王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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監禁! 最後の文化祭

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まぁそれはそれとして、別に文化祭期間中ずっと武藤様を拘束したいわけでもない。

『いや、別に構わねぇが』
「構うけど……? 最終日にある立食形式のパーティとか、未来のお嫁さん候補が集まってるやつでしょ。それ以外にも挨拶とか行く時どうすんの」
『?? 連れていきゃ良いだろ恋人なんだから』
「公的にそんなこと宣言したら卒業して別れるコマンドが使えなくなるんだよこの天然……!!」
『あ』

あ、じゃない。思わず出てしまったがやはり武藤様はかなり天然の部類だと思う。
文化祭の最終日はお偉方が集まる立食形式のパーティがあり、まぁ有体に言えばコネ作りの時間がある。

本物の恋人同士であれば片時も離れずお互いに近付くものを牽制し合うのだが、俺たちには時間の制約があるのだ。

特に武藤様やこうちゃん、真道といった重鎮の御曹司からすると未来の伴侶を探す場にもなる。

ちなみにこうちゃんは割とこういう形式が嫌い──マナー的にどれだけ食べて良いかよくわからんらしい──らしく、今から憂鬱そうにしていた。

わかる、ああいうのマジで困惑するよな。

「これで俺たちが一年なら言い訳きいたけど、お偉方にまで挨拶回りしておいて来年の卒業式で別れましたはちょっと、気が早すぎというか」
『とんでもなくキレられそうだな』

そういうことだ。
俺は卒業したら今内定もらってる会社のどれかに入って平凡な社員として食うものに困らないが趣味に使える金は少し少ない程度の大人になる予定なのだ。
それで家にたくさん仕送りをする。

ほどほどに心を動かしてほどほどに楽しんで生きていく。スリリングなことなんてやるつもりはない。ので、こんなところでセレブとの繋がりを持ちたくないのだ。

「そして四十くらいで肥満で健康診断に引っかかりつつほどほどに生きるつもりなの、俺は」
『健康診断のくだりまで込みなのはどうなんだ。健康に太れ健康に』
「ここでデブ自体は別に否定しないの好きなとこだと思う」

武藤様、本人は自覚してないけどよく食べるやつがよく食べるほど喜ぶ。
テレビとか見てる時も少食な美少女より太めのおっさんとかが楽しそうにいっぱい食ってるのを見て満足そうにしてるタイプだ。

料理好きのサガというやつなのだろうか。

「しかし珍しいね武藤様。こんなナチュラルに大ボケするとか」
『大ボケとか言うな』

武藤様はびっくりするくらいの天然だが、要領がよく思慮深くもあるのでここまであっさり天然要素を見せつけてくるのも珍しい。そういうことを言ったら何やらモゴモゴと口を動かす音がして。

『……はじめてなんだよ、てめーと違って』

──時が止まった。
はじめて。ハジメテ。初めて????

はじめ‐て【初めて/始めて】
読み方:はじめて
[副]
1 今までに経験していない事が起こるさま。最初に。「—人間が月に着陸した」
2 ある経験をした上で、漸くその状態になるさま。やっと。「親が死んで、—そのありがたさがわかった」
3 (下に打消しの語を伴って)事のついでではなく、わざわざ。あらためて。
「言(こと)あたらしう—申し上ぐるに及び候はず」〈平家・一二〉
(weblio辞書より)

「え、それは1?」
『は?』
「ごめんなんでもない」

武藤様って俺が初めて付き合った相手だったの……? 嘘だろ、ほんとに嘘だろ。いや確かにでも一回付き合った相手はほんとにずっと大切にしそうだしな、そうか、初めてなのか。俺が!?

え、なんか申し訳なくなってきた。

「ごめんねなんか、キスも出来ない相手で」
『別に望んでねぇ』
「それはそう」

本来付き合った相手となら出来てしまう色の含んだ行為を、俺とでは出来ない。大切な期間を台無しにしている。まぁ俺も夏休みとかいう大切な期間を台無しにしているので同じか。Win-WinならぬLose -Loseである。

しかし望んでない、か。まぁ知ってたけど。

「俺はしてみたいけどね」

スマホの奥からドタン!!!!!!!!! と音がした。ベッドから重いものが落ちたみたいな音だったが何かあったのだろうか。

「ちょっ、大丈夫? どうしたんなんか事故とか?」
『だっ…………どうもしてねぇ』
「それは流石に無茶あるだろ!!」

あんな音鳴らしといてどうもしてないなら昨日俺が小指を角にぶつけて水瀬に電話した(深夜)のは一体どうなるんだ。まぁ水瀬もわりとキレてたけど。めちゃくちゃ寝起きの声だったしな。ごめん。

「武藤様は偉いよな、こういう時に他人に電話かけなくてさ、すごいと思う」
『てめーと電話してるのに……?』

それもそうか。
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