ドS皇子が婚約破棄までして歳上教師の俺に求愛してくる

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4 似て非なる世界

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ーーしてやられたんですよ…ーー


してやられた?何をだ?

世界が違う、って…何だっけ…。


「そういったポイントがあるらしい報告は上がってたけど、まさかあの辺だったとは。
全く。どうやって割り出したんだか。」

宇城は相変わらず俺を憐れむかのように薄く微笑んでいる。

でも俺の脳内はそれどころじゃなかった。
俺が居たのとは違う世界?入れ替わられた?

俺は未だ夢から覚めていないのか?
こんな、漫画や小説みたいな、そんな事がリアルにある訳が無いんだから、そういう事だよな?

異世界だなんて、そんな。


「夢だと思いたいですか?構わないんですよ、それでも。
不都合な事実から逃げたいと思うのは仕方の無い事です。」

細かく震え出した俺に、宇城はそんな言葉をかけてきた。

それで、俺の両頬を両手で包んだままじっと目を見て、それから耳元に唇を寄せて、とても優しい声で言った。


「無駄ですけどね。」


ゾッとした。

俺は宇城の手を跳ね除けて寝台から飛び降りた。
そして忙しなく部屋中を見回して、出口を探した。
そして呆然とした。

何故、扉が無いんだ?


「外を確認したいんですか?」

「……。」

思考が読まれている。

「確認出来たら、納得します?」

わからない。そんな事言われたって。
だから返事のしようがなくて、俺は黙っていた。
すると宇城は、目を伏せて呟いた。

「灯りを。」

瞬時に部屋中が昼間のように明るくなり全貌が見えた。だがその白い壁には、やはり窓らしきものは見当たらない。
宇城はまた呟いた。

「外を。」

壁一面が窓になったように外が透けて視えるようになった。
どういう仕掛けだ。

驚愕しながらも俺は窓辺へ走った。足が重くて縺れるのは寝ていたからだろうか。
そして外の景色を見た俺は絶句した。

そこは、俺の見慣れた景色のようでそうではなかった。

ーーここは、何処だ。


「……何処なんだ、ここ…。」

「勿論、和国…日本ですよ。でもきっと、貴方の知る和国とは少し違うんでしょうね。」

「…信じられない…。何で高層ビルが1つも無いんだ…。」

「地上に高くそびえるのは皇城のみで十分だからです。」

「……エェ…。」

規定でもあるのだろうか。
あれかな、京都なんかは景観を守る為に建築物に高さ規定があるけど、そういう?

「三階建て以上の建築物は建てられるのが皇城周辺の一部地域にごく限られています。それでも規定はありますけどね。」

やっぱり規定あった。
でも一応は高い建物建てられる事はあるんだな。
それにしても、こんな景色は……。

「そんなにも違いますか?貴方の世界と。」

何時の間にか同じように窓辺に来ていた宇城が、やはり同じように景色を眺めながら俺に問いかけてきた。
それに力無く答える俺。


「…うん、かなり。」


眼下に広がる景色を呆然と眺めながら、もう俺は認めざるを得ないと思った。


異世界。

だが異世界というには、ここは日本、もしくは和国という国ではあるらしい。同姓同名の、同じ人間も存在するらしい。

では、異世界というより、これは違う分岐を幾つか選択し続けた世界、なのでは…?

つまり、パラレルワールド。

だから俺も、宇城も存在する。

でもこの世界の宇城は、あちらの宇城とはだいぶ違うようだ。かなり社会的地位立場のある人間、ではないだろうか。
こっちの世界の俺だった奴は、そんなに変わりないように見えた。先生とも呼ばれていたし、同じように教師なのかも。


(…あれ?)

不意に、何か大事なとこを見落としてる気がして俺は首を傾げた。

俺が今居るのって、何処なんだ?


高い建築物が禁止されている世界で、周り全てを見下ろせる程に高層階にいるのがわかる場所。

黒づくめの大人の男達を従えて、まるで手足のように使っていた宇城。


傍に立っている宇城に、おそるおそる聞いた。


「あの、さ。つかぬ事をお伺いするんだけど、この建物って…もしかして…。」

「皇城ですよ。」


やっぱりか…。

嫌な予測だけは何時でも大概外れない。

「お察しの通りこの建物は皇城で、そこにいる私の立場は、」

宇城は俺に向き合って、言った。


「新和皇国第三皇子、宇城 三環です。
周りの者は宮様とか殿下と呼びますが、貴方は…いや、入れ替わる前の貴方だけは、三環と呼び捨てていましたよ。
皇族不敬罪ですよね。あはは。」

「こ、皇族…?」

何だそれ、と腰が抜けた。

一口に皇族と言っても、俺が居た世界での皇族とは、随分色々違うのだろう。
察しの悪い俺でも、それくらいはわかる。

この世界での皇族は、訓練された武人達を従えて行動するのが普通なんだろうか。でもそれは、何だか怖くて聞けなかった。

しかも皇族不敬罪って、あんな怖い連中を顎で使うような人間を呼び捨ててたとか、この世界の俺は一体どういう人間なんだよ。

もしかしてそれで逃げてたんじゃないだろうな、と俺は更に不安になった。
もしそうなら、入れ替わってしまった俺の立場って結構不味いのでは?
処遇はどうなるんだろうか。違う俺のせいで俺が罰されるのなんか、絶対ヤだ。

俺の事の筈なのに俺に関する情報が無さ過ぎるので、変な妄想だけが募る。

そんな俺の心を見透かしたのか、宇城が微笑んだ。
何故だろう。
俺の知ってる宇城は普通の学生で、顔立ちだってその辺にいそうな平凡な塩顔で、取り立てて目立つとこなんか無かったのに。
この宇城は、同じ顔の筈なのに、何故こんなに端正に見えるんだ?

俺は不思議な気分で宇城を見詰めた。
皇子様ってのを知ったから高貴フィルターでもかかったのか。

すると宇城はぷっと吹き出した。


「何だか、貴方は可愛らしいですね。同じ人間でも環境により随分変わるらしい。」

マジで俺ってどんな奴だったの…。

「君だって、全然違う…。」

「そうなんですか?」

「うん。」

俺の答えに宇城は面白そうに首を傾げた。

「俺って、君にも先生だったのか。」

俺は宇城に問いかけた。

「そうですよ。
学園の教師だった貴方を、個人的に召し上げたんです。
だからここ半年ばかりは私だけの先生でいらした。」

「個人的に、って…、何故そんな。」

「勿論、気に入ったからですよ。私に不遜な態度を取り続けるのが面白くて。
私はそういうイキの良い者が好きなんです。
そういう生意気な者を躾ていくのがね。」

宇城はそう言って、にこりと微笑むが、言ってる内容は全然微笑ましくなんかなかった。

ヤバい奴じゃん、この宇城!

「だから調教の最中だったんですが、どういう訳か厳重な筈の警備を掻い潜るのがやたら上手くて。
見かけによらず、強情でしたね。ですから香を使い始めたんですが、それにも耐性がついてしまったようで。最近はもう、薬を使うしかないかと思っていたところです。」

そう言って、にっと薄気味悪い笑顔を作って俺を見るから、俺はもう失神しそうに怖くなった。
薬って。従順にさせるような薬って事か?
怖すぎだろ。そりゃ逃げるだろ。

冷や汗が止まらない。


「でもね。」

宇城は俯く俺の顔をわざわざ覗き込んで来ながら続けた。

「最も気に入っているのは、貴方のその顔と体なんですよ。
貴方は美しくて、私の理想です。」

「…ッ」

「だから、私としては手に負えなくて面倒な性質の者より、同じ姿なら貴方の方が好都合なんですよ。」


ヒュッ、と恐怖で喉が鳴った。何だよそれ…。

買い被り過ぎだと叫びたい。
確かに俺は女の子にはモテてきたけれど、男にそんなに固執される程美しいとか、そこ迄のもんじゃないだろ。線が細いとは言われるが、女っぽい訳ではない筈だ。
なのに、なんで。

俺はもう涙目だった。


俺はもう元の世界には帰れないんだろうか。



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