46 / 73
激動! 体育祭!
14
しおりを挟む
「遅い!」
「ごめんて。ほら、ハリガネムシだよ」
「遅刻の謝罪にハリガネムシ渡すことある?」
旧校舎、トレース台等のある準備室。
水瀬の叱責に反省する顔をしつつ、ハリガネムシを脱ぎ捨てられたブレザーに仕込んでおく。予想通りだが特に驚かれもせず受け取られた。ちょっと怪訝な顔はしている。
「それ模型です?」
「うん。昨日街に遊びにいったときにね。雑貨屋で売ってた」
「ほー、出来良いですね~。センパイ模型好きなん?」
「いや、売ってたから買ってた……」
腕に絡みついている獅童くんが、メガネの奥で目を輝かせながら、じっとハリガネムシの模型を見つめている。
どうせならもう着替えちゃいたいのだけれど、普段はいいところで離れる獅童くんが離れない。
もしかして
「獅童くん、結構こういう雑貨好き?」
「……女みたいな趣味やないすか。こまこましとって」
「模型は男の趣味だろーよ、坊ちゃん。これ模型か?」
いいあてられて照れ臭いのかむすっとした指導くんに苦笑した。水瀬もちょっと笑っている。
「坊ちゃんの可愛いとこ初めて見たな。後輩って感じ」
「そ? 獅童くんはいつも素直で可愛いよ」
「お前にはな」
先輩二人によしよしと撫でつけられ、もふもふの髪が凹む。俺の手の方に擦り寄ろうとして己に抵抗している様が可愛らしい。
「そーゆう可愛がるのはちょおやめとってほしい……ミナセ先輩、面白がっとるやろ!?」
「俺も面白がってるよ」
「センパイ! もう!! ……雑貨屋の名前教えてもろてええですか?」
「あはは!」
やはり素直で可愛らしい。
どうせハリガネムシをあげるなら、作った人も魅力がわかる方がいいだろう。
水瀬の方に視線をやる。にやにやと嫌がらせまがいに撫でていた水瀬が視線に気づき、軽く頷いた。
「じゃあこのハリガネムシ、獅童くんにあげちゃおうかな」
「へ!?!? いやいや、これはミナセ先輩に……」
「気にすんな。どうせ宗介が腹立ち紛れに買ってきてる奴だしな。俺もこの魅力はよくわからんが」
「そうそう、喜んでくれる子が持ってる方がいいよ」
何事もそうである。胸元にしまった本を撫でた。たとえ手元に置いておいたとして、俺はこんなにもこの冊子を大切にできたかと聞かれればノーなのだ。
ものは大切にされる事が喜びなのだから。
獅童くんはしばらく模型を見て、俺を見て、水瀬を見て、それを三回ほど繰り返して、おずおずと、大切そうに模型を持ち上げた。
「ほんだら……いただいていきます」
「今週の休みも下行くし、また土産でも買ってこようか」
「おい俺よ」
「おっけ、カミキリムシでいい?」
「お前の中で俺そんな虫好き?」
俺より少し小さい手のひらにおさまったハリガネムシが誇らしげに胸を張っていた。水瀬の土産は何にしようか。休日に街行くのかと聞かれ、一応肯定しておいた。バイトに行くだけであるが。
「よし、じゃあ作業始めるよー。水瀬どこまで終わった?」
「ああ、ノートにも書いといたから……」
水瀬の報告を聞きつつ、今日やることを頭の中でざっとリストに記していく。話を聞きながら作業部屋から出ていった俺は、俺の背をじっと見つめる獅童くんに気が付かなかった。
──宗介が出ていった静かな部屋、獅童はハリガネムシの模型をするりと撫でた。
「ま、そら気が付かんよな……あの人は全く、警戒心がないんやから」
仕方ないなぁ、と笑みを浮かべる。複雑にくるくると円を描いたハリガネムシに唇を近づけた。
「お前、どこのモンや。あん人が誰の主人が分かって、こんなもん仕込んだんやな?」
よぉわかった。うっすらと笑いを含んだ声は、目の前の模型──盗聴器に、向けられていた。
概ね雑貨屋で買った際、見本商品との交換なんて銘打たれてこれを仕込まれたのだろう。
ぐしゃ、と模型を潰す。
せっかくの土産だが、まぁ仕方がない。ハリガネムシをわざわざ雑貨にするセンスも嫌いではないし、明日にでも買いに行こう。
「売られた喧嘩は買わな、なァ?」
窓の外で、犬の吠える音が聞こえた。
「ごめんて。ほら、ハリガネムシだよ」
「遅刻の謝罪にハリガネムシ渡すことある?」
旧校舎、トレース台等のある準備室。
水瀬の叱責に反省する顔をしつつ、ハリガネムシを脱ぎ捨てられたブレザーに仕込んでおく。予想通りだが特に驚かれもせず受け取られた。ちょっと怪訝な顔はしている。
「それ模型です?」
「うん。昨日街に遊びにいったときにね。雑貨屋で売ってた」
「ほー、出来良いですね~。センパイ模型好きなん?」
「いや、売ってたから買ってた……」
腕に絡みついている獅童くんが、メガネの奥で目を輝かせながら、じっとハリガネムシの模型を見つめている。
どうせならもう着替えちゃいたいのだけれど、普段はいいところで離れる獅童くんが離れない。
もしかして
「獅童くん、結構こういう雑貨好き?」
「……女みたいな趣味やないすか。こまこましとって」
「模型は男の趣味だろーよ、坊ちゃん。これ模型か?」
いいあてられて照れ臭いのかむすっとした指導くんに苦笑した。水瀬もちょっと笑っている。
「坊ちゃんの可愛いとこ初めて見たな。後輩って感じ」
「そ? 獅童くんはいつも素直で可愛いよ」
「お前にはな」
先輩二人によしよしと撫でつけられ、もふもふの髪が凹む。俺の手の方に擦り寄ろうとして己に抵抗している様が可愛らしい。
「そーゆう可愛がるのはちょおやめとってほしい……ミナセ先輩、面白がっとるやろ!?」
「俺も面白がってるよ」
「センパイ! もう!! ……雑貨屋の名前教えてもろてええですか?」
「あはは!」
やはり素直で可愛らしい。
どうせハリガネムシをあげるなら、作った人も魅力がわかる方がいいだろう。
水瀬の方に視線をやる。にやにやと嫌がらせまがいに撫でていた水瀬が視線に気づき、軽く頷いた。
「じゃあこのハリガネムシ、獅童くんにあげちゃおうかな」
「へ!?!? いやいや、これはミナセ先輩に……」
「気にすんな。どうせ宗介が腹立ち紛れに買ってきてる奴だしな。俺もこの魅力はよくわからんが」
「そうそう、喜んでくれる子が持ってる方がいいよ」
何事もそうである。胸元にしまった本を撫でた。たとえ手元に置いておいたとして、俺はこんなにもこの冊子を大切にできたかと聞かれればノーなのだ。
ものは大切にされる事が喜びなのだから。
獅童くんはしばらく模型を見て、俺を見て、水瀬を見て、それを三回ほど繰り返して、おずおずと、大切そうに模型を持ち上げた。
「ほんだら……いただいていきます」
「今週の休みも下行くし、また土産でも買ってこようか」
「おい俺よ」
「おっけ、カミキリムシでいい?」
「お前の中で俺そんな虫好き?」
俺より少し小さい手のひらにおさまったハリガネムシが誇らしげに胸を張っていた。水瀬の土産は何にしようか。休日に街行くのかと聞かれ、一応肯定しておいた。バイトに行くだけであるが。
「よし、じゃあ作業始めるよー。水瀬どこまで終わった?」
「ああ、ノートにも書いといたから……」
水瀬の報告を聞きつつ、今日やることを頭の中でざっとリストに記していく。話を聞きながら作業部屋から出ていった俺は、俺の背をじっと見つめる獅童くんに気が付かなかった。
──宗介が出ていった静かな部屋、獅童はハリガネムシの模型をするりと撫でた。
「ま、そら気が付かんよな……あの人は全く、警戒心がないんやから」
仕方ないなぁ、と笑みを浮かべる。複雑にくるくると円を描いたハリガネムシに唇を近づけた。
「お前、どこのモンや。あん人が誰の主人が分かって、こんなもん仕込んだんやな?」
よぉわかった。うっすらと笑いを含んだ声は、目の前の模型──盗聴器に、向けられていた。
概ね雑貨屋で買った際、見本商品との交換なんて銘打たれてこれを仕込まれたのだろう。
ぐしゃ、と模型を潰す。
せっかくの土産だが、まぁ仕方がない。ハリガネムシをわざわざ雑貨にするセンスも嫌いではないし、明日にでも買いに行こう。
「売られた喧嘩は買わな、なァ?」
窓の外で、犬の吠える音が聞こえた。
43
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
生徒会長親衛隊長を辞めたい!
佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。
その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。
しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生
面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語!
嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。
一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。
*王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。
素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
チャラ男は愛されたい
梅茶
BL
幼い頃優等生としてもてはやされていた主人公。しかし、母が浮気をしたことで親は離婚となり、父について行き入った中学校は世紀末かと思うほどの不良校だった。浮かないためにチャラ男として過ごす日々にストレスが溜まった主人公は、高校はこの学校にいる奴らが絶対に入れないような所にしようと決意し、山奥にひっそりとたつ超一流学校への入学を決める…。
きまぐれ更新ですし頭のおかしいキャラ率高めです…寛容な心で見て頂けたら…
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる