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激動! 体育祭!
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放課後になっても俺の浮かれは止まることはなかった。約二年ぶりの新しい友達である。これはなんとしてでも遊びに誘わねばなるまい。コミュ障は距離の詰め方が異常なのだ。
あのあと爆速で交換したメッセージアプリのID。犬神さまのトークルームを開いて、放課後どこかに行かないかと誘い、約束を取り付け、今日は街に降りる予定ができてしまった。
「おっ、今日機嫌いいな宗介。てっきりキレてるもんかと思ったが」
旧校舎でいつもの水やりをしていると、部活前の水瀬が顔を出しに来た。
俺に酷なことした自覚あったんだ。
「犬神さまと仲良くなれたから帳消しってことで! じゃなかったら今お前の誤爆全部みつるにいってる」
「げ、まだ持ってたんかお前! 消せ!」
「消すかよ!!」
水瀬は去年くらい、彼女に送る激甘メッセージをクリスマスに俺に送ったことがある。
俺はクリスマスはバイトだったので殺そうかなとも思ったが、後で平身低頭してケーキを買いに来てくれたので許した。
付き合いもまぁ長ければそういう誤爆も時折あるわけで──俺のアイコンが女子女子してるのがダメらしい。個体の識別をしろ──これは俺が水瀬に不当な扱いをされた時の切り札となっている。
「クソッ、本当にそれ流したら分かってるよな宗介、一年の時イキって彼女いるって嘘ついて以降盛りに盛られた彼女のプロフ暗唱してやるからな!!」
「ギャァ! やめろよ!! 急に“ガチ”の黒歴史を持ってくるんじゃねぇ!!」
ちなみにその彼女については普通に信じられており、困り果てた俺は二年春くらいに別れたことにした思い出がある。嘘であることを知ってるのは水瀬だけだったし水瀬は助けてくれなかった。当たり前なのだが。
「ハァ……ハァ……だからこの手は出したくなかったんだ……水瀬が俺を一人にするから……」
「ずっとお前は一人だろうがよ」
「ギターも弾けないのに……」
「完全に下位互換だな」
中学生くらいの時ギターに手を出そうとしてウクレレを買い与えられたもののうまく行かなかった思い出を持つ俺だ、格が違う。
「でもいーもんね。今日の放課後、犬神さまと街に降りるって約束したんだ」
「……は?」
「委員会の仕事あるから休日のつもりだったんだけどさ、生徒会の仕事もあるから待たなくていいって言われて、だから今日!」
今日もみずみずしく懸命に生きている植物達と同じように、俺も成長しているのだ。そんな自慢を込めてメッセージ画面を水瀬に見せる。
と。
「った! あっ、スマホ!」
ぱしん、と乾いた音。手に痛みが走り、思わず力を緩めるとスマホが地面に落ちた。
え、叩かれた? 誰にって、一人しかいない。なんで?
「水瀬! 何すんだよもー、スマホ高いんだぞ……水瀬?」
「……街に行くって?」
「え……う、うん……」
スマホを拾って顔を見上げる。逆光でうまく表情が見えない。あれ。なんで、怒ってる……?
「ふぅん。思ったより仲良くなったんだな」
スマホを握りしめているのとは逆の手に、水瀬の指がかかった。手首を優しくなぞられて、カサついた指先が皮膚に一瞬引っかかる。
水瀬が怒ってる……気がする。なぜか、めちゃくちゃ。
「あ、あはは、なんでそんなキレてんの……? 嫉妬した? なーんて……」
目が据わっている。冗談を言える雰囲気ではない。
た、助けてくれ~~!! こっちはコミュ障を名乗るくらい人との関わりが少ないんだぞ……!! 友達が急にブチギレだした時の対処とかわかるわけないだろ……!!
バイト先で先輩がイライラしてたから『怒ってます?』って聞いたらさらにブチギレられたんだぞ……!! 勤務二日目なのに……!!
「み、みなせ。っいつ!」
撫でられていた手首が急に強く掴まれる。あざが出来るくらいに、折れるんじゃないかってくらい強く。
「良かったな、宗介。お友達が出来て」
本校舎の方から遠く、歓声が聞こえてくる。あ、生徒会の凱旋。てことはそろそろ仕事終わるのかも。思わずそちらを向こうとして。
「どこ見てんだ」
「っ痛い! み、水瀬やめろよ!」
「はは。やめろ? やめさせてみろよ」
無理やり水瀬の方に引き寄せられた。手首を掴まれ、空いている方の手ごと腰を抱かれる。凄い力だ。俺自身はもうバランスを崩してるのに、水瀬が無理やり立たせてる状況。抜け出そうにも抜け出せない。
水瀬の目は据わっていた。夕日にギラギラと輝く瞳に息を呑む。
「振り解けないだろ。変なやつ信頼すんのやめろよ、宗介。お前みたいな弱い甘ったれ、すぐに騙されちまうんだから……」
「う……! みな、……」
声色に、甘さが混じる。怖い。愛玩動物にでも向けるような声だと思った。少なくとも俺に向ける声じゃない。
──こわい。
「友達? なんかの間違いだろ。お前は──痛ァッ」
怖い。
そう思った瞬間、俺は行動を開始していた。
「ッッせーーばーーーか!!!!!!!! 誰がクソ雑魚甘ったれガキじゃボケが!!!!!!!!!」
スマホのあの……縦にした時の鋭利な面を腰骨のあたりにコッ、とぶち当てる。これに力はあまり必要がない。驚いて力が緩んだ隙に手首を勢いよく押し戻し、腕を変な方向に曲げる。
「っっでぇえ~~このゴリラが……!! 全部の動作を“力”で押し通しやがった……!」
「ナメんじゃね~~~~ぞこのモヤシ!!!! 自慢じゃないけど俺はたいていの運動部に『運動神経さえあれば』と血の涙を流させた腕力特化型人間なんだからな!」
「本当に自慢じゃね~~……」
一度バランスをリセットするために俺ごと転び、ついでに水瀬も巻き込んでおく。面白いように倒れ伏した水瀬にジョウロの水をバシャンとかけた。
「おらトドメ!!!」
「ぶぇっクソこの抵抗の意志を無くした相手に容赦なくトドメ刺すしなんだこいつ!! 水腐ってるし」
「それ一週間くらい放置してたやつだからな」
「こいつ……!!」
さて、こんな茶番を送ってる間に約束の時間は過ぎてしまう。流石に作業着代わりのジャージで街には降りれないのでチャチャっと制服に着替えた。本当はゆっくりみんなの状態を見てあげたかったが、仕方がない。
「水瀬、何にキレてるかは後で聞いてやるが……十七なんだからキレるなら正当性のある理由なんだよな? ん? 正当性ない理由でお前、他人を傷つけたとか、まさかなぁ~!!」
俺の不自然に明るい声に、水瀬はそっと目を逸らした。
まぁ、正当性ない理由で人を傷つけるに関しては俺が他人のことを言えた義理かよという話ではあるが。本当に申し訳がない。
「……すんません」
「お前、水やりな。繊細な植物もいる、ノート見てやれ。1mlでも間違ったら痛い目に遭う。心してかかれよ」
「怖ァ…………」
しわしわ顔になった水瀬を放置し、俺は本校舎の方へ向かった。いい奴なんだけどな、まぁ、本人はキレた理由言いたくなさそうだし、これで折半ってことでいいか。
何度もメッセージを確認していると、校門についたと簡素な一言。何か返そうかな、もうすぐつくとか。いや、いいか。走ってるうちに姿が見えてきた。
「犬神さま!」
「!」
すぐに息を整えて、小走りで駆け寄る。
街歩きなんて久々だなー!
あのあと爆速で交換したメッセージアプリのID。犬神さまのトークルームを開いて、放課後どこかに行かないかと誘い、約束を取り付け、今日は街に降りる予定ができてしまった。
「おっ、今日機嫌いいな宗介。てっきりキレてるもんかと思ったが」
旧校舎でいつもの水やりをしていると、部活前の水瀬が顔を出しに来た。
俺に酷なことした自覚あったんだ。
「犬神さまと仲良くなれたから帳消しってことで! じゃなかったら今お前の誤爆全部みつるにいってる」
「げ、まだ持ってたんかお前! 消せ!」
「消すかよ!!」
水瀬は去年くらい、彼女に送る激甘メッセージをクリスマスに俺に送ったことがある。
俺はクリスマスはバイトだったので殺そうかなとも思ったが、後で平身低頭してケーキを買いに来てくれたので許した。
付き合いもまぁ長ければそういう誤爆も時折あるわけで──俺のアイコンが女子女子してるのがダメらしい。個体の識別をしろ──これは俺が水瀬に不当な扱いをされた時の切り札となっている。
「クソッ、本当にそれ流したら分かってるよな宗介、一年の時イキって彼女いるって嘘ついて以降盛りに盛られた彼女のプロフ暗唱してやるからな!!」
「ギャァ! やめろよ!! 急に“ガチ”の黒歴史を持ってくるんじゃねぇ!!」
ちなみにその彼女については普通に信じられており、困り果てた俺は二年春くらいに別れたことにした思い出がある。嘘であることを知ってるのは水瀬だけだったし水瀬は助けてくれなかった。当たり前なのだが。
「ハァ……ハァ……だからこの手は出したくなかったんだ……水瀬が俺を一人にするから……」
「ずっとお前は一人だろうがよ」
「ギターも弾けないのに……」
「完全に下位互換だな」
中学生くらいの時ギターに手を出そうとしてウクレレを買い与えられたもののうまく行かなかった思い出を持つ俺だ、格が違う。
「でもいーもんね。今日の放課後、犬神さまと街に降りるって約束したんだ」
「……は?」
「委員会の仕事あるから休日のつもりだったんだけどさ、生徒会の仕事もあるから待たなくていいって言われて、だから今日!」
今日もみずみずしく懸命に生きている植物達と同じように、俺も成長しているのだ。そんな自慢を込めてメッセージ画面を水瀬に見せる。
と。
「った! あっ、スマホ!」
ぱしん、と乾いた音。手に痛みが走り、思わず力を緩めるとスマホが地面に落ちた。
え、叩かれた? 誰にって、一人しかいない。なんで?
「水瀬! 何すんだよもー、スマホ高いんだぞ……水瀬?」
「……街に行くって?」
「え……う、うん……」
スマホを拾って顔を見上げる。逆光でうまく表情が見えない。あれ。なんで、怒ってる……?
「ふぅん。思ったより仲良くなったんだな」
スマホを握りしめているのとは逆の手に、水瀬の指がかかった。手首を優しくなぞられて、カサついた指先が皮膚に一瞬引っかかる。
水瀬が怒ってる……気がする。なぜか、めちゃくちゃ。
「あ、あはは、なんでそんなキレてんの……? 嫉妬した? なーんて……」
目が据わっている。冗談を言える雰囲気ではない。
た、助けてくれ~~!! こっちはコミュ障を名乗るくらい人との関わりが少ないんだぞ……!! 友達が急にブチギレだした時の対処とかわかるわけないだろ……!!
バイト先で先輩がイライラしてたから『怒ってます?』って聞いたらさらにブチギレられたんだぞ……!! 勤務二日目なのに……!!
「み、みなせ。っいつ!」
撫でられていた手首が急に強く掴まれる。あざが出来るくらいに、折れるんじゃないかってくらい強く。
「良かったな、宗介。お友達が出来て」
本校舎の方から遠く、歓声が聞こえてくる。あ、生徒会の凱旋。てことはそろそろ仕事終わるのかも。思わずそちらを向こうとして。
「どこ見てんだ」
「っ痛い! み、水瀬やめろよ!」
「はは。やめろ? やめさせてみろよ」
無理やり水瀬の方に引き寄せられた。手首を掴まれ、空いている方の手ごと腰を抱かれる。凄い力だ。俺自身はもうバランスを崩してるのに、水瀬が無理やり立たせてる状況。抜け出そうにも抜け出せない。
水瀬の目は据わっていた。夕日にギラギラと輝く瞳に息を呑む。
「振り解けないだろ。変なやつ信頼すんのやめろよ、宗介。お前みたいな弱い甘ったれ、すぐに騙されちまうんだから……」
「う……! みな、……」
声色に、甘さが混じる。怖い。愛玩動物にでも向けるような声だと思った。少なくとも俺に向ける声じゃない。
──こわい。
「友達? なんかの間違いだろ。お前は──痛ァッ」
怖い。
そう思った瞬間、俺は行動を開始していた。
「ッッせーーばーーーか!!!!!!!! 誰がクソ雑魚甘ったれガキじゃボケが!!!!!!!!!」
スマホのあの……縦にした時の鋭利な面を腰骨のあたりにコッ、とぶち当てる。これに力はあまり必要がない。驚いて力が緩んだ隙に手首を勢いよく押し戻し、腕を変な方向に曲げる。
「っっでぇえ~~このゴリラが……!! 全部の動作を“力”で押し通しやがった……!」
「ナメんじゃね~~~~ぞこのモヤシ!!!! 自慢じゃないけど俺はたいていの運動部に『運動神経さえあれば』と血の涙を流させた腕力特化型人間なんだからな!」
「本当に自慢じゃね~~……」
一度バランスをリセットするために俺ごと転び、ついでに水瀬も巻き込んでおく。面白いように倒れ伏した水瀬にジョウロの水をバシャンとかけた。
「おらトドメ!!!」
「ぶぇっクソこの抵抗の意志を無くした相手に容赦なくトドメ刺すしなんだこいつ!! 水腐ってるし」
「それ一週間くらい放置してたやつだからな」
「こいつ……!!」
さて、こんな茶番を送ってる間に約束の時間は過ぎてしまう。流石に作業着代わりのジャージで街には降りれないのでチャチャっと制服に着替えた。本当はゆっくりみんなの状態を見てあげたかったが、仕方がない。
「水瀬、何にキレてるかは後で聞いてやるが……十七なんだからキレるなら正当性のある理由なんだよな? ん? 正当性ない理由でお前、他人を傷つけたとか、まさかなぁ~!!」
俺の不自然に明るい声に、水瀬はそっと目を逸らした。
まぁ、正当性ない理由で人を傷つけるに関しては俺が他人のことを言えた義理かよという話ではあるが。本当に申し訳がない。
「……すんません」
「お前、水やりな。繊細な植物もいる、ノート見てやれ。1mlでも間違ったら痛い目に遭う。心してかかれよ」
「怖ァ…………」
しわしわ顔になった水瀬を放置し、俺は本校舎の方へ向かった。いい奴なんだけどな、まぁ、本人はキレた理由言いたくなさそうだし、これで折半ってことでいいか。
何度もメッセージを確認していると、校門についたと簡素な一言。何か返そうかな、もうすぐつくとか。いや、いいか。走ってるうちに姿が見えてきた。
「犬神さま!」
「!」
すぐに息を整えて、小走りで駆け寄る。
街歩きなんて久々だなー!
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