王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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監禁! 最後の文化祭

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待て。待ってほしい。俺はどうして監禁されてるんだ。美味しいご飯のふかふかのベッド、充分な学習環境に就活の順調さですっかり忘れていた。何なら昨日くらい武藤様に系列の会社くらいに入れてやるとか言われててウキウキだった。

「ふぁあ……あさごはん……」

武藤様が学校に行った昼、俺はようやく起き始める。大抵朝ごはんを作っていてくれているのでレンチンしてリビングで食べる生活だ。
いくら早起きが出来るとはいえ別に起きなくて良いなら起きたくはない。

基本的に部屋はどこに入っても自由だ。ただ外部との連絡手段は無く、現実的に外に出られる場所も塞がれている。

「……ふぅ。いやまさか、監禁されてたとはなぁ」

なので俺は開き直り、自分の部屋でノートを取り出した。日当たりのいい場所に置いたので、い草のラグはいつもちょっといい匂いがする。敷きっぱなしの布団に座ってローテーブルの上に筆記用具とノートを広げた。

「最初の心当たりはえっと……それこそ二週間前、同居解消を切り出した翌日か」

武藤様に関して節穴であった自信はあるので、俺は昨日くらいご飯を食べて歯を磨いて風呂に入って寝る寸前くらいまで気がついていなかった。監禁について。流石に引かれた。

──その俺が知っている心当たり。
二週間前のことである。旧校舎に移り住む気満々の俺はその日、放課後に自分用の部屋を整えて遅くなっていた。

ちなみに図書室に付属している教官室が俺の部屋である。信じられないくらい同室者が多い(教室が少ないため。イブキ派の子達は楽しそうだが)中で一人で使える教官室は貴重なのだ。

「、あれ? あれれ」

そうしてウキウキで夜部屋に帰ってくると、何度やっても鍵が開かない。差し込めない。
ガチャガチャうるさかったのか中からガチャリと音がして、ひょこりと武藤様が顔を覗かせた。晩御飯のいい匂いと共に。

「うるせーぞ……っと、そうか。悪りぃ、鍵変えたんだ昼に」
「びっくりした! 鍵取り違えたのかと思った、言ってよそういうの」
「だから謝ってんだろ。もともとこの日に業者呼ぶ予定だったんだよ。昼だからてめーいねぇだろ」
「だとしても鍵変わってたらびっくりするって」

至極和やかな会話である。俺は勝手に傷ついたが、そもそも同居解消するなら利用されないよう鍵を変えるのも普通だ。
次の日から武藤様にメールしたら開けてくれるようになったので、短い期間と思えば不便もなかった。

問題はない。問題はその、鍵の形だった。

エプロンをつけた武藤様がスタスタとリビングに歩いて行く。その背中に見惚れながら振り返ると、そこには明らかに複雑な鍵穴が。

「えっ?」
「何だ」

なんだじゃなくて。
俺の知ってる限りこの家は普通の鍵だったはずだ。なんの変哲もない外鍵。

「なんか、ゴツくなってない?」
「治安カス高校にはふさわしいだろうよ」
「それはそうだけどさ……」

なのに今回はなんなのだろう。扉の内側に鍵がある。多分内側から鍵を開けて、外で閉める奴なのだろう。なんでそんな無駄を。鍵とか無くしたら一生出られなくないか?

「俺は無くさねぇからな、鍵。どーせ俺の朝ジョグ終わりくらいには起きてくるんだから、別に支障ねーだろ」
「それはそうか」

セキュリティ意識の高い人なのかもしれない。本当にセキュリティが上がっているかはともかく。
そう納得し、実際に俺は武藤様より早く出て遅く帰ってくるわけだし。

そうして外から鍵をかける仕組みになった結果、俺は今家から出れずに困っているという訳だ。
なんかグラデーションだった。

最初は早退とかで早く帰らせるようになって、少しずつこの場所に慣らし、鍵が取り上げられたのだ。

玄関に行くまでの場所には格子があって、はめ殺しの状態である。これもしっかり鍵があって脱走は不可能。
何より触れれば武藤様の携帯にアラームがゆくらしい。困ったことである。

「うーーん」

何よりもうすぐ文化祭なのに、バイトも休んでるのに、授業も追いつかなければいけないのに。

(ちょっと役得かも……)

喜んでいる愚かな男心があるのでもうだめだ。
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