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密着! 夏休み旅行!

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二時間後、概ねルールを理解した子供達は各々ペケモンカードで遊び出していた。

「ッヒャア!!!!!!!!! 俺のカ○ジデッキの勝ちだァ!!!! ヒリつくぜェ!!!!」
「くっ、くそ~!!!! 宗介なんて普段運悪いくせにこんな!!」
「おいそれ以上言うなよ、敗者に勝者を傷つける権利なんてねーんだからな!!!!!!!!!」

これが真の“遊び方”である。攻略を見て必ず勝てるように進められる今時のスマホっ子にはない、完全運ゲーデッキ。コイントスに全てを賭けたデッキである。

失敗すればダメージも与えられずなすすべもなく負けるが、うまく作用した瞬間クソデカダメージが必至。しかし何度も運ゲーに成功しないといけない極限運試しである。

「何だよマジでこのデッキ!! 最悪じゃねーか!」
「ペッペッ」
「おいこら唾を吐くな。しかもカード避けて。カードも俺も大切にしろ」
「宗ちゃん最悪! でも何でだろう私……このデッキに、惹かれてる……?」
「ヤバい覚醒の仕方してるやついるな」

さっきまで可愛い絵柄のカードにはしゃいでいた女の子がドキ……と胸を高鳴らせていた。このデッキに胸を高鳴らせるって相当才能があるぞ。磨いてみたいな、この原石を。

「……使ってみる?」
「え! ……でっ、でも……」
「大丈夫、確かにカードの見栄えは良くないけど……楽しそうだと思ったその心こそが真理だ」

隣で真道が嫌そうな顔をしていた。ゲームも知らないおぼっちゃまにカスデッキを教えてしまったかもしれんな。
恥ずかしそうにもじ、と両手を組む女の子は可愛らしく、服装もお上品で汚れひとつない。公園でも外の方から眺めて声援を送っていたし、これはクラスのマドンナだろうな。

りんごのように染まったほっぺで、女の子はおずおずとデッキを受け取った。

「うんうん。じゃあこの子と対戦したいって子~」
「俺やる俺やる俺やる!!」
「僕の方が強いし!!」
「はいはいはいはい!!」
「素直だなガキどもは~」

八割くらいデッキへの雪辱も入ってそうだが。戸惑うその子に視線を送ってみるもデッキを見るのに夢中である。
仕方ないので適当に一番前にいた男子をむんずと掴み正面に座らせた。

「あんなあんな、ルールわかる? 俺教えるからな!」

おーおーはしゃいどるわ。穏やかに話を聞いてあげる女の子。選ばれなかった子供からは恨みがましい視線を向けられたが知らんぜ。

他の場所で対戦していた──俺が無駄にコレクションしていたのでそれでデッキを組ませた──みつるの元に顔を出す。

「ずっと僕のターン!!」
「ぐわぁぁあ!!」

カスの勝ち方をしている。

「血縁だな」
「本当に血が濃いね~」

覚えてろよーと逃げ帰った子供の背中を見て、俺はちょっと笑ってしまった。なかなかうまく馴染めたじゃないか。

「よっ、みつる」
「おじちゃん!」
「楽しそうじゃん」

みつるの正面に腰掛けると、運動してもいないのにほっぺを真っ赤にしたみつるが楽しそうに頷いた。これからこの街のファミリーは割とペケカを強請られると思うが、まぁうちの可愛い甥のために許して欲しい。

「うんっ! ……でも、ごめん」
「ん?」
「おじちゃん達みたいな大人は、楽しくないかも……僕たち子供だし」
「なに──」
「そんな事はないぞ!」

いってるんだ、と口にする前に、隣から心底驚いたような声が飛んできた。

「恥ずかしながら俺は、この手のゲームを殆ど知らなかったからな。みなにもあまり勝てていない。偉そうな事は言えないのだが……この男が楽しんでいるのは伝わってくるし、俺も楽しい」

負けたら悔しいが、とはにかむように笑う。子供と視線を合わせるためにピンと伸ばした姿勢を曲げて、キリッとした眉を下げ、ほんのりと頬を染める姿。それはいつもの厳格な風紀委員長じゃなくて──もうそれは今更なのかもしれない。

「学校でのこの男は、もっと他人に壁を作っている。うちは少し難しいところでな……みつる殿には想像もつかないくらい、他人に弱みを見せていない」
「……真道こそ、いつもいつも風紀だ何だと厳しいよね~?」
「取り締まるものがいなくてはとうとう瓦解するだろう。権力の大きさには責任も比例する」
「はぁ、お前は道理しか説かない」

堅物真面目から拗らせスケベ童貞、一周回って超堅物真面目に印象が変化していく。別に拗らせすけべも間違ったものではないのだろうけれど、だから堅物で真面目な一面が嘘だと言うわけではない。

「……大体は知ってるもん。おじちゃんが教えてくれたし」
「それはそうだな。だが俺は、この男がこんなに楽しそうなのは、昨日今日で初めて見た」

そうだったっけ。ああでもなんか、地元に来てから肩肘張ってないような気がする。というか肩肘張ってチャラ男を貫いてあとでいじられるのが嫌すぎる。

わしゃわしゃと頭を上から撫でくりまわされた。荒事に慣れた無骨な手が、指が引っかからないように髪をかき混ぜる。鎖が当たって痛い。

町内放送が鳴っていた。日が傾きかけていて、メガネの奥の瞳が優しく細まる。柔らかに、兄のように男が笑った。

「安心しているのだろうな」
「ちょっと、やめ、やーめーろーや!」

ぺっぺっと不躾な手を払って、みつるに向き直った。カードをぎゅっと胸元に抱いた子供のほっぺをつつく。

「兄ちゃんは……まぁ、恥ずかしながら、ゲームセンターとか少し前に初めて行ったし、そんではしゃぎすぎて倒れたし、今時の遊びは分かんないんだ」
「おじちゃんが?」
「ウン。友達とか少ないし……まぁだから、みつるが遊んでくれて嬉しいんだよ」

これからもみんなと仲良くな、と笑えば、みつるがこくこくと頷いた。大人の介入はこのくらいで終わったほうがいいだろう。また帰ってきた時にでも遊んでもらおう。

「ガキども~、俺そろそろ帰るからな! 帰る時はみつるにカード返せよー! なくしたら弁償だぞ!」

はーい、とばらばらの声が揃う。まぁ親が迎えにくるだろうし、その時にボコボコにしたってバレたら怒られっかな。いいけど。

「おじちゃんもう行っちゃうの?」
「ん。そろそろ飯だし……また遊んでくれよ」

ほっぺを真っ赤に染めたみつるが何度も何度も頷いた。真道と共に立ち上がり、公園から出る。お腹減ったな。

そういえばさっきデッキかした子どうなったんだろ。

「あっっは!!!! 私の勝ち!! ああ~気持ち良い……♡」
「クソーーーッッッ!!!!!!!!!」

カスの勝ち方をしている……
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