王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

文字の大きさ
上 下
46 / 200
激動! 体育祭!

14

しおりを挟む
「遅い!」
「ごめんて。ほら、ハリガネムシだよ」
「遅刻の謝罪にハリガネムシ渡すことある?」

旧校舎、トレース台等のある準備室。
水瀬の叱責に反省する顔をしつつ、ハリガネムシを脱ぎ捨てられたブレザーに仕込んでおく。予想通りだが特に驚かれもせず受け取られた。ちょっと怪訝な顔はしている。

「それ模型です?」
「うん。昨日街に遊びにいったときにね。雑貨屋で売ってた」
「ほー、出来良いですね~。センパイ模型好きなん?」
「いや、売ってたから買ってた……」

腕に絡みついている獅童くんが、メガネの奥で目を輝かせながら、じっとハリガネムシの模型を見つめている。
どうせならもう着替えちゃいたいのだけれど、普段はいいところで離れる獅童くんが離れない。
もしかして

「獅童くん、結構こういう雑貨好き?」
「……女みたいな趣味やないすか。こまこましとって」
「模型は男の趣味だろーよ、坊ちゃん。これ模型か?」

いいあてられて照れ臭いのかむすっとした指導くんに苦笑した。水瀬もちょっと笑っている。

「坊ちゃんの可愛いとこ初めて見たな。後輩って感じ」
「そ? 獅童くんはいつも素直で可愛いよ」
「お前にはな」

先輩二人によしよしと撫でつけられ、もふもふの髪が凹む。俺の手の方に擦り寄ろうとして己に抵抗している様が可愛らしい。

「そーゆう可愛がるのはちょおやめとってほしい……ミナセ先輩、面白がっとるやろ!?」
「俺も面白がってるよ」
「センパイ! もう!! ……雑貨屋の名前教えてもろてええですか?」
「あはは!」

やはり素直で可愛らしい。
どうせハリガネムシをあげるなら、作った人も魅力がわかる方がいいだろう。
水瀬の方に視線をやる。にやにやと嫌がらせまがいに撫でていた水瀬が視線に気づき、軽く頷いた。

「じゃあこのハリガネムシ、獅童くんにあげちゃおうかな」
「へ!?!? いやいや、これはミナセ先輩に……」
「気にすんな。どうせ宗介が腹立ち紛れに買ってきてる奴だしな。俺もこの魅力はよくわからんが」
「そうそう、喜んでくれる子が持ってる方がいいよ」

何事もそうである。胸元にしまった本を撫でた。たとえ手元に置いておいたとして、俺はこんなにもこの冊子を大切にできたかと聞かれればノーなのだ。

ものは大切にされる事が喜びなのだから。

獅童くんはしばらく模型を見て、俺を見て、水瀬を見て、それを三回ほど繰り返して、おずおずと、大切そうに模型を持ち上げた。

「ほんだら……いただいていきます」
「今週の休みも下行くし、また土産でも買ってこようか」
「おい俺よ」
「おっけ、カミキリムシでいい?」
「お前の中で俺そんな虫好き?」

俺より少し小さい手のひらにおさまったハリガネムシが誇らしげに胸を張っていた。水瀬の土産は何にしようか。休日に街行くのかと聞かれ、一応肯定しておいた。バイトに行くだけであるが。

「よし、じゃあ作業始めるよー。水瀬どこまで終わった?」
「ああ、ノートにも書いといたから……」

水瀬の報告を聞きつつ、今日やることを頭の中でざっとリストに記していく。話を聞きながら作業部屋から出ていった俺は、俺の背をじっと見つめる獅童くんに気が付かなかった。


──宗介が出ていった静かな部屋、獅童はハリガネムシの模型をするりと撫でた。

「ま、そら気が付かんよな……あの人は全く、警戒心がないんやから」

仕方ないなぁ、と笑みを浮かべる。複雑にくるくると円を描いたハリガネムシに唇を近づけた。

「お前、どこのモンや。あん人が誰の主人が分かって、仕込んだんやな?」

よぉわかった。うっすらと笑いを含んだ声は、目の前の模型──盗聴器に、向けられていた。
概ね雑貨屋で買った際、見本商品との交換なんて銘打たれてこれを仕込まれたのだろう。

ぐしゃ、と模型を潰す。
せっかくの土産だが、まぁ仕方がない。ハリガネムシをわざわざ雑貨にするセンスも嫌いではないし、明日にでも買いに行こう。

「売られた喧嘩は買わな、なァ?」

窓の外で、犬の吠える音が聞こえた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。 ※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します! ※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

目立たないでと言われても

みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」 ****** 山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって…… 25話で本編完結+番外編4話

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜

小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。 主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。 他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆ 〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定) アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。 それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 【超重要】 ☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ) また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん) ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな! (まぁ「長編」設定してますもん。) ・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。 ・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。 ・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。

孤独な蝶は仮面を被る

緋影 ナヅキ
BL
   とある街の山の中に建っている、小中高一貫である全寮制男子校、華織学園(かしきのがくえん)─通称:“王道学園”。  全学園生徒の憧れの的である生徒会役員は、全員容姿や頭脳が飛び抜けて良く、運動力や芸術力等の他の能力にも優れていた。また、とても個性豊かであったが、役員仲は比較的良好だった。  さて、そんな生徒会役員のうちの1人である、会計の水無月真琴。  彼は己の本質を隠しながらも、他のメンバーと各々仕事をこなし、極々平穏に、楽しく日々を過ごしていた。  あの日、例の不思議な転入生が来るまでは… ーーーーーーーーー  作者は執筆初心者なので、おかしくなったりするかもしれませんが、温かく見守って(?)くれると嬉しいです。  学生のため、ストック残量状況によっては土曜更新が出来ないことがあるかもしれません。ご了承下さい。  所々シリアス&コメディ(?)風味有り *表紙は、我が妹である あくす(Twitter名) に描いてもらった真琴です。かわいい *多少内容を修正しました。2023/07/05 *お気に入り数200突破!!有難う御座います!2023/08/25 *エブリスタでも投稿し始めました。アルファポリス先行です。2023/03/20

処理中です...