ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる

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22 宇城は宇城 (逃桐)

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「どうしたんですか。
…あ、もしかして探してました?これ。」

宇城が冷却シートの薄い箱の端を摘んで振る。

「うん。何かもう全然冷たくないなと…。」

「まあ、一晩以上貼ってましたもんね。
汗もかいたでしょうし。
…熱はどうです?」

そう言いながら手で額の熱を測られる。

「……少しは下がった、のかな?」

微妙な顔をするなよ。

「あ。体温計持ってきました。先生んち、めぼしい所開けてみても発見出来なかったんで。」

もしかしてそもそも無いんですか?と聞かれて、

「う~ん、どうだったかなあ。どっかにはあるかも~。」

と答えたが、いや俺にもわからん。
体温計って見た目どんなの?
と思ってたら、有情が持ってたトートバッグからゴソゴソ細長い白い物を出して来た。
あ。なるほど。こういう感じか。

俺のいた世界ではこういうのは無い。
昔はあったのかもしれないけどな…。
一般的には日々の体調管理は体内に組み込まれたチップの中のアプリケーションで全て計測されてる。
医療機関でも翳すだけの感知式だ。

「じゃ、腋に挟んで下さいね。」

「え?」

「測らないと。」

「ん?」

「いや、だから熱を。」

「あ、あ~、うん。」

宇城が腋に挟む仕草をしたので使い方を理解。なるなる、細いとこをね、挟めば良いのな。
俺はその白い器具を受け取り、腋に挟もうとした。

「…先生、服の上からじゃ駄目でしょ。」

「…なるほどな?」

俺は真面目な顔で頷きシャツの中にそれをそっと差し入れて挟んだ。
物凄く訝しげな表情をしている宇城。

なんかもう面倒になってきたな。言っちゃおっかな。
1人くらい協力者が必要だと思うしな。

でも信じねえよなぁ…。
頭の可笑しい奴って思われて、こんな風に親切にはしてくれなくなるかも…。

そんな事を想像したら、離れて行かれるのは嫌だなあと思う。
この世界に来て、よりによって最初に出会った顔見知りがこっちの宇城だったってのもどういう巡り合わせだよ、って思うけど、信じられないくらい親切なんだもん…。

勝手の違う世界で孤独感に苛まれていた俺は、すっかりメンタルが弱っていた。


ピピッ


「あ、う?」

「はい、見せて下さい。
あ~、未だ37℃以上ありますね。」

宇城にシャツの中に手を突っ込まれて体温計を抜かれた。
やっぱり熱は下がりきってはいなかったらしい。
俺は再び温かい濡れタオルで顔や首、上半身を拭かれ、着替えさせられて、額に冷却シートを貼られた。

「下がる迄はお粥ですね。」

宇城はそう言って袋をガサガサしながらキッチンへ向かう。
俺はベッドの中からボーッと宇城の後ろ姿を見ていた。
 何だか不思議な気分だ。
あのクソ皇子が、世界が変わると180度違う性格で存在してるなんて。
こんな風に俺の面倒見てくれてるなんて。


「先生、鮭好きですよね。今日は鮭フレークをちょっと入れましょうか。2個組みで安かったから買ってきたんで1個あげますね。」

鍋に水を張って火にかけて、袋をガサガサしながら此方を見ずに言う宇城。
鮭?魚の?
確かに好きだけど…。

「なんで知ってんの?」

と聞いてみる。
すると、

「だって先生、いっつも鮭おにぎり…あ。」

「…」

宇城はナチュラルに失言して、直ぐにそれに気づいたようだった。

「やっぱりよく見てるんじゃねえか、"俺"の事。」

ニヤニヤしながらそう言ってやると、それが声に出ていたのか、笑わないで下さい、と言われた。

「…仕方ないじゃないですか。好きなんだから。」

それは小さな声だったけれど、何故かはっきりと聞こえて、俺はキュンとしてしまう。

…いや、いやいや何でだよ。

勘違い勘違い、可愛いとか思ったのは熱のせい。この状況のせい。
こいつは俺の生徒なんだから、と首を振る。
ベッドの上で一人で百面相している俺は、はたから見たらきっと物凄く変なんだろうな。

それから宇城は俺が鮭粥を食べて、薬を飲むのを見届けてから、

「じゃあ俺、バイト行きますね。」

と立ち上がった。
それを聞いた俺はえっ、と耳を疑った。
土曜日はバイトなのか。
なのにバイト前にわざわざ寄って、俺の世話してくれたって事?

この宇城は天使か仏だろうか、と思ってしまう。

「…ごめんな、休みの日にわざわざ。しかもバイトだったなんて。」

そう言うと、宇城は苦笑した。

「別に俺が勝手にやってる事ですから。」

と言って、ベッドの横に膝をついた。

「それに、先生は熱でしんどいから申し訳ないんですけど、俺的にはラッキーです。」

そう言って、俺の顔を見つめてきたので、妙に心臓が速くなる。

宇城って、こんな優しい顔すんのか…。
と、ポーッとしていたら、
何故か顔が近づいてきて、唇を重ねられた。

「……は?」

それはほんの2、3秒くらいで離れていったけれど、俺は呆然としてしまって動けなかった。状況把握に時間がかかり過ぎた。

「でも、悪いと思ってくれるの嬉しいです。キス、大事な思い出にしますから、許して下さい。」

「は、え?」

「元気になったら殴っても良いので。
じゃ、また夕方来ますね。また鍵、お預かりします。」

そう言って宇城は靴を履き、もう一度俺を見て手を振ってから、ガチャリと鍵を閉めていった。


「……大人しそうだったから油断してたけど、手ぇ早ぇじゃん…。」


やっぱ宇城は宇城みたいである。



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