上 下
62 / 159
激動! 体育祭!

30

しおりを挟む
放送がかかった時、初めに動いたのは生徒会長だった。
放送委員会──役員の裏切りへ少しの驚きと失望を滲ませながら、こちらへ歩んでくるイブキに対するように立ち上がる。
二番目に動いたのは水瀬。立ち上がりかけた会長を押し留め、馬鹿が下がってろと不注意を叱る。

その間に、俺はイブキの真正面に陣取っていた。

「……え、アレ田中?」
「会長さまじゃないの?」
「なんでチャラ男が……会長に任せとけよ」

なんで味方陣営から吐き捨てられるんだ。イブキじゃなくて俺がアウェーやんけ~!!
とまぁちょっと計算違いも起きたが、俺のホームなんぞここにはないので許容範囲である。

「……にゃあ、何の用や店員さん。危ないき、下がっちょったほうがえいぞ」
「そりゃ愚問だな。それとも少し頭がイカれちまったか?」

イブキの方を頬を染めて見つめる放送委員を視線に収める。委員は肩をびくりと揺らし、青ざめた。ようやく自分も生徒会に反したのだと気付いたのだろう。思考力がない奴は困る。

「俺が役員だからだ、クソガキ」

駆けつけようとした他の役員を手で制す。後ろの生徒会テントから視線が刺さっているが、普通にここに出て急に殴られたり傷つけられたりしたら困るから大人しくさせておいてね。

俺の言葉を聞いて、イブキは一瞬面食らったかのように止まる。そして、弾けるように快活に笑う。まるで親しい友人の話に笑っているかのように、確かに悪意を込めて。

「あっはっはっは!! 伝わらんなぁ! 大将を出せ、って言いゆーがじゃ。あ、もしかしてビビって来れん? 腑抜けやねや!」
「おいおい、あんま口開けると馬鹿に見えるぞ」

完全にイブキに持って行かれている。想定内だ。大口を開けて笑うごとに、イブキは親しみやすく、下品に見えるのだから。

俺は値踏みするように、イブキの後ろで血気盛んに武器を構える生徒たちを見た。

「ま、そんなにイキんなよ。ぞろぞろぞろぞろ三下連れて、何かあったら守ってもらうつもりか?」
「……あ?」
「ダサいなぁ、イブキ。がっかりだぜ」

イブキの顔から笑みが消えた。大声を出すことでしか場を支配できない相手に、大声で張っても仕方がない。胸ぐらに伸びてきた手を避けず、掴ませる。お前の思う通りにビビってはやらないけど。

「おんし、今なんて言うた?」
「ン? どれ聞きたいんだ? 自分で復唱してみろよ」

ちょうど体が近付いているので、ぺむぺむとごわついた頭を撫でておく。もちろん煽りのつもりである。イブキすげ~、人間ってこんな血管ちぎれそうになるんだ。煽り耐性低すぎだろ。

「なんか……雰囲気違くない?」「あの噂って本当だったのかな」「田中、弱いくせにあんなにイキって良いわけ?」「逃げれば良いのに」

ざわざわと不安定な囁きがいろんな方向に広がる。ちょうど観覧席の方が見えたので、にこりと笑って手を振っておいた。イブキ全然行動しないし。

「悔しいなぁ、殴りたいよなぁ、わかるぜ。別に良いぜ? ここでタコ殴りにして、服剥いで陵辱しようと」
「……ッ!」
「おっと、仔猫ちゃんには難しい話か?」

ぎりり、と締め付けがキツくなる。駆けつけてこようとする先生を獅童くんが制していた。何も指示してないのでシンプルにチンピラ心構え──大将同士の男の喧嘩は邪魔しない──に基づいたものだろう。何してんねん。

「もちろんその場合、お前はソイツらを追い詰めた人間と全く同じになる」

おお~、でっかい歯軋り。

「所詮、おんしも捨て駒か」
「ああ! 救ってくれちゃうわけ? 助かるなぁ、それなら手ェ離してくんない?」

パッと手が離され、俺はタタラを踏んでどうにかバランスを取り戻す。体幹強くてよかったー!

「さて、お前には散々をされた訳だし、ここで証拠を出してそのままお縄にしても良いんだぜ」

もちろんしないけど。そんなことしたらイブキから逃げた扱いされて信用も地に落ちるだろうし。

ぱっぱっとジャージの土埃を払う。あっこれ武藤さまのやんけ。今のでチャック壊れたな、怒られそう。ごめん。めっちゃ良いやつなジャージ

「御託はえい。しゃんしゃん用件を言わんか」
「話が早くて何より」

放送部にツカツカと近づき、マイクを奪う。そのまま三本、指を立てた。

『三本勝負だ。勝負の内容はお前が決めて良いぜ』

イブキは静かに話を聞いている。

『もちろん陣営間の勝負だ。勝った方が負けた方の言うことを何でも聞く──どうだ?』

乗った、と指を掴まれ、契約は成立した。指いてぇ~力こめんなカス!
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。 ※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します! ※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。

もういいや

senri
BL
急遽、有名で偏差値がバカ高い高校に編入した時雨 薊。兄である柊樹とともに編入したが…… まぁ……巻き込まれるよね!主人公だもん! しかも男子校かよ……… ーーーーーーーー 亀更新です☆期待しないでください☆

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

氷の華を溶かしたら

こむぎダック
BL
ラリス王国。 男女問わず、子供を産む事ができる世界。 前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。 ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。 そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。 その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。 初恋を拗らせたカリストとシェルビー。 キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!

柑橘
BL
王道詰め合わせ。 ジャンルをお確かめの上お進み下さい。 7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです! ※目線が度々変わります。 ※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。 ※火曜日20:00  金曜日19:00  日曜日17:00更新

主人公は俺狙い?!

suzu
BL
生まれた時から前世の記憶が朧げにある公爵令息、アイオライト=オブシディアン。 容姿は美麗、頭脳も完璧、気遣いもできる、ただ人への態度が冷たい冷血なイメージだったため彼は「細雪な貴公子」そう呼ばれた。氷のように硬いイメージはないが水のように優しいイメージもない。 だが、アイオライトはそんなイメージとは反対に単純で鈍かったり焦ってきつい言葉を言ってしまう。 朧げであるがために時間が経つと記憶はほとんど無くなっていた。 15歳になると学園に通うのがこの世界の義務。 学園で「インカローズ」を見た時、主人公(?!)と直感で感じた。 彼は、白銀の髪に淡いピンク色の瞳を持つ愛らしい容姿をしており、BLゲームとかの主人公みたいだと、そう考える他なかった。 そして自分も攻略対象や悪役なのではないかと考えた。地位も高いし、色々凄いところがあるし、見た目も黒髪と青紫の瞳を持っていて整っているし、 面倒事、それもBL(多分)とか無理!! そう考え近づかないようにしていた。 そんなアイオライトだったがインカローズや絶対攻略対象だろっ、という人と嫌でも鉢合わせしてしまう。 ハプニングだらけの学園生活! BL作品中の可愛い主人公×ハチャメチャ悪役令息 ※文章うるさいです ※背後注意

王道学園にブラコンが乗り込んでいくぅ!

玉兎
BL
弟と同じ学校になるべく王道学園に編入した男の子のお話。

処理中です...