ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる

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12 逃げおおせた先でも遭遇する(逃桐)

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(それにしても腹が減ったな…。)

同じように見えても違う部分はそれなりに多く、細かい場所がわからず俺は迷っていた。
思免許証記載の住所と、大体あの辺かと認識していた場所にズレがあったようだ。
俺は一旦公園近く迄戻り、何か腹に入れてから出直す事にした。

道路沿いにある大きな石柱のようなものは、過去の資料で見た事がある電柱によく似ている。
多分、そうだな。
元の世界では既に地中に埋まって見る機会の無い過去の遺物だ。どうやら見た所この世界は向こうの世界とは、テクノロジーの発展や進化の仕方が少し違うように思える。

住宅街を歩き、公園沿いの道に戻って来た。
様子はさっきと変わらず、通行人2人とすれ違ったら、少し物珍しそうな視線を投げられた。

駅があると思われる方へ行ってみようかと考えて、明るい方へ向かって歩いた。

「やっぱり駅があるんだな。」

それは同じみたいだ。
やはり主要になる交通機関や施設なんかは同じような場所に建てられてる事が多いのかもしれないと思いながら、駅前の広場周りを見渡す。
夜なお明るい照明の多種多様の店に、行き交う人々。何処の世界もこういった光景は似たようなものだ。

コンビニがある。それは元の世界でも同じだ。店名や扱っている商品は異なるだろうが、内容はほぼ似たようなものだと踏んだ。
貨幣価値を確認して、使う練習ついでに買い物をする事にした。

入店してカゴに数点の食料品と飲料を入れ、レジの上に置くと、店員が俺の顔を見て、瞬時に上から下迄見た後に不思議そうな顔をした。
その表情は直ぐに引っ込められ無表情に戻ったが、その時俺は、さっき公園で捨てた、酒らしき缶と食品容器の入ったゴミの中にレシートが入っていたのを思い出した。
中途半端に丸められかけたレシートには、この店の名が印字されていなかったか…。

(まあ、かと言って、どうと言う事も無いんだけど…。)

向こうにやった俺は、きっと仕事帰りにこの店に寄り、数点の品物を買って、自宅迄の帰り道にあるあの公園で酒を飲んでいたんだろう。
何を思って真っ直ぐ帰らずあの公園で独りで居たのかはわからないが。

「…お前も、何かあったのかね…?」

単に腹を減らしてあの公園で、と言う訳でもないだろう。きっと、ほんの少しの息抜きのつもりだったのかも。
何れにせよ、あの場に居合わせたのは不運だったな。いや、必然的な運命だったのかも。

あの"俺"は、俺とは違って穏やかな雰囲気を纏っていた。疲労感も漂っているように見えたけど、それでも俺の置かれてた状況よりは断然マシな筈だ。

俺はすり替わった事に、罪悪感なんて持たない。
同じ俺なのに、俺だけがあんな思いをするなんて納得いかねえもん。

それに…。

あの糞ガキは、相手を見て扱いを決める。
良い待遇を得られるかは、本人次第だ。
あの糞ガキは妙に敏いから、同じ顔でも服装や体にある筈の傷がなければ、違う俺だと見当をつけるだろ。
何なら俺なんかよりずっと上手くやるんじゃねえの?


「…ま、わかんねえけど。」

俺は俺で、あの馬鹿から解放されたこの世界で上手くやっていくし、あの俺もあの世界で適当にやるだろう。 
異世界人とわかって放り出せば研究所送りになるんだから、俺の顔と体もお気に入りだった糞ガキ皇子がそんな真似する筈がない。
"俺"は、今迄通り囲われ者で、その内 正妃にされる筈だ。
そうすりゃ、死ぬ迄籠の鳥どころか標本の蝶だ。

…それを考えたら、まあちょっとはあの俺が可哀想でもあるな。

決済方法で迷ったが、取り敢えず現金を選択して支払いを済ませる。
貨幣が現役で流通してるなんて新鮮だった。
俺の居た世界では、何十年も前に生体認証決済に完全移行している。

コンビニを出て歩きながら、買った温かい茶を開けて飲み、行儀は悪いがレジ前に売ってた中華まんじゅうを食べる。
寒いんだよな、このシャツだと。
逃げるのに必死で、上に纏っていたローブが途中で脱げてしまったから。

いい歳して、とか構ってられない。腹を満たさねば頭が働かない。これからの事を考える為に俺は食うのだ。
そして早く家に辿り着かないと。
食いながらもう一度免許証の住所を眺めていると、何だか物凄く聞き覚えのある声が俺を呼んだ。


「桐原先生?」


一瞬、ザワっと鳥肌が立った。
声のした方をゆっくり振り返ってみると、見慣れに見慣れたあの糞ガキの顔が。

悲鳴を上げそうになった。

けれど、当の糞ガキはキョトンと俺を見ている。
声も出せない俺を見て、近寄ってくる気配も無く首を傾げている様子。
その時点で、俺は気づいた。

あ、これはこっちのアイツだ、と。


「何してるんですか?」

相変わらず立ち位置を動かずに問いかけてくるソイツ。
素早く観察すると、黒い上下の制服のような衣服を着て、黒と青のツートンカラーのリュック。
何時もの糞皇子では有り得ないような簡素な素材ばかりの物ばかりを身につけていた。

そうか。この世界では、皇子は皇子じゃないんだな。

どういう理由でそうなったのかはわからないが、警戒する事は無さそうだ。
コイツからは、あの糞ガキ皇子の持つ邪悪な鋭さは全く感じられない。


「そんなカッコ、寒くないんですか?
風邪、ひかないでくださいね。」

それどころか、すげぇ良い奴っぽいな。演技って事は…無さそうだ。
何か知らんがめちゃくちゃ心配そうな顔してるわ。

というか、コイツ、俺を先生って呼んだよな?

さっきリュックの中を見た時に見た指導書と、学校名の入った封筒を思い出した。
コイツ、こっちでは"俺"の生徒だったのか。
ならあっちに行った俺も、さぞ面食らって混乱するんだろうな。

俺はちょっと面白くなった。
さて、あの糞ガキ皇子の名は何だったか。



「…宇城。」

呼びかけてみると、ソイツは はい、と返事をした。

どうやら姓は変わってないらしい。

「宇城、暇か?」

俺は にっ、と笑ってみせて、ソイツを手招きした。



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