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激動! 体育祭!

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「遅い!」
「ごめんて。ほら、ハリガネムシだよ」
「遅刻の謝罪にハリガネムシ渡すことある?」

旧校舎、トレース台等のある準備室。
水瀬の叱責に反省する顔をしつつ、ハリガネムシを脱ぎ捨てられたブレザーに仕込んでおく。予想通りだが特に驚かれもせず受け取られた。ちょっと怪訝な顔はしている。

「それ模型です?」
「うん。昨日街に遊びにいったときにね。雑貨屋で売ってた」
「ほー、出来良いですね~。センパイ模型好きなん?」
「いや、売ってたから買ってた……」

腕に絡みついている獅童くんが、メガネの奥で目を輝かせながら、じっとハリガネムシの模型を見つめている。
どうせならもう着替えちゃいたいのだけれど、普段はいいところで離れる獅童くんが離れない。
もしかして

「獅童くん、結構こういう雑貨好き?」
「……女みたいな趣味やないすか。こまこましとって」
「模型は男の趣味だろーよ、坊ちゃん。これ模型か?」

いいあてられて照れ臭いのかむすっとした指導くんに苦笑した。水瀬もちょっと笑っている。

「坊ちゃんの可愛いとこ初めて見たな。後輩って感じ」
「そ? 獅童くんはいつも素直で可愛いよ」
「お前にはな」

先輩二人によしよしと撫でつけられ、もふもふの髪が凹む。俺の手の方に擦り寄ろうとして己に抵抗している様が可愛らしい。

「そーゆう可愛がるのはちょおやめとってほしい……ミナセ先輩、面白がっとるやろ!?」
「俺も面白がってるよ」
「センパイ! もう!! ……雑貨屋の名前教えてもろてええですか?」
「あはは!」

やはり素直で可愛らしい。
どうせハリガネムシをあげるなら、作った人も魅力がわかる方がいいだろう。
水瀬の方に視線をやる。にやにやと嫌がらせまがいに撫でていた水瀬が視線に気づき、軽く頷いた。

「じゃあこのハリガネムシ、獅童くんにあげちゃおうかな」
「へ!?!? いやいや、これはミナセ先輩に……」
「気にすんな。どうせ宗介が腹立ち紛れに買ってきてる奴だしな。俺もこの魅力はよくわからんが」
「そうそう、喜んでくれる子が持ってる方がいいよ」

何事もそうである。胸元にしまった本を撫でた。たとえ手元に置いておいたとして、俺はこんなにもこの冊子を大切にできたかと聞かれればノーなのだ。

ものは大切にされる事が喜びなのだから。

獅童くんはしばらく模型を見て、俺を見て、水瀬を見て、それを三回ほど繰り返して、おずおずと、大切そうに模型を持ち上げた。

「ほんだら……いただいていきます」
「今週の休みも下行くし、また土産でも買ってこようか」
「おい俺よ」
「おっけ、カミキリムシでいい?」
「お前の中で俺そんな虫好き?」

俺より少し小さい手のひらにおさまったハリガネムシが誇らしげに胸を張っていた。水瀬の土産は何にしようか。休日に街行くのかと聞かれ、一応肯定しておいた。バイトに行くだけであるが。

「よし、じゃあ作業始めるよー。水瀬どこまで終わった?」
「ああ、ノートにも書いといたから……」

水瀬の報告を聞きつつ、今日やることを頭の中でざっとリストに記していく。話を聞きながら作業部屋から出ていった俺は、俺の背をじっと見つめる獅童くんに気が付かなかった。


──宗介が出ていった静かな部屋、獅童はハリガネムシの模型をするりと撫でた。

「ま、そら気が付かんよな……あの人は全く、警戒心がないんやから」

仕方ないなぁ、と笑みを浮かべる。複雑にくるくると円を描いたハリガネムシに唇を近づけた。

「お前、どこのモンや。あん人が誰の主人が分かって、仕込んだんやな?」

よぉわかった。うっすらと笑いを含んだ声は、目の前の模型──盗聴器に、向けられていた。
概ね雑貨屋で買った際、見本商品との交換なんて銘打たれてこれを仕込まれたのだろう。

ぐしゃ、と模型を潰す。
せっかくの土産だが、まぁ仕方がない。ハリガネムシをわざわざ雑貨にするセンスも嫌いではないし、明日にでも買いに行こう。

「売られた喧嘩は買わな、なァ?」

窓の外で、犬の吠える音が聞こえた。
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