153 / 200
監禁! 最後の文化祭
24
しおりを挟む
よくよく考えたら三年Cクラスというクラスには個性がない。いや、そもそもクラスごとに個性ってあんまないもんだけどさ。本来は無作為に人間がぶち込まれてるものなんだから。
「うーん、決まりませんねぇ……」
黒板を見て、担任が参ったような声を漏らす。そこにはそれぞれ数十の候補が上がっていた。スイートたこ焼き、メイドカフェ、お化け屋敷、劇、わなげ、爪楊枝アート……爪楊枝アート????
「色々出たね、田中くんは意見とかない?」
「えっ、ごめんなんか、何も出せなくて~……?」
「ああいや責めてるわけじゃなくて! なんかソワソワしてたから……」
佐藤くんの言うとおり、楽しそうだとは思っていた。いくつかやってみたいこともある。だが俺たちような就職組としては、手間がかかるようなことを動ける人たちに任せるわけにもいかない。
そんな俺をよそに教室内はまだまだ盛り上がっていて、もう秋だというのに暑い。外は紅色が庭木を染め上げていて、高級な染料を使ったみたいだ。
大きくため息をついて机にうつ伏せになれば、察し力の高すぎる佐藤くんがいつものように苦笑した。
「でも、ひとまず言ってみれば? 今のうちならバレないかもだよ」
「うーん……」
まぁでも確かに、意見があるのに言わないのも足を引っ張ることになるだろう。別に何になっても──法律に違反していない限り──不満はないが、俺も何か言うべきか。空気読めないって思われちゃう。読めないよ!!
はーい、と気力なく手を上げる。
教室中がザッ……と静まり返った。あんなに騒がしかったのに。
(もう慣れてきたなこの対応……)
我ながらすごい適応能力である。今空気が海水に変わっても生きていけるんじゃなかろうか。俺は進化しないから無理か。
それはそれとして担任がめちゃくちゃ怯えてる、ごめん。
「あんま手間かけないならさぁ、バルーンプールとか占いとかどう~? 占いとか、知識が付け焼き刃でも思い出になると思うんだけど~……」
よく聞くタロットカードなら大アルカナだけ覚えればどうにかなるし、文化祭の占い如きにそう期待している人もいないだろう。
シフト制で、暇な人がとりあえず一人いれば占いになるわけだし。教室を暗くして水晶玉みたいなのを置いておくだけでそれっぽくなるかもしれない。ちなみに俺は割と占いができる。
「占い……」
「あ、もちろん嫌だったら強制しないよ~」
「まさか!! 田中さんの言うことですし!!」
「田中さんのご意見を嫌だなんてそんな!!」
もはや洗脳じみている。
俺の言葉に、クラスがわずかにざわめき始める。ちょっと地味すぎたかな。えっもう地味なのは仕方なくない? こっちは地味陰気人間だぞ、理由のない根暗だぞ。題名のない音楽会みてぇだ。
「──よし、占いで固定して考えてくぞ野郎ども!!」
「おー!!」
いいの!?!?!?!?!?
「不正はなかった」
「一票の格差問題」
「津軽選挙」
よくはないだろ。
盲目っていうかもはや信仰の域に達してない? よくわからん自由の代わりにクソデカ責任を背負わされている。人生だ。嫌だこんな大人の予行演習。
「じゃあはいはいはいはいメイド服!!!!!!!!!」
「ズルこいつ」
いやっ違う我が強いぞこのクラス!! 出し物を占いに固定したことで猫耳だとかメイド服だとかデェコンくん(園芸委員会公式マスコットキャラクター)とかコスプレをやりたがっている。着ぐるみに占われて嬉しいか?
「普通に黒装束じゃダメなんか? あのケープみたいなやつ」
「は? こいつつまらんマジ」
「──いや待て、この目……“漢”だ! 漢の目をしてやがる!!」
「興奮するのか……? お前、それに……ッ!!」
「それはそれとして自分が興奮する格好を自分でしなきゃいけねぇ可能性あるのわけわからないよな」
別にしなきゃいけねぇ訳ではないし、さすがゲイ六割バイ三割の高校である。異常性癖に異常性癖を重ねるんじゃない。
黒装束を上げた生徒の目は澄んでいた。春の湖みたいだった。
「そうだよな……でも、性癖が満たされるチャンスがあるなら……!!」
「飛び込むが漢、ってこと!!」
ってことではない。
俺は虚無になった。紅葉が綺麗である。そもそも俺はある程度貢献したら文化祭は回りたいしな。
熱意に押され、端っこのほうにいる俺と佐藤くんはそっと固まった。ちらほら固まっている生徒がいるので、あとはもう元気な人らに任せたらいいだろう。
「田中くんは文化祭回るの?」
「回る回る。会長とか誘って回りたいなって~」
去年ぼっちだった俺からは考えられないセリフだが現実味を持っているのがひっくり返る。
いいね、と笑った佐藤くんにそういえばと話を繋げた。
「獅童くんが本気でメイドやるって言ってたよ~」
「本気って……あの美少年モード!?」
「うん? たぶん」
「ヒョエーとんでもないことになりそう……」
獅童くんは態度こそ極道狂犬イカレ後輩だが、見た目で言ったら紅顔の美少年である。線の細い彼が本気でメイドをやるとなると、何人の心臓を止めるのだろうか。
「俄然楽しみになってきた……」
「阿鼻叫喚上がるところ見られないかな~」
趣味は悪いが、こういうものしか楽しみがないのである。
「うーん、決まりませんねぇ……」
黒板を見て、担任が参ったような声を漏らす。そこにはそれぞれ数十の候補が上がっていた。スイートたこ焼き、メイドカフェ、お化け屋敷、劇、わなげ、爪楊枝アート……爪楊枝アート????
「色々出たね、田中くんは意見とかない?」
「えっ、ごめんなんか、何も出せなくて~……?」
「ああいや責めてるわけじゃなくて! なんかソワソワしてたから……」
佐藤くんの言うとおり、楽しそうだとは思っていた。いくつかやってみたいこともある。だが俺たちような就職組としては、手間がかかるようなことを動ける人たちに任せるわけにもいかない。
そんな俺をよそに教室内はまだまだ盛り上がっていて、もう秋だというのに暑い。外は紅色が庭木を染め上げていて、高級な染料を使ったみたいだ。
大きくため息をついて机にうつ伏せになれば、察し力の高すぎる佐藤くんがいつものように苦笑した。
「でも、ひとまず言ってみれば? 今のうちならバレないかもだよ」
「うーん……」
まぁでも確かに、意見があるのに言わないのも足を引っ張ることになるだろう。別に何になっても──法律に違反していない限り──不満はないが、俺も何か言うべきか。空気読めないって思われちゃう。読めないよ!!
はーい、と気力なく手を上げる。
教室中がザッ……と静まり返った。あんなに騒がしかったのに。
(もう慣れてきたなこの対応……)
我ながらすごい適応能力である。今空気が海水に変わっても生きていけるんじゃなかろうか。俺は進化しないから無理か。
それはそれとして担任がめちゃくちゃ怯えてる、ごめん。
「あんま手間かけないならさぁ、バルーンプールとか占いとかどう~? 占いとか、知識が付け焼き刃でも思い出になると思うんだけど~……」
よく聞くタロットカードなら大アルカナだけ覚えればどうにかなるし、文化祭の占い如きにそう期待している人もいないだろう。
シフト制で、暇な人がとりあえず一人いれば占いになるわけだし。教室を暗くして水晶玉みたいなのを置いておくだけでそれっぽくなるかもしれない。ちなみに俺は割と占いができる。
「占い……」
「あ、もちろん嫌だったら強制しないよ~」
「まさか!! 田中さんの言うことですし!!」
「田中さんのご意見を嫌だなんてそんな!!」
もはや洗脳じみている。
俺の言葉に、クラスがわずかにざわめき始める。ちょっと地味すぎたかな。えっもう地味なのは仕方なくない? こっちは地味陰気人間だぞ、理由のない根暗だぞ。題名のない音楽会みてぇだ。
「──よし、占いで固定して考えてくぞ野郎ども!!」
「おー!!」
いいの!?!?!?!?!?
「不正はなかった」
「一票の格差問題」
「津軽選挙」
よくはないだろ。
盲目っていうかもはや信仰の域に達してない? よくわからん自由の代わりにクソデカ責任を背負わされている。人生だ。嫌だこんな大人の予行演習。
「じゃあはいはいはいはいメイド服!!!!!!!!!」
「ズルこいつ」
いやっ違う我が強いぞこのクラス!! 出し物を占いに固定したことで猫耳だとかメイド服だとかデェコンくん(園芸委員会公式マスコットキャラクター)とかコスプレをやりたがっている。着ぐるみに占われて嬉しいか?
「普通に黒装束じゃダメなんか? あのケープみたいなやつ」
「は? こいつつまらんマジ」
「──いや待て、この目……“漢”だ! 漢の目をしてやがる!!」
「興奮するのか……? お前、それに……ッ!!」
「それはそれとして自分が興奮する格好を自分でしなきゃいけねぇ可能性あるのわけわからないよな」
別にしなきゃいけねぇ訳ではないし、さすがゲイ六割バイ三割の高校である。異常性癖に異常性癖を重ねるんじゃない。
黒装束を上げた生徒の目は澄んでいた。春の湖みたいだった。
「そうだよな……でも、性癖が満たされるチャンスがあるなら……!!」
「飛び込むが漢、ってこと!!」
ってことではない。
俺は虚無になった。紅葉が綺麗である。そもそも俺はある程度貢献したら文化祭は回りたいしな。
熱意に押され、端っこのほうにいる俺と佐藤くんはそっと固まった。ちらほら固まっている生徒がいるので、あとはもう元気な人らに任せたらいいだろう。
「田中くんは文化祭回るの?」
「回る回る。会長とか誘って回りたいなって~」
去年ぼっちだった俺からは考えられないセリフだが現実味を持っているのがひっくり返る。
いいね、と笑った佐藤くんにそういえばと話を繋げた。
「獅童くんが本気でメイドやるって言ってたよ~」
「本気って……あの美少年モード!?」
「うん? たぶん」
「ヒョエーとんでもないことになりそう……」
獅童くんは態度こそ極道狂犬イカレ後輩だが、見た目で言ったら紅顔の美少年である。線の細い彼が本気でメイドをやるとなると、何人の心臓を止めるのだろうか。
「俄然楽しみになってきた……」
「阿鼻叫喚上がるところ見られないかな~」
趣味は悪いが、こういうものしか楽しみがないのである。
39
お気に入りに追加
329
あなたにおすすめの小説

推しを擁護したくて何が悪い!
人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。
その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。
理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。
そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。
「凛に危害を加えるやつは許さない。」
※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。
※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~
いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。
※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します!
※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い
八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。
11/21 登場人物まとめを追加しました。
【第7回BL小説大賞エントリー中】
山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。
この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。
東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。
風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。
しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。
ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。
おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!?
そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。
何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから!
※11/12に10話加筆しています。

王様は知らない
イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります
性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。
裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。
その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

王子様から逃げられない!
白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

囚われた元王は逃げ出せない
スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた
そうあの日までは
忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに
なんで俺にこんな事を
「国王でないならもう俺のものだ」
「僕をあなたの側にずっといさせて」
「君のいない人生は生きられない」
「私の国の王妃にならないか」
いやいや、みんな何いってんの?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる