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密着! 夏休み旅行!
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巫女の舞が終わったら、レジの残金を確認している俺たちの元に狐面を被った着物姿の男性がやってきた。
「あ、助っ人のひとですか?」
頷く。言葉は返されないが、まぁ意思疎通はできるっぽい。いくつか確認事項を口に出せばそれに適切な答えが返ってきて、安心して交代した。
「ようやく終わった~! 流石に時間給出て良いっしょ」
「自分で志願したんだろう」
そうだけども。ぐっと伸びをすれば、関節の辺りがゴキゴキと鳴る。嫌な音である。
真道といえば特に疲れてもいない様子で、興味深そうに屋台ののぼりをあちらこちらへと見ている。チーズハットグ、電球ソーダ、ケバブ、フルーツ飴……ううん、都会に迎合しようとしている。
「センパイがた~!」
「ちょっ、まっ、待って……獅童(?)!」
ブンブンと懐いた犬のように手を振って、お面屋の……境内とは反対の方向から獅童くんが走ってくる。その後ろには、何やら綿飴やらフランクフルトを持った島田くんが。
「や、獅童くん。助っ人には挨拶した?」
「しました! いやぁ、お面屋ち言うから料理もせんけん楽なもんやと思っとったけど、結構人くるもんなんやねぇ」
「獅童……大月獅童か!? これが!?」
「何や先輩、失礼なやっちゃなー」
真道が困惑し、とうとう眼鏡が落ちる。地面に落ちる前にキャッチしてメガネを渡せば、かけることなく懐にしまわれた。じゃあ最初からそうしておけ。たまにいけすに落としてたの知ってるんだからな。
「そうそう、大月獅童。変装に関してはいちおう理事長の意向らしい……だよね? 何で今日美少年モードなの」
「かつらとメガネ邪魔や」
「理事長の意向にしては着脱自由だな! いや、大月獅童がここまで従っているのだから自由でもないのか……」
獅童くんは思っていたより深く理事長と関わりがあるらしく、ルームシェアしていた間に理事長に何度か呼び出されては指導くんに悪影響を及ぼしていないか事細かに検査された。
獅童くんに手を出しているのではないかと敵意を向けられはしたものの、俺自身そこまで理事長を尊敬しているわけでもないので──可愛い後輩に不自由な思いをさせてまでくだらない意志を貫くあたりが尊敬できない──ノーダメである。
「い……いやいや! 何で僕にも教えてくんなかったのさ!?!? 一応仲良い自負はしてたんだけど!?」
「祐司は知っとるで。同室やし」
「ドライ!! ドライすぎる、本当に人の子なの!? じゃあ何で田中さまは知ってるんですか!!」
イブキたちの担当している焼きそば屋は鳥居から出て下の方にある。四人で固まって歩いていると、後ろの方で島田くんと獅童くんがほんのりと言い争っていた。というか島田くんが怒っているだけだが。よく見る光景である。
「ああ、リンチから助けたときにちょっとね~。別におれもわざわざ明かしてもらったわけじゃないよぉ」
「そういえば、その事件の真相も謎だな。あの犬? は一体どういう事なんだ」
獅童くんのためにも他人にわざわざ詳細なんて言いふらさないので、集団リンチに関しては内々で処理することになっていた。まぁ噂が出回っていたので無意味だったのだが、詳細は語られなかったのが不幸中の幸いだろう。
絹糸のようなさらさらした銀髪を揺らし、ちゃらちゃらっと軽い手錠の音を鳴らして獅童くんが俺の腕に絡みつく。
「秘密でーす! ただひと言言うなら、世界が惚れるお人やったですよ、ありゃ!」
「ちょっと獅童、離れて!! 大体田中さまがカッコいいのなんてみんな知ってるから!」
「ちゃうちゃう、イケメン、やなくて男前! 男の中の男やって話!」
「それはないでしょ!」
島田くん!?!?!?!?!?
やけに俺のことを買ってくれている獅童くんに罪悪感を抱きつつ──俺の話が無ければ傷一つ負わずに済んだので──当事者の一人でもある島田くんの評価に傷付く。そんなことある?
「確かに、子供相手に煽る上にカスの勝ち方しかしない師匠は若干男らしいの枠からは外れるな」
「……ッ! 反論はできないけど!!」
真藤!!!!!!!!!
もう少し俺に対して優しくしてくれてもいいんだぞ。こうちゃんのケジメって流れではあるけど、生徒会のピンチを救った立役者なんだから。
「おおー、大将とチビたちやないけ」
「…………疲れました」
と、噂をすれば影がさす。前方からイブキと副会長がやってきていた。イブキはぴんぴんしているが、副会長はなんだかぐったりしている。一体どうしたのだろうか。というか狐面あるの視認性悪すぎるな。
「焼きそば……共通のルールでは作れない未知の食べ物。聞いてください真道くん、この蛮族、分量もろくに測らず焼きそばを作るんですよ!」
「あんたが細すぎるだけじゃ!」
ああ~、なるほど。真っ先に駆け寄られた真道が首を傾げた。多分苦笑しているのだろう。何度でも思い返すが生徒会執行部の方々は古くからの幼馴染である。
「俺は時々刑部が心配になるぞ。九鬼には調理経験があるのだし、従っておきなさい」
「……貴方にしては珍しい言葉ですね」
「そうか?」
「ええ、貴方はいつも私達の味方でしたから。別に構いませんが」
二人のそんな会話を横目で見てちょっと和む。副会長もやっぱ弟分側なんだ。というかこいつ、昔喫茶アネラに来た時飲み物ひとつ飲むのにあんな苦戦しといてよく言うわ。
「アイスカフェオレ相手にあんな手こずっちょってよく言うわ」
「お前も居たっけあん時」
「ショートケーキ作っちゃったんは誰や思うちょったがじゃ」
曰く、キッチンの方で変な客に困惑していたらしい。まぁそれもそうだよな。最近喫茶アネラはイブキの料理がなければ立ち行かなくなっている。いや、ひまりさんのことなのでどうとでもするのだろうけど。
前方で島田くんと獅童くんが何やらはしゃぎ回っていて、後ろではそれぞれ手錠で繋がれた真道と副会長が世間話に花を咲かせている。
「…………」
「…………」
余っている、俺たちが。
「あ、助っ人のひとですか?」
頷く。言葉は返されないが、まぁ意思疎通はできるっぽい。いくつか確認事項を口に出せばそれに適切な答えが返ってきて、安心して交代した。
「ようやく終わった~! 流石に時間給出て良いっしょ」
「自分で志願したんだろう」
そうだけども。ぐっと伸びをすれば、関節の辺りがゴキゴキと鳴る。嫌な音である。
真道といえば特に疲れてもいない様子で、興味深そうに屋台ののぼりをあちらこちらへと見ている。チーズハットグ、電球ソーダ、ケバブ、フルーツ飴……ううん、都会に迎合しようとしている。
「センパイがた~!」
「ちょっ、まっ、待って……獅童(?)!」
ブンブンと懐いた犬のように手を振って、お面屋の……境内とは反対の方向から獅童くんが走ってくる。その後ろには、何やら綿飴やらフランクフルトを持った島田くんが。
「や、獅童くん。助っ人には挨拶した?」
「しました! いやぁ、お面屋ち言うから料理もせんけん楽なもんやと思っとったけど、結構人くるもんなんやねぇ」
「獅童……大月獅童か!? これが!?」
「何や先輩、失礼なやっちゃなー」
真道が困惑し、とうとう眼鏡が落ちる。地面に落ちる前にキャッチしてメガネを渡せば、かけることなく懐にしまわれた。じゃあ最初からそうしておけ。たまにいけすに落としてたの知ってるんだからな。
「そうそう、大月獅童。変装に関してはいちおう理事長の意向らしい……だよね? 何で今日美少年モードなの」
「かつらとメガネ邪魔や」
「理事長の意向にしては着脱自由だな! いや、大月獅童がここまで従っているのだから自由でもないのか……」
獅童くんは思っていたより深く理事長と関わりがあるらしく、ルームシェアしていた間に理事長に何度か呼び出されては指導くんに悪影響を及ぼしていないか事細かに検査された。
獅童くんに手を出しているのではないかと敵意を向けられはしたものの、俺自身そこまで理事長を尊敬しているわけでもないので──可愛い後輩に不自由な思いをさせてまでくだらない意志を貫くあたりが尊敬できない──ノーダメである。
「い……いやいや! 何で僕にも教えてくんなかったのさ!?!? 一応仲良い自負はしてたんだけど!?」
「祐司は知っとるで。同室やし」
「ドライ!! ドライすぎる、本当に人の子なの!? じゃあ何で田中さまは知ってるんですか!!」
イブキたちの担当している焼きそば屋は鳥居から出て下の方にある。四人で固まって歩いていると、後ろの方で島田くんと獅童くんがほんのりと言い争っていた。というか島田くんが怒っているだけだが。よく見る光景である。
「ああ、リンチから助けたときにちょっとね~。別におれもわざわざ明かしてもらったわけじゃないよぉ」
「そういえば、その事件の真相も謎だな。あの犬? は一体どういう事なんだ」
獅童くんのためにも他人にわざわざ詳細なんて言いふらさないので、集団リンチに関しては内々で処理することになっていた。まぁ噂が出回っていたので無意味だったのだが、詳細は語られなかったのが不幸中の幸いだろう。
絹糸のようなさらさらした銀髪を揺らし、ちゃらちゃらっと軽い手錠の音を鳴らして獅童くんが俺の腕に絡みつく。
「秘密でーす! ただひと言言うなら、世界が惚れるお人やったですよ、ありゃ!」
「ちょっと獅童、離れて!! 大体田中さまがカッコいいのなんてみんな知ってるから!」
「ちゃうちゃう、イケメン、やなくて男前! 男の中の男やって話!」
「それはないでしょ!」
島田くん!?!?!?!?!?
やけに俺のことを買ってくれている獅童くんに罪悪感を抱きつつ──俺の話が無ければ傷一つ負わずに済んだので──当事者の一人でもある島田くんの評価に傷付く。そんなことある?
「確かに、子供相手に煽る上にカスの勝ち方しかしない師匠は若干男らしいの枠からは外れるな」
「……ッ! 反論はできないけど!!」
真藤!!!!!!!!!
もう少し俺に対して優しくしてくれてもいいんだぞ。こうちゃんのケジメって流れではあるけど、生徒会のピンチを救った立役者なんだから。
「おおー、大将とチビたちやないけ」
「…………疲れました」
と、噂をすれば影がさす。前方からイブキと副会長がやってきていた。イブキはぴんぴんしているが、副会長はなんだかぐったりしている。一体どうしたのだろうか。というか狐面あるの視認性悪すぎるな。
「焼きそば……共通のルールでは作れない未知の食べ物。聞いてください真道くん、この蛮族、分量もろくに測らず焼きそばを作るんですよ!」
「あんたが細すぎるだけじゃ!」
ああ~、なるほど。真っ先に駆け寄られた真道が首を傾げた。多分苦笑しているのだろう。何度でも思い返すが生徒会執行部の方々は古くからの幼馴染である。
「俺は時々刑部が心配になるぞ。九鬼には調理経験があるのだし、従っておきなさい」
「……貴方にしては珍しい言葉ですね」
「そうか?」
「ええ、貴方はいつも私達の味方でしたから。別に構いませんが」
二人のそんな会話を横目で見てちょっと和む。副会長もやっぱ弟分側なんだ。というかこいつ、昔喫茶アネラに来た時飲み物ひとつ飲むのにあんな苦戦しといてよく言うわ。
「アイスカフェオレ相手にあんな手こずっちょってよく言うわ」
「お前も居たっけあん時」
「ショートケーキ作っちゃったんは誰や思うちょったがじゃ」
曰く、キッチンの方で変な客に困惑していたらしい。まぁそれもそうだよな。最近喫茶アネラはイブキの料理がなければ立ち行かなくなっている。いや、ひまりさんのことなのでどうとでもするのだろうけど。
前方で島田くんと獅童くんが何やらはしゃぎ回っていて、後ろではそれぞれ手錠で繋がれた真道と副会長が世間話に花を咲かせている。
「…………」
「…………」
余っている、俺たちが。
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