王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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密着! 夏休み旅行!

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 食事中に喋るというのもそこまで無いので、黙々と冷やし中華を味わいデザートのスイカまで食べ、ぷはぁと腹を摩った。そういえば何となく椅子って食事中よりかからないよな。

「まぁ、食う姿勢は悪くねぇからな」
「そーなん?」
「双子は酷い。見てみろ」

 ああなんか、想像つくな。そう言うと皿を洗っていた武藤様が声を顰めて笑った。だろ? とでも言いたげな笑い方だ。

 最近は微笑み程度だが、心から笑ってくれている頻度が増えている気がする。俺は嬉しい。

「流石にやらせっぱなしは悪いし、俺手伝」
「は? 近付くな」
「なんで?」

 だが俺が何かしようとすると一気に不機嫌になる。なぜ?
 嫌われてるのかとも思ったが、バイトのために料理や掃除を覚えたいと言うと時間を作って道具を用意し教えてくれる。

 おかげで家事スキルはぐんぐん上がっているのだが家での実践の機会はなく。

「いいから風呂入ってこい。湯は張ってある」
「いつの間に」
「テメーなんぞと基礎スペックからちげーんだよ俺様は」
「そういうのって家事スペックでドヤるもんなんだっけ」

 今日はイブキは旧校舎で寝るらしい。旧校舎ももう俺だけの場所ではなくなったので、ここ最近は休日は顔を出さないようにしている。

 イブキが納得したこととはいえイブキ派の人にとって敵対していた俺は警戒対象だろう。

 なにより人間は一人、何の心配もなく月明かりをながめて夜を越す時間が必要なのだ。
 それには閉鎖的なコミュニティ特有の産湯に似た安心感が必須になる。

「……はぁ~……いい湯だ」

 武藤様がよくする、熱すぎるくらいの温度。2番風呂に入るといつもほんのりとぬるくなりちょうど適温になるのだが、たまにはサッと茹でられてもいいだろう。

 もあもあと湯気のこもったバスルームで熱い息を吐き出す。肺から押し出されるような心地にまた気持ちよさを覚え、はははんと軽く歌ってみて。

「入るぞ」
「ッッッッいやーーーッッッ!!!!!!!!!」

 高らかに絶叫を響かせた。
 ガチャ!! と勢いよく浴室の扉を開けて出てきたのは腰にタオルだけ巻いた武藤様。みっちり鍛え上げられた筋肉と水蒸気のせいか濡れた瞳、火照る頬。存在がR指定。

「ヘンタイ!! 本当に何!?!? なんで来たんだよ!!」
「ギャンギャン喚くな。裸の付き合いってやつだろうが」
「何だそれそんなんどこで覚え──火サスか!!」

 各曜日のゴールデンタイムになぜかやってるドラマ。武藤様は最近テレビにどハマりし、洗濯物を畳むときなど片手間によく見てヤジを飛ばしている。

 特に推理が必要系がお好きだ。恋愛よりわかりやすいらしい。まぁ武藤様ってお話の理解度が高くて推理とか好きだもんな。
 隣で犯人言うのはやめてほしいけど。

「ダメダメダメ武藤様との入浴なんて! ファンに殺される!!」
「ゴタゴタうっせーな、テメーもファンだろ」
「だから抜け駆けダメなんだって! う、うわ、入ってくんなってぎゃあ!!」

 どうしても裸の付き合いがしてみたいのか、無理やり俺を押し退けて湯船にザブンと入り得意顔をされる。いや可愛いけど。可愛いからダメなんだよ。

 抵抗する俺をものともせず武藤様は広い風呂内で何故か近くに座り、ピットリと肌が触れ合うのも気にせず熱いお湯に身を溶かしている。

「入ってくんなっていったのに……」
「ファンに拒否権があるとでも?」
「ないから困ってんだろ……」

 俺の不敬全開な態度も笑って吹き飛ばされる。もうお湯の厚さも忘れてしまう。触れた皮膚の間から溶け始めて、心臓が全く同じになってしまうのでは無いかと危惧するほど近いのに本人は冷静だった。

「イブキは洗ってんだろ。どこが不足だよ」
「どこもかしこもだよ!!」

なるほど、イブキと俺がお風呂に入っている──正確にはイブキだけ──のをみてこれに思い至ったのか。これもまた末っ子仕草の代わりってやつかな。

「まぁ、俺はスキンケアに困った事ねーけどな」
「そうだろーね」

武藤様は健康的な生活に運動に睡眠時間にと肌トラブルとは無縁の人だ。これからも無縁でいてほしいと思っているため。
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