王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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監禁! 最後の文化祭

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よくよく考えたら三年Cクラスというクラスには個性がない。いや、そもそもクラスごとに個性ってあんまないもんだけどさ。本来は無作為に人間がぶち込まれてるものなんだから。

「うーん、決まりませんねぇ……」

黒板を見て、担任が参ったような声を漏らす。そこにはそれぞれ数十の候補が上がっていた。スイートたこ焼き、メイドカフェ、お化け屋敷、劇、わなげ、爪楊枝アート……爪楊枝アート????

「色々出たね、田中くんは意見とかない?」
「えっ、ごめんなんか、何も出せなくて~……?」
「ああいや責めてるわけじゃなくて! なんかソワソワしてたから……」

佐藤くんの言うとおり、楽しそうだとは思っていた。いくつかやってみたいこともある。だが俺たちような就職組としては、手間がかかるようなことを動ける人たちに任せるわけにもいかない。

そんな俺をよそに教室内はまだまだ盛り上がっていて、もう秋だというのに暑い。外は紅色が庭木を染め上げていて、高級な染料を使ったみたいだ。

大きくため息をついて机にうつ伏せになれば、察し力の高すぎる佐藤くんがいつものように苦笑した。

「でも、ひとまず言ってみれば? 今のうちならバレないかもだよ」
「うーん……」

まぁでも確かに、意見があるのに言わないのも足を引っ張ることになるだろう。別に何になっても──法律に違反していない限り──不満はないが、俺も何か言うべきか。空気読めないって思われちゃう。読めないよ!!

はーい、と気力なく手を上げる。
教室中がザッ……と静まり返った。あんなに騒がしかったのに。

(もう慣れてきたなこの対応……)

我ながらすごい適応能力である。今空気が海水に変わっても生きていけるんじゃなかろうか。俺は進化しないから無理か。
それはそれとして担任がめちゃくちゃ怯えてる、ごめん。

「あんま手間かけないならさぁ、バルーンプールとか占いとかどう~? 占いとか、知識が付け焼き刃でも思い出になると思うんだけど~……」

よく聞くタロットカードなら大アルカナだけ覚えればどうにかなるし、文化祭の占い如きにそう期待している人もいないだろう。

シフト制で、暇な人がとりあえず一人いれば占いになるわけだし。教室を暗くして水晶玉みたいなのを置いておくだけでそれっぽくなるかもしれない。ちなみに俺は割と占いができる。

「占い……」
「あ、もちろん嫌だったら強制しないよ~」
「まさか!! 田中さんの言うことですし!!」
「田中さんのご意見を嫌だなんてそんな!!」

もはや洗脳じみている。
俺の言葉に、クラスがわずかにざわめき始める。ちょっと地味すぎたかな。えっもう地味なのは仕方なくない? こっちは地味陰気人間だぞ、理由のない根暗だぞ。題名のない音楽会みてぇだ。

「──よし、占いで固定して考えてくぞ野郎ども!!」
「おー!!」

いいの!?!?!?!?!?

「不正はなかった」
「一票の格差問題」
「津軽選挙」

よくはないだろ。
盲目っていうかもはや信仰の域に達してない? よくわからん自由の代わりにクソデカ責任を背負わされている。人生だ。嫌だこんな大人の予行演習。

「じゃあはいはいはいはいメイド服!!!!!!!!!」
「ズルこいつ」

いやっ違う我が強いぞこのクラス!! 出し物を占いに固定したことで猫耳だとかメイド服だとかデェコンくん初出56P(園芸委員会公式マスコットキャラクター)とかコスプレをやりたがっている。着ぐるみに占われて嬉しいか?

「普通に黒装束じゃダメなんか? あのケープみたいなやつ」
「は? こいつつまらんマジ」
「──いや待て、この目……“漢”だ! 漢の目をしてやがる!!」
「興奮するのか……? お前、それに……ッ!!」
「それはそれとして自分が興奮する格好を自分でしなきゃいけねぇ可能性あるのわけわからないよな」

別にしなきゃいけねぇ訳ではないし、さすがゲイ六割バイ三割の高校である。異常性癖に異常性癖を重ねるんじゃない。

黒装束を上げた生徒の目は澄んでいた。春の湖みたいだった。

「そうだよな……でも、性癖が満たされるチャンスがあるなら……!!」
「飛び込むが漢、ってこと!!」

ってことではない。
俺は虚無になった。紅葉が綺麗である。そもそも俺はある程度貢献したら文化祭は回りたいしな。
熱意に押され、端っこのほうにいる俺と佐藤くんはそっと固まった。ちらほら固まっている生徒がいるので、あとはもう元気な人らに任せたらいいだろう。

「田中くんは文化祭回るの?」
「回る回る。会長とか誘って回りたいなって~」

去年ぼっちだった俺からは考えられないセリフだが現実味を持っているのがひっくり返る。
いいね、と笑った佐藤くんにそういえばと話を繋げた。

「獅童くんが本気でメイドやるって言ってたよ~」
「本気って……あの美少年モード!?」
「うん? たぶん」
「ヒョエーとんでもないことになりそう……」

獅童くんは態度こそ極道狂犬イカレ後輩だが、見た目で言ったら紅顔の美少年である。線の細い彼が本気でメイドをやるとなると、何人の心臓を止めるのだろうか。

「俄然楽しみになってきた……」
「阿鼻叫喚上がるところ見られないかな~」

趣味は悪いが、こういうものしか楽しみがないのである。

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