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密着! 夏休み旅行!

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どんどんぴゃらり、ぴーひゃらり。

祭囃子の音と共に、祭りはどんどん進んでいく。子供達とたまに大人の金魚掬いを見守りつつたまに世間話をする簡単な仕事。本来簡単ではないのだが、事前準備のおかげで簡単なものになっているのだろう。

神事の用意は粛々と進められていて、水明の巫女が舞台袖で控えているのが見えた。そのうちの一人にユキちゃんを見つけて手を振ると、嬉しそうに振り返された。

「そういえば」
「ん?」

美しい巫女を一目見ようと境内の方に人だかりができる。それを横目に、客の出入りが途絶えた屋台でまた椅子に座れば、同じように座っていた真道がこちらを向いた。

「お前はユキ殿の思いには答えないのか?」
「っげほ! げほげほ!!」
「おお」

びっ……くりした。めちゃくちゃ咽せてしまった。
純粋な声で何を言い出すんだコイツは。
どこからかイカ焼きの匂いがして、祭囃子が止まる。巫女の舞が始まるのだろう。
俺は手元のポイをくるりとひっくり返した。

「……本人が言わない思いを、俺がどうこう言うことはないかな」
「気付いてはいるのか」
「ま、何となく」

若干そうかもしれないな、と思っていた。真道の言葉とさっきのユキちゃんで確信に至った。その程度だ。別に特別鋭いわけでもないが、特別鈍いほどでもない。

ただ、さっき気がついたからと言ってどうということもない。大人には大人の付き合い方があるのだ。高校生が子供だとしても。

「聞きたいんだけど、応えるつもりもないのにお前俺好きなんだろーなんて……幼稚で不誠実だとおもわねぇ?」
「応えないのか」
「応えないよ」

ユキちゃんは可愛らしい。可憐だ。健気で素直で働き者、一本芯の通ったところがある女性で尊敬できるし、好感が持てると思う。

幸せなのだろうと思った。

ユキちゃんという子に愛された男は、とんでもなく幸せになると思う。
彼女を幸せにしてやろうと張り切って、彼女の笑顔に幸せになって。
そういう将来がよく見える女の子だ。

幸せになってほしいと思う。
叶うならば泣かないでほしい。

「ここで座って、彼女の舞を見に行かない」
「……」
「それが答えだ」

可愛らしい、それこそ雪のような女の子。
そんな子の涙よりずっと、俺の方を見てるんだかわからない金色の瞳に囚われているのだから重症だ。

「お前という男は、ずるずると希望を持たせるタイプだと思っていた」
「半分正解で半分間違いだ。正面切って来ないなら俺も正面からは行かないね。ユキちゃんは特別」

ユキちゃんはよく知った相手だから、出来る限り早く次に行けるよう気を持たせるような行動はしない。ことにした。
ただそれ以外であれば、俺は表に出されたものだけを受け取ることにしている。コミュ障なので裏の裏まで読み取ってらんないし、何よりほじくり返すことで傷つく人もいる。

「……そうか、まぁ、気をつける」
「気を付けてね」

何が、とは言われなかった。
言われてないから、深く考えなくてもいいのだろう。舞に使われる流麗な音楽が遠くなっていく。祭りもそろそろ終わりだろう。
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