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激動! 体育祭!
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そんなこんなで、武藤様に料理を仕込まれつつ喫茶アネラでも働くことになった。暇なので基本土日に手伝いをしているのだが、アネラは思ったより常に閑古鳥が鳴いているのでわりと余裕がある。
「困ってるひとしか来れないのよ」
とは、ひまりさんの談。それなら俺はと思ったが、常連さんのお友達は例外らしい。
午睡の夢みたいな喫茶店は今日も人がいない。手持ち無沙汰に三回目の机掃除を行なっていると、涼やかな鐘の音が鳴った。
「あっ! そーちんじゃん、レア~」
「やほやほ」
……新しいお客さんかと思ったが、この数週間で見慣れた顔である。
「花音さんと萌さん。いらっしゃいませ~あちらのお席へどうぞ」
「ちょいちょいちょいちょい」
「他人のふりしてんじゃね~ぞ~そーちんやい」
「ちょっ、肩組まないでください」
この二人は楠木花音と来栖萌。
明るい金髪にピアスゴテゴテの花音さんとボブの黒髪に青のインナーカラーと傍目の印象が大人しい萌さんで、見た目の印象は真逆だが仲良しだ。性格似てるし。
「もー、今時コンプラって厳しいんですよ。セクハラで訴えますからね」
「厳しいって、ウチらになんだ」
ケラケラと笑った花音さんたちを窓の外が見える席に案内する。一番日の当たる席が二人は好きで、よく外を見てはきゃいきゃいと話している。萌さんはあまり携帯を見ないから、いつもじっと花音さんを見ていた。
「ちぇっ、そーちんったら照れ屋なんだから! 行こー萌」
「ういうい。頑張ってな宗介、つっても頑張るとこないけど」
「照れてないでーす」
「そーちん、ウチら以外女の子と関わりないわりに言うじゃん?」
「……ッ! ……ッ!」
ぐうの音も出ない。まぁ正直絡んでくれるのは嬉しい。友達いなかったし、花音さんと萌さんが可愛いのは事実だし。
女子高生って特有のキャピキャピ感と雑さみたいなのあるよな、あれかわいい。俺のこの思考キモすぎかもしれん。
二人はまた学校で何かあったのか、きゃいきゃいとスマホを見て何やら話していた。俺も暇なのでカウンターに座ってだるんとする。
「お! 宗ちゃん今日もバイトかい!? 感心だねぇ~ヒック!」
「飲兵衛さん。いらっしゃいませ~こちらのお席へどうぞ」
真昼間のはずだが、酔っ払いのおじさんも来た。このおじさんは多分仕事をしていないのだが、何となく生きている。二日間やってこなかったら心配するかもしれない。
ちなみに名前は本名らしい。
親に先見の明ありすぎるだろ。
「つっめてぇなぁ~~宗ちゃん、会社でのおっちゃんへの風当たりみてぇだ」
「それを言われて俺はどう反応すれば……!?」
飲兵衛さんは元々明るい人なのだが、最初は俺の見た目に少し警戒もしており、俺が女性陣に近付きかけるとめちゃくちゃ話しかけてきた。
まぁ年齢もあって、花音さんたちを本当の娘のように思っているのだろう。家庭に居場所はないらしいが。
そういうこともあり、俺は最近までこの人と一番話すようになって。
「聞いておくれよ我が家のミミちゃんがとうとう、とうとうカミさんの方に行き出して……俺ぁ犬にすら嫌われるってか!? 散歩だって行ってんのに」
クダをまきに来るようになった。まぁ良いけど。
このアネラではお酒を取り扱っていないので、毎回ワンカップを持ち込んでいる。
流石にどうかと思ったが、ひまりさんが注意しないので良いのだろう。ここは全てがなぁなぁになっている。俺の雇用契約とか。
「てか、こうちゃん遅くね? 今日休み~?」
「うーん、二時間前には来る手筈だったんですけどね」
「同僚に二時間遅刻されといてその態度なんウケる」
「心広っ! てかそマ? こうちゃん遅刻とか珍しいじゃん、大丈夫そ?」
花音さんたちに呼びかけられ応えるも、確かに珍しいと思い至る。暇すぎて何も考えてなかった。客来ない限り店長と戯れられるしな。
萌さんにはアイスコーヒー、花音さんにはアイスミルクティーを提供する。陽が当たるので体もあったまってるだろうし。いつも飲んでるし。
「パンケーキくらいなら作りますよ。試作品なんですけど、食べます?」
「それ良いの? ひまさん的には」
「ひまりさんが張り切って材料買ってきちゃって」
「こんな場末の喫茶店なのに? ひま姐どうやって消費するつもりだったん」
花音さんは田舎の方から出てきたと言うらしく、ひまりさんのことを姐さんと呼んで尊敬しているらしい。時々訛ってるなと思うことがあるが、俺も別に都会にいたわけではないので口にしない。
「じゃあいただこっかな~。ねっ萌」
「あ、ごめん。あたし甘いの苦手。花音の分だけでいいよ」
「カレーなら作れますよ。腹減ってるでしょ」
「さすが宗介。んじゃカレー」
「カレーて! 喫茶店ぽ~!」
そうか?
花音さんはフィーリングで物を言う癖がある。素直に楽しんでる感じがあるのでわりと好きだが、深く考えてはいけない。
じゃあパンケーキでも作ろうかと厨房に引っ込もうとして、またドアベルが鳴る。こうちゃんかな?
「いらっしゃ──」
俺が振り返ると同時に、影が落ちる。
ふっ、と目の前にいた人間が視界からいなくなり、反射的に地面を見た。
「ッ、こうちゃん!!」
「ぅぐ……」
「……そ、う……ちゃ」
こうちゃんと、知らない人が一人。
喫茶アネラの玄関口、傷だらけで倒れていた。
「困ってるひとしか来れないのよ」
とは、ひまりさんの談。それなら俺はと思ったが、常連さんのお友達は例外らしい。
午睡の夢みたいな喫茶店は今日も人がいない。手持ち無沙汰に三回目の机掃除を行なっていると、涼やかな鐘の音が鳴った。
「あっ! そーちんじゃん、レア~」
「やほやほ」
……新しいお客さんかと思ったが、この数週間で見慣れた顔である。
「花音さんと萌さん。いらっしゃいませ~あちらのお席へどうぞ」
「ちょいちょいちょいちょい」
「他人のふりしてんじゃね~ぞ~そーちんやい」
「ちょっ、肩組まないでください」
この二人は楠木花音と来栖萌。
明るい金髪にピアスゴテゴテの花音さんとボブの黒髪に青のインナーカラーと傍目の印象が大人しい萌さんで、見た目の印象は真逆だが仲良しだ。性格似てるし。
「もー、今時コンプラって厳しいんですよ。セクハラで訴えますからね」
「厳しいって、ウチらになんだ」
ケラケラと笑った花音さんたちを窓の外が見える席に案内する。一番日の当たる席が二人は好きで、よく外を見てはきゃいきゃいと話している。萌さんはあまり携帯を見ないから、いつもじっと花音さんを見ていた。
「ちぇっ、そーちんったら照れ屋なんだから! 行こー萌」
「ういうい。頑張ってな宗介、つっても頑張るとこないけど」
「照れてないでーす」
「そーちん、ウチら以外女の子と関わりないわりに言うじゃん?」
「……ッ! ……ッ!」
ぐうの音も出ない。まぁ正直絡んでくれるのは嬉しい。友達いなかったし、花音さんと萌さんが可愛いのは事実だし。
女子高生って特有のキャピキャピ感と雑さみたいなのあるよな、あれかわいい。俺のこの思考キモすぎかもしれん。
二人はまた学校で何かあったのか、きゃいきゃいとスマホを見て何やら話していた。俺も暇なのでカウンターに座ってだるんとする。
「お! 宗ちゃん今日もバイトかい!? 感心だねぇ~ヒック!」
「飲兵衛さん。いらっしゃいませ~こちらのお席へどうぞ」
真昼間のはずだが、酔っ払いのおじさんも来た。このおじさんは多分仕事をしていないのだが、何となく生きている。二日間やってこなかったら心配するかもしれない。
ちなみに名前は本名らしい。
親に先見の明ありすぎるだろ。
「つっめてぇなぁ~~宗ちゃん、会社でのおっちゃんへの風当たりみてぇだ」
「それを言われて俺はどう反応すれば……!?」
飲兵衛さんは元々明るい人なのだが、最初は俺の見た目に少し警戒もしており、俺が女性陣に近付きかけるとめちゃくちゃ話しかけてきた。
まぁ年齢もあって、花音さんたちを本当の娘のように思っているのだろう。家庭に居場所はないらしいが。
そういうこともあり、俺は最近までこの人と一番話すようになって。
「聞いておくれよ我が家のミミちゃんがとうとう、とうとうカミさんの方に行き出して……俺ぁ犬にすら嫌われるってか!? 散歩だって行ってんのに」
クダをまきに来るようになった。まぁ良いけど。
このアネラではお酒を取り扱っていないので、毎回ワンカップを持ち込んでいる。
流石にどうかと思ったが、ひまりさんが注意しないので良いのだろう。ここは全てがなぁなぁになっている。俺の雇用契約とか。
「てか、こうちゃん遅くね? 今日休み~?」
「うーん、二時間前には来る手筈だったんですけどね」
「同僚に二時間遅刻されといてその態度なんウケる」
「心広っ! てかそマ? こうちゃん遅刻とか珍しいじゃん、大丈夫そ?」
花音さんたちに呼びかけられ応えるも、確かに珍しいと思い至る。暇すぎて何も考えてなかった。客来ない限り店長と戯れられるしな。
萌さんにはアイスコーヒー、花音さんにはアイスミルクティーを提供する。陽が当たるので体もあったまってるだろうし。いつも飲んでるし。
「パンケーキくらいなら作りますよ。試作品なんですけど、食べます?」
「それ良いの? ひまさん的には」
「ひまりさんが張り切って材料買ってきちゃって」
「こんな場末の喫茶店なのに? ひま姐どうやって消費するつもりだったん」
花音さんは田舎の方から出てきたと言うらしく、ひまりさんのことを姐さんと呼んで尊敬しているらしい。時々訛ってるなと思うことがあるが、俺も別に都会にいたわけではないので口にしない。
「じゃあいただこっかな~。ねっ萌」
「あ、ごめん。あたし甘いの苦手。花音の分だけでいいよ」
「カレーなら作れますよ。腹減ってるでしょ」
「さすが宗介。んじゃカレー」
「カレーて! 喫茶店ぽ~!」
そうか?
花音さんはフィーリングで物を言う癖がある。素直に楽しんでる感じがあるのでわりと好きだが、深く考えてはいけない。
じゃあパンケーキでも作ろうかと厨房に引っ込もうとして、またドアベルが鳴る。こうちゃんかな?
「いらっしゃ──」
俺が振り返ると同時に、影が落ちる。
ふっ、と目の前にいた人間が視界からいなくなり、反射的に地面を見た。
「ッ、こうちゃん!!」
「ぅぐ……」
「……そ、う……ちゃ」
こうちゃんと、知らない人が一人。
喫茶アネラの玄関口、傷だらけで倒れていた。
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