ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる

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13 こっちのお前がこんなに優しいなんて聞いてない (逃桐)

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「別に、暇なんかじゃ…。」


そう答えながらも、戸惑い気味に 立ち止まっている俺の方に歩を進めて来る宇城。その歩き方からしてもう違う。
あの糞皇子の、足音のしない歩き方とは、全く。

でも、俺にはわかった。
出来るだけ表情に出すまいとしてるみたいだけど 俺が呼んだ時、その口元が微妙に綻んだのを俺は見た。
コイツすげー"俺"に好意がある。感じる。

けど、それが全然不快じゃないのは、きっとこの宇城はあの糞宇城みたいに性格と性癖がねじ曲がってないからだろうな~。
邪気がねえもん、邪気が。
少し暗い雰囲気だけど、いっつも人を食ったように薄気味悪くニヤニヤしている奴よりは断然マシだ。嫌いじゃないぜ。

宇城は俺から少し離れた場所で歩を止めて、少し首を傾げながら俺を見た。

「何ですか?」

「もう夜だろ。どこ行くんだ?」

「違いますよ。帰りです。絵画教室の。」

「絵画教室?」

「こないだ話したでしょう、美大目指してるから通ってるって。」

「あ。うん。そうだったな。」

えぇ…そんな話なんかしてんの?何、進路とかの相談に乗ってたりしたのか?

俺は取り敢えず話を合わせながら頷いて笑った。
宇城が眉を顰める。

あれ、しくじったかな。
どれが引っかかったんだろ。絵画教室に通ってるのを覚えてないってとこか、まさか笑ったとこか。

確かにあの俺、暗そうだったしな~。普段は大人しい奴だったりして…。
ま、別に俺の見た目もDNAも俺本人なんだから、別に変に思われても疑われても構わないんだけど。そう思うと気がラクになり、俺は直ぐに楽観的に開き直った。こういうポジティブさが俺のチャームポイントである。あの糞ガキ皇子も、

「貴方の不屈の精神は賞賛に値します。」

といいながら苦笑いしてたくらいだからな。
いやアイツのは皮肉なんだけどな?それくらいは俺にもわかるから。
俺が言いたいのは、あれだけ蛇のように執念深い奴でさえそんな風に言うくらいのポジティブって事だ。

何時か逃げるチャンスはきっとある、作ってやるって思い続けて、実際こうして脱出できてるんだから、この性格も捨てたもんじゃないだろ、と心の中で舌を出す。

すると、俺をじっと見ていた目の前の宇城が、真剣な表情で口を開いた。


「先生、そんな服だとだいぶ雰囲気変わりますね。」

「……あ、そう?」

「似合ってます。顔が綺麗だからかな…。
あっ、いや、今の忘れて下さい!!」

真面目な顔でしょうもない事を言っといて、急に慌てて赤くなる宇城。照れているのか、顔の前で頻りに手を振っている。

綺麗だって。
やっぱりこっちの宇城も俺に……いや、こっちのはマジ惚れじゃね?

宇城の初々しい様子にジーンとする俺。
そうだよ、これだよ。生徒が教師に対して抱くのってこういうやつだよな。
淡い初恋…いや、憧れ?的な?
間違ってもいきなり監禁調教レイプとか、そんな事しないよな。
犯罪者じゃあるまいし。
やっぱりアイツがおかしーわ。皇族だからって、権威振りかざしやがって…。

糞ガキ皇子の事を思い出してみれば、ロクでもない記憶ばかりで、ついつい苦々しい気持ちが顔に出る俺。
それを、宇城は自分の発言で俺が気分を害したと思ったのか、青ざめた顔で謝ってきた。

「すみません、俺、先生に失礼な事を…。」

謝られて、俺は我に返って、違う違うと笑った。

「ちょっと嫌な事を思い出しただけ。宇城のせいじゃないよ。」

俺が笑っているからか、宇城はホッとしたように息を吐いて、少し微笑んだ。
その穏やかな笑みを見て、やっぱりこの宇城は全く違うと確信する。
こっちの宇城はこんなに年相応で素直で、優しいのか。
もしこの宇城が相手だったら、あんな酷い爛れた関係になんかならなかったんだろうな…。

俺は複雑な気分になった。


「そう言えば先生、三丁目の方でしたよね。」

少しの沈黙の後、宇城がそう俺に問いかけてきた。
三丁目…。さっき見た免許証の住所が浮かんでくる。

「……うん。そうだな。」

そう答えると、宇城がまた俺を見て、少し何かを考えて、背負っていたリュックを下ろし、着ていた上着を脱いで俺の肩から掛けた。

びっくりした。

宇城の温もりが残る黒い上着からは、僅かな体臭がした。妙に落ち着く、優しい匂い。

「実は俺、今夜は祖母の家に泊まるんです。先生んち近いみただし、その辺迄一緒に帰りましょう。」

言いながら少し前を歩き出す宇城は、白いシャツの上に薄手のカーディガン姿。
近く迄一緒に送ってくれるというなら、渡りに船ではあるけど…。そんな格好じゃ、今度は宇城の方が…。

「…お前の方が寒いだろう。」

そう言うと、宇城は振り向きもせずに、

「先生のカッコよりは全然寒くないです。」

と返してきた。

……え、何だコイツ…。
何かすごく…すごい、優しくね?

「……ありがと。」

「いえ。」

礼を言いながら宇城の後を追い、俺は何故か妙に顔に熱が集まるのを感じる。

違う。気の所為だ。

宇城が糞ガキ皇子と同じ顔で、俺に優しくなんかするから。
あの顔が俺に優しい事なんか、無かったから。


だから、耳迄熱いのは、気の所為なんだ。



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