い椅子へ頭を乗せる。

 レオンの記憶がはっきりしているのはここまでだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

さよならの合図は、

15
BL
君の声。

陛下の失われしイチモツをみつけた者を妃とする!………え、ヤバいどうしよう!?

ミクリ21
BL
主人公がヤバいことしてしまいました。

生徒会長の包囲

きの
BL
昔から自分に自信が持てず、ネガティブな考えばっかりしてしまう高校生、朔太。 何もかもだめだめで、どんくさい朔太を周りは遠巻きにするが、彼の幼なじみである生徒会長だけは、見放したりなんかしなくて______。 不定期更新です。

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

お前ら、、頼むから正気に戻れや!!

彩ノ華
BL
母の再婚で俺に弟が出来た。義理の弟だ。 小さい頃の俺はとにかく弟をイジメまくった。 高校生になり奴とも同じ学校に通うことになった (わざわざ偏差値の低い学校にしたのに…) 優秀で真面目な子と周りは思っているようだが…上辺だけのアイツの笑顔が俺は気に食わなかった。 俺よりも葵を大事にする母に腹を立て…家出をする途中、トラックに惹かれてしまい命を落とす。 しかし目を覚ますと小さい頃の俺に戻っていた。 これは義弟と仲良くやり直せるチャンスなのでは、、!? ツンデレな兄が義弟に優しく接するにつれて義弟にはもちろん愛され、周りの人達からも愛されるお話。

初恋

春夏
BL
【完結しました】 貴大に一目惚れした将真。二人の出会いとその夜の出来事のお話です。Rには※つけます。

婚約破棄をしようとしたら、パパになりました

ミクリ21
BL
婚約破棄をしようとしたら、パパになった話です。

目覚ましに先輩の声を使ってたらバレた話

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
サッカー部の先輩・ハヤトの声が密かに大好きなミノル。 彼を誘い家に泊まってもらった翌朝、目覚ましが鳴った。 ……あ。 音声アラームを先輩の声にしているのがバレた。 しかもボイスレコーダーでこっそり録音していたことも白状することに。 やばい、どうしよう。

処理中です...