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密着! 夏休み旅行!
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自分で対処できるくせに声をかけてきた姉に辟易とする。店員として暴力を振るうわけには行かないとかいう謎の職業倫理が働いているのだろう。くそである。俺は無視することにした。
「えっ、あれ店員さんの弟くん? 結構美人じゃね~か!」
「やば、お前ホモじゃん!」
マスターからもらったホットミルクを啜った。ちょっっっ……と熱いな……だいぶぐつぐついってるしな
「マスター、流石にこれ客に出す? 普通……」
ちょび髭の老紳士然としたマスターが、俺の頼りない文句に片眉をピンと跳ねさせた。細い目をにこにこといつも通り微笑ませ、失敗ではないと告げる。
「あちらのお客様にサービスです」
「なるほど」
俺のホットミルクがサービスに使われている。マスターも巻き込む気満々らしい。全くこの町の人はいつまでも俺のことを手のつけられない悪ガキだと思ってるんだから。
「お姉ちゃんを助けなくて良いんでちゅか~弟くーん」
「おい無視かよ、態度悪いな~」
「お前らどこ高? 地元の子かな~??」
制服を見る限りウチの町にある高校の制服ではないので、俺たちと同じく旅行に来ている学生だろう。夏休みにも旅行があるなんて珍しいな。しかも手錠に繋がれてるわけでもないし。
「けどよヨッちゃん、よくこんなとこ見つけたな? 折角りんご飴専門店なんてもんもあるのに」
「馬鹿が、そんなもん俺の地元で幾らでも行けるだろ。そこにしかない店に行くのが旅行の醍醐味よ!」
パクってんじゃねー俺のセリフを。
旅行の美学だけは同意できるの腹立つなー何者だこのよっちゃんは。
バーカウンターの端っこに腰掛けた俺の隣、真道が不快そうに眉を顰めている。高校の制服を着て問題を起こせば受験期の俺たちには大打撃だしな……。
「喧嘩売っとんのか──ぶわぁっち!!」
「お、やるじゃないかクソガキ」
俺は沸騰したホットミルクをぶちまけた。姉は予測していたのかサッと離れ、窓際の席に居る男達が、リーダー格らしいヨッちゃんが目潰しされたのに驚いて一旦動きが止まる。
その間に姉がお盆で男どもを叩きのめし、反響音と共に動かなくなった。俺はヨッちゃんの喉元目掛けて指を抉り込ませる。
「ぐぇっ」
「はーい喧嘩代金2000円になりまーす。今日はクソ弟に貸してやるよ、テメーに借り作るのはキモいしな」
「くれるんだ、珍し。なんか怖……」
「てめーも仲間入りするか?」
姉ちゃんが叩きのめした五人の服を漁り、タバコを取り出して吸い始める。未成年喫煙! こういうチンピラは憧れるよな、姉ちゃんもそうだったし
「今一万寄越してくれるお姉様に不敬なこと考えなかったか?」
「いやまさか……ヘヘぇ……」
しかし五人はぴくりとも動かない。しにはしてないと思う、気絶だろう。こんなの絶対姉ちゃん一人で何とかなったな……俺を巻き込んだ理由は本当に何。
「コラ!! それは強奪だろう、容認出来んぞ!!」
「げ、真道……ちがうの~、おれが喧嘩を売って相手が買ったの。これはその料金! あいつらだって喧嘩売ってるのか~って言ってたじゃーん!」
「その屁理屈が通用するのは瑛一までだぞ!!」
「かいちょ~は通じるんだ……」
相変わらず案外純真無垢な人(恋愛フィルター加味)である。クソ、でも腹立つからなんか仕返ししてやりたいんだよなぁ~。
ナンパして弟来たら関わってないのに暴力を振るうっておかしいだろ……お金も欲しいし……
「…………相手が自ら差し出してきたら良い?」
「何をするつもりだお前は。一応言っておくが恐喝や脅迫は認めないからな」
「おれのことなんだと思ってるの~?」
「宗介さんのことをよく理解なされた方だと思いますが」
「マスター!」
俺は別に恐喝も脅迫もしない。コミュ障はそういうの苦手なのである。他人に向けた悪意の数×時間で夜眠れなくなるので。まぁ忘れたものは思い出さないが。
だが構わない。なにしろさっき姉ちゃんがついでによこした校章で思い出したのである、この高校のことを。つまらなそうに10000円分を机の上に置く姉ちゃん。
「い…………つつ……」
「はいおはよ~。越屋紫耀さん」
「ッ、ヒ! な、何で俺の名前」
「え? 何でだろ~。都立千桐高校三年生、越屋家の放蕩長男だってことは分かっちゃうな~このカードのせいかな~」
商人の家系である越屋は古くから続く名家の一つ。まさかそれがこんな釣れるとは思わなかったが、さらに千桐高校はある特徴がある。
都立屈指のヤンキー校である千桐高校。周囲のチンピラをかき集めたようなその場所には、疑いようもない上下関係が刷り込まれていた。
──学生証を折られた奴は人権がなく、折った相手に絶対服従。傷のない学生証は強者の証であり、折られた学生証は負け犬である。
何だそのシステム。
クルクルと学生証を回す俺に、青ざめたヨッちゃんこと越屋くんが膝をつく。もうついてるけど。
「……すんませんっした!!!! 自分、初めての旅行でハシャいでまして!!!! 学生証だけは……!!」
「へぇ、学生証かァー。学生証に何があるワケ? どうしよっかな、喧嘩代まだ払ってもらってないし……君たちいわく、おれが売って君たちが買ったんだもんね~?」
不良には不良の流儀で返すのが礼儀であり、ルールだ。いちいちまともに相手していてはキリがない。手持ち無沙汰に学生証で遊んでいれば、カウンターにそっくり12000円が乗せられる。
「これで、どうか……!」
「……いや~、悪いね。金払えなんて言ってないけど、そんな誠意見せられたらねぇ~」
はい、と全員分の学生証を返してやる。姉ちゃんが料金吹き込んだんだろうな、あの女に絡んだのが運の尽きである。
逃げ帰ったヨッちゃんたちににこやかに手を振って、真道を振り返った。
「……恫喝、脅迫はしてないからね」
「少なくとも、お前がイブキの主人である確証は得られたな」
「勝手に売ってもない喧嘩買ったのはあっちだかんね」
まぁでもやりすぎたかな。次会ったら優しくしておこう。
「えっ、あれ店員さんの弟くん? 結構美人じゃね~か!」
「やば、お前ホモじゃん!」
マスターからもらったホットミルクを啜った。ちょっっっ……と熱いな……だいぶぐつぐついってるしな
「マスター、流石にこれ客に出す? 普通……」
ちょび髭の老紳士然としたマスターが、俺の頼りない文句に片眉をピンと跳ねさせた。細い目をにこにこといつも通り微笑ませ、失敗ではないと告げる。
「あちらのお客様にサービスです」
「なるほど」
俺のホットミルクがサービスに使われている。マスターも巻き込む気満々らしい。全くこの町の人はいつまでも俺のことを手のつけられない悪ガキだと思ってるんだから。
「お姉ちゃんを助けなくて良いんでちゅか~弟くーん」
「おい無視かよ、態度悪いな~」
「お前らどこ高? 地元の子かな~??」
制服を見る限りウチの町にある高校の制服ではないので、俺たちと同じく旅行に来ている学生だろう。夏休みにも旅行があるなんて珍しいな。しかも手錠に繋がれてるわけでもないし。
「けどよヨッちゃん、よくこんなとこ見つけたな? 折角りんご飴専門店なんてもんもあるのに」
「馬鹿が、そんなもん俺の地元で幾らでも行けるだろ。そこにしかない店に行くのが旅行の醍醐味よ!」
パクってんじゃねー俺のセリフを。
旅行の美学だけは同意できるの腹立つなー何者だこのよっちゃんは。
バーカウンターの端っこに腰掛けた俺の隣、真道が不快そうに眉を顰めている。高校の制服を着て問題を起こせば受験期の俺たちには大打撃だしな……。
「喧嘩売っとんのか──ぶわぁっち!!」
「お、やるじゃないかクソガキ」
俺は沸騰したホットミルクをぶちまけた。姉は予測していたのかサッと離れ、窓際の席に居る男達が、リーダー格らしいヨッちゃんが目潰しされたのに驚いて一旦動きが止まる。
その間に姉がお盆で男どもを叩きのめし、反響音と共に動かなくなった。俺はヨッちゃんの喉元目掛けて指を抉り込ませる。
「ぐぇっ」
「はーい喧嘩代金2000円になりまーす。今日はクソ弟に貸してやるよ、テメーに借り作るのはキモいしな」
「くれるんだ、珍し。なんか怖……」
「てめーも仲間入りするか?」
姉ちゃんが叩きのめした五人の服を漁り、タバコを取り出して吸い始める。未成年喫煙! こういうチンピラは憧れるよな、姉ちゃんもそうだったし
「今一万寄越してくれるお姉様に不敬なこと考えなかったか?」
「いやまさか……ヘヘぇ……」
しかし五人はぴくりとも動かない。しにはしてないと思う、気絶だろう。こんなの絶対姉ちゃん一人で何とかなったな……俺を巻き込んだ理由は本当に何。
「コラ!! それは強奪だろう、容認出来んぞ!!」
「げ、真道……ちがうの~、おれが喧嘩を売って相手が買ったの。これはその料金! あいつらだって喧嘩売ってるのか~って言ってたじゃーん!」
「その屁理屈が通用するのは瑛一までだぞ!!」
「かいちょ~は通じるんだ……」
相変わらず案外純真無垢な人(恋愛フィルター加味)である。クソ、でも腹立つからなんか仕返ししてやりたいんだよなぁ~。
ナンパして弟来たら関わってないのに暴力を振るうっておかしいだろ……お金も欲しいし……
「…………相手が自ら差し出してきたら良い?」
「何をするつもりだお前は。一応言っておくが恐喝や脅迫は認めないからな」
「おれのことなんだと思ってるの~?」
「宗介さんのことをよく理解なされた方だと思いますが」
「マスター!」
俺は別に恐喝も脅迫もしない。コミュ障はそういうの苦手なのである。他人に向けた悪意の数×時間で夜眠れなくなるので。まぁ忘れたものは思い出さないが。
だが構わない。なにしろさっき姉ちゃんがついでによこした校章で思い出したのである、この高校のことを。つまらなそうに10000円分を机の上に置く姉ちゃん。
「い…………つつ……」
「はいおはよ~。越屋紫耀さん」
「ッ、ヒ! な、何で俺の名前」
「え? 何でだろ~。都立千桐高校三年生、越屋家の放蕩長男だってことは分かっちゃうな~このカードのせいかな~」
商人の家系である越屋は古くから続く名家の一つ。まさかそれがこんな釣れるとは思わなかったが、さらに千桐高校はある特徴がある。
都立屈指のヤンキー校である千桐高校。周囲のチンピラをかき集めたようなその場所には、疑いようもない上下関係が刷り込まれていた。
──学生証を折られた奴は人権がなく、折った相手に絶対服従。傷のない学生証は強者の証であり、折られた学生証は負け犬である。
何だそのシステム。
クルクルと学生証を回す俺に、青ざめたヨッちゃんこと越屋くんが膝をつく。もうついてるけど。
「……すんませんっした!!!! 自分、初めての旅行でハシャいでまして!!!! 学生証だけは……!!」
「へぇ、学生証かァー。学生証に何があるワケ? どうしよっかな、喧嘩代まだ払ってもらってないし……君たちいわく、おれが売って君たちが買ったんだもんね~?」
不良には不良の流儀で返すのが礼儀であり、ルールだ。いちいちまともに相手していてはキリがない。手持ち無沙汰に学生証で遊んでいれば、カウンターにそっくり12000円が乗せられる。
「これで、どうか……!」
「……いや~、悪いね。金払えなんて言ってないけど、そんな誠意見せられたらねぇ~」
はい、と全員分の学生証を返してやる。姉ちゃんが料金吹き込んだんだろうな、あの女に絡んだのが運の尽きである。
逃げ帰ったヨッちゃんたちににこやかに手を振って、真道を振り返った。
「……恫喝、脅迫はしてないからね」
「少なくとも、お前がイブキの主人である確証は得られたな」
「勝手に売ってもない喧嘩買ったのはあっちだかんね」
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