23 / 38
23 高校二年、宇城 三環 (現・宇城side)
しおりを挟む俺の好きな人は先生だ。
通ってる高校の、担任教師。そして、男。
どっからどう見ても、男。
でも綺麗。顔の造作が俺好み。
二年に上がって最初に見た時には凄く静かな人だなと思った。元々そうなのか、仕事用の顔なのかはわからない。
何時もワイシャツにネクタイ、スラックス。カーデは羽織ったり無かったり。
生徒達にも結構人気。
…まあ、男子校だから、それが嬉しいかは微妙。
でも告白されてたってのは何度か聞いた。
男子校つっても全寮制でもないんだし、一歩外に出たら女の子はいるのに何で男に走るんだろうな。
俺だって最初は、そう思ってた。
「宇城、あの さ…。
…ちょっと話さない?」
新しいクラスに少し馴染んできたある日、帰ろうとしたら先生に呼び止められた。
え、指導室とか?
俺、何かしたかなあ、と不思議に思って先生を見てたら、困ったように眉を下げた。
先生、そんな顔するんだ。何時も澄ましたような顔してるからわからなかったな。
そう思ってたら、先生は益々困ったように俺を見た。何か気の毒になって、黙って頷いた。そしたら何故か視聴覚室で話すことになったんだけど、妙な質問ばかりされて困った。
何か悩みはないかとか、仲の悪い生徒はいないかとか、今何か困ってないかとか。
どういう意味だろう、と首を捻って考えてみたけど、よくわからなかったから、俺の答えもイマイチ噛み合ってなかったんだろう。
その一週間後くらいに、またお誘いがかかって、今度は一緒に昼食を食べた。
先生もあまり口数が多い方じゃないみたいだし、俺も馴染んだ人相手じゃないとあまり喋らないから2人とも無言の時間が多くて、黙々と食事だけが進んだ。
結局、その日もろくに話さないまま解散したんだけど、それから俺と先生は、顔を合わせるとちょくちょく話すようになった。
俺はかなりの人見知りだけど、別に寡黙な訳じゃない。両親が亡くなってて叔父の家に厄介になってるから、それを知った人の目には境遇フィルターがかかって苦労してるように見えるらしいが、実際には叔父とは年の離れた兄弟みたいなフランクな関係だし、祖父母と同居して介護をしてる伯母夫婦の手伝いにもたまに行ってるから、そっちとの関係も悪くない。
中学迄がちょっと悪かったから、高校ではクソ真面目に挽回を図って、好きだった絵をやってこうと美大を目指す事にした。見た目も出来るだけ地味にして頑張ってるんだけど、それを面白く思わない昔のツレもいる。
多分、中学の時振ったのを根に持ってるとこもあるんだろうけど、喧嘩を吹っ掛けてくるというよりは未だに拗ねてて文句を言ってくるだけだ。
友達なら良い奴なんだ。
だけど、顔がな。顔がタイプじゃない。
俺と同系統の、アッサリ塩顔。何が悲しくて自分と似たようなのとくっつかなければならない。
俺の好みは目鼻立ちのハッキリした美人だ。
でも、だからと言って、欧米人のように迄はアクが強くなくて良い。その辺はもう少し主張し過ぎなくて良い。程良いバランスが大事なのだ。
その点、先生のパーツバランスは俺的には完璧だった。
色白の小顔にクリっとしているけれど大き過ぎない目にスッキリ通った鼻梁、薄くて形良い唇。
サラサラの茶色の髪は、少しくらい伸びても清潔感が損なわれたりはしない。
顔が良いからだ。
そして、何時も仄かに柔軟剤なのか洗剤なのか、良い香りがする。
変な整髪料とか妙な香水とか、勿論煙草の匂いなんかしない。
なのに、こんな人なのに先生は、身長はそれなりにあるのだ。175の俺と同じくらいはある。いや、もしかしてもう少し先生の方が高いかも。しかし身長はあるけれど、細い。
そしてその理由は、先生を見ていればとてもよくわかる。
先生の弁当は、大抵何時も手作りらしい、ラップに包まれた小さな三角おにぎりが2個だけだった。中身は鮭の切り身か、無。無だ。
面倒なのか時間がないのか、そんな日は見てしまった俺も物悲しくなり、食欲が落ちてしまう。
たまにバランス栄養食だとか言う黄色い小箱だけの時は驚愕を隠し切れず悲鳴をあげそうになって手で押さえたくらいだ。
先生。どうしたんですか先生。
あんなにもしっかり働いてらっしゃるのに何故そんなにも食生活が貧しいのですか。
借金でも抱えてらっしゃるんですか。
悪い女か男に騙された過去でもお持ちなんですか。
考えたらキリがない、気になって仕方ない先生の私生活。
何時の間にか俺は、先生を目で追わなければ日も夜も明けぬようになってしまっていた。
何時か先生を養いたい。
先生のその辺の女子高生より断然華奢過ぎる手首をどうにかしてあげたい。
せめて、おにぎり3個食べられるようにしてあげたい。いや、なんなら2個でも良いから普通サイズにして、中身にでっかい鮭をいれてあげたい。
それが俺の夢になった。
2
お気に入りに追加
620
あなたにおすすめの小説

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。
日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが
五右衛門
BL
月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。
しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)


性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

主人公は俺狙い?!
suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。
容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。
だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。
朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。
15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。
学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。
彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。
そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、
面倒事、それもBL(多分)とか無理!!
そう考え近づかないようにしていた。
そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。
ハプニングだらけの学園生活!
BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息
※文章うるさいです
※背後注意

絶滅危惧種オメガと異世界アルファ
さこ
BL
終末のオメガバース。
人々から嫌われたオメガは衰退していなくなり、かつて世界を支配していたアルファも地上から姿を消してしまった。 近いうち、生まれてくる人間はすべてベータだけになるだろうと言われている。
主人公は絶滅危惧種となったオメガ。
周囲からはナチュラルな差別を受け、それでも日々を平穏に生きている。
そこに出現したのは「異世界」から来たアルファ。
「──俺の運命に会いに来た」
自らの存在意義すら知らなかったオメガの救済と、魂の片割れに出会う為にわざわざ世界を越えたアルファの執着と渇望の話。
独自のオメガバース設定となります。
タイトルに異世界とありますがこの本編で異世界は出てきません。異世界人が出てくるだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる