ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる

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20 暗証番号

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昼間そんな事があり、スマホの中のデータが見られるようになったのが精神安定剤になったのか、その晩 俺はこの世界に来て初めてぐっすり安眠出来た…のだ、が…。


夢の中で俺は、元の世界に戻っていた。
いや、正確に言えば、戻っていたというより、部屋の天井辺りで俯瞰で俺を見ているような状態。

幽体離脱とか幽霊になるとかってこんな感じかな、と 俺は興味深く数日振りに見る自分の部屋を見回した。

ベッドに寝ている俺。
少し離れたテーブルの上には仕事用のタブレット端末が開きっぱなしで、傍にはリュックと大判封筒、財布。しかもその中身がバラバラと出されたまま散らかっている。

俺はこんなに始末悪くないぞ…こんな散らかして寝たっけな、と考えながら、寝ている俺にふよふよと近寄った。
俺はその時、今来ている世界の事を一瞬忘れていた。

近寄ってみたら寝ている俺の額には白いものが貼られている。
何でこんなものが。
こんなの貼ったっけ?
と触れようとしたのだが、案の定指はすり抜けて触れられない。
まあ、夢だしなぁ、と笑って、タブレットの方に向かってみる。
俺、寝る前に仕事したんだったっけかな…と思いながら。

(…ネクタイの結び方 種類 簡単…?)
(決済方法 種類…?)

検索履歴よ…。

こんなの何で検索したんだっけ…?
高校の制服からずっとネクタイ結んでるのに、今更…。あ、夢か。夢だからか…。

肝心の疑問は全部夢の中だから、という事で済ませえるのが夢の良いところだけど、この時俺は、妙に考え込んでしまった。


ーー何か忘れているような…?ーー

キッチンを見ると、シンクの水切りカゴには洗って未だ少し水滴の残った食器とレンゲ、コップ。
レトルトの粥が幾つか冷蔵庫の上に置いてある。

俺、粥なんて買った事ないのに?

レトルト粥なんて、スーパーやコンビニでたまに見かけるくらい。
手を伸ばした事も、レジに持ってった事も無い。
体調が悪い時や消化に良いものが欲しい時には自分で作ってる。
だからレトルトの袋だって満足に見た事も無いのに、何でこんなに裏の原材料名や成分表示迄リアリティ溢れて見えるんだ…?

(……??)

ま、夢…だからな…。

と、振り返ってギョッとした。
寝ていた俺が、起きていた。

『…お前…なんで…、』

ベッドに居る俺が、俺を見て目玉が飛び出そうな顔してるのもちょっと怖いけど、それより夢の中で自分に話しかけられてるって現象もちょっと怖い。

…あれ?似たような事が、最近あったような…?


(…あ!!)

その瞬間、思い出した。
アレは俺を入れ替えた"俺"だ…。


『お前、何で此処に…?』

ベッドに起き上がった俺が、俺に話しかけてくる。
という事は、見えているのか。これ、夢じゃないって事か?
俺、此処に戻ってきたのか?

「あ…」

喋れる。意思の疎通、可能なんだろうか。

ならばお前に言いたい事がある!!

「お前な!酷いぞ!!
俺がどんだけ…、」

『悪かった!!謝るから銀行の暗証番号教えてくれ!!』

「……。」


お前、全然悪いと思ってないだろ…。

『じゃなきゃ俺、直に飢え死にする!!』

何つー寝覚めの悪くなりそうな事を抜かすんだお前は…。

「いや、つか、俺が戻って来たんだからお前はさっさと…、」


そう言った瞬間、意識がぼんやりしてきた。

『暗証番号!』

焦った声に急かされて、思わず4桁の数字を口にしてしまうと、そのまま画面が暗転した。



気がつくと俺は、皇城の、最初に与えられた部屋のデカい寝具とふかふか布団の上にいた。


「……え?やっぱ夢?」

夢…だよな?
それにしては色々リアル過ぎた気はするけど。
でも夢で暗証番号聞かれるとか、無いわぁ…。

一瞬、戻れたのかって糠喜びしちゃったよ…。


俺は何となくガッカリして、布団を握って溜息を吐いた。
夢の中の俺の部屋は記憶の中のままで、でもそこにいたのは俺であって俺ではなかった。
レトルト粥だなんて、実際には手にした事すらないものがあって、まるであの"俺"が、そこで暮らしているような…。


「…あれ、もしかしてあれって…。」


あいつ、俺ん家に住んでる?

…いやまさかなあ~、とハハッと笑ってみるが、有り得ない話じゃないよなと考え込む。
そもそも、あの夜俺が落としたリュックを拾っていたとしたら、不可能ではない。
俺なら、どうするだろう、と考えた。

まず、よくわからない世界でリュックを拾う。 
中を確認。その世界の事を知る為に、何らかの材料を求めるだろうな。
取り敢えず、一番必要なのは食う事。食うには金が要る。財布を探すな…。
貨幣の確認が済んだら身分証を探す。住所が載ってる。
それを頼りに家を探して、、、。

「…うん、あいつ、きっとあっちに逃げた俺だわ。」

俺を見てめちゃくちゃビックリしてたもん。金尽きたらヤバイってカードの暗証番号聞いてきたもん。
決済方法調べてたし、現金入ってるカードの暗証番号聞く方が一番手堅いと思ったんだろ。あの必死な顔。


「あれって、夢の中でリンクしてたって事なのかなあ?」


あいつの額の冷えピタの事が今になって気になってきた。



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