35 / 200
激動! 体育祭!
3
しおりを挟む
「え、ええっと犬神さま~……? ごめんねぇ急に巻き込んで……」
「構わない」
「アハハ、心が広くて助かったよ~」
薄情者の水瀬はとっくに俺を置いてペアの子とやらのところへ行ってしまった。裏切りだ、浮気だ! 水瀬なんてもう知らないからな!
今日一日、水瀬と合同だなーってうっすら楽しみにしてた俺の気持ちを返せよー!
「……お前は」
「ッ、……なぁに?」
脳内で暴れ回っていたら犬神さまに呼ばれ、叫びそうになる。向こうから話を振ってくるのは初だ。
「あの……水瀬ひろしと、恋仲なのか」
恋仲!?!?
随分古い言葉遣いだ。まぁ、恋と仲なのでニュアンスで意味はわかるけれど。
って、恋仲!? 俺と水瀬が!?!?
クソデカ声で否定をしかけ、思い至る。
(あ、でもそっか。チャラ男中の俺、よく水瀬といちゃつくふりしてるから……)
旧校舎がカップルの溜まり場にならないよう、俺は誰かといちゃついている様を見せる必要があった。偶然その相手にされまくっているのが水瀬なのだ。まぁ偶然というか、思惑を理解してくれる友達が水瀬しか居ないために起こる悲しき必然なのだが。
ただこれは、水瀬の名誉のため否定しておかなくてはならない。
そういう噂がある程度とは違い、同じクラスの人間が直接俺に肯定されたという情報源の力は強すぎる。
こんなもんは噂程度に曖昧な方が抑止力にもなるし、本人が実際恋愛をしたいという時に楽なのだ。
「え~? 別に恋人ではないけど~……ひろちゃんは友達だよ~」
どうやら二人三脚のリレーの練習をしているらしく、グラウンドの中央に俄かに人が集まっていた。一年から三年の希望者順でやるので、まだ時間はある。気まず。
「随分仲が良さそうだが」
「委員会の友達だし~? 放課後とか、よく遊んでるよ~。普通じゃない?」
コミュ障がふつうの人間関係語ってて草。そこからあぶれたのがお前だろうが──という水瀬の事実陳列が聞こえた気がする。くそ、脳内ですら美しく事実を並べよって。スーパーのバイトじゃないんだぞ。
「……ふむ」
しかし犬神さまは納得した様子。
この人は俺の言った『放課後遊んでる』を『旧校舎で水やりをしている』に捉えてはいないんだろうなぁ……
ゲーセンとか行ってみたいけど、幼い甥の世話があったので実は行ったことがない。一緒に行く友達もいないしな。
「でも、やけにひろちゃんのこと気にすんね? 会長さまにめっちゃ喧嘩売ってるから~? ひろちゃんがあんな人のこと嫌うの、初めてみたけど」
武藤様は昼同じ食卓につくことは無くなったけれど、時折絡みにきては水瀬が威嚇している。
その時大体犬神さまも一緒だし三人とも同じクラスだし、情報収集でもしたいのだろうか。
農家のはずが何故かAクラスで喧嘩がアホ強い獅童くんも会長嫌いだしな。
……アレッ。よく考えたら俺の周囲、反会長派しかいなくない?
「あーー、アレだよ? って言ってもこう、会長さまのことは嫌いじゃないんだよ~? ちょっと素直じゃないだけでぇ~……」
「それなら」
「んぇ?」
木陰でグラウンドの様子を見る。一年生は初めての二人三脚に戸惑っていて、恋人同士で組んで恥ずかしがっていたりシンプルに息が合わなくて転んだりと初々しい。三年の何人かはヤジを飛ばしに行っている。
「──会長、好きか」
パン、と空砲が鳴った。
一年生が走り出す。盛り上がる生徒の声がやけに鮮明に聞こえてきた。
「……す、きだよ? そりゃ、生徒会長様、だし」
ざぁ、と五月の爽やかな風が、犬神様の栗毛をそよそよと揺らす。体操服のシャツの下を風が通って行ったような気がして、涼しいのに何故か汗をかいていた。
何だか、犬神さまは神妙だった。異様な緊張感が迸る。ただ警戒しているだけとは思えない緊張に、身がすくむ。変な汗が出る。
「ほ、ほんとだよ。ケッコー真面目だよね、ちゃんとしてるっていうかさぁ……おれは見ての通りちゃらんぽらんだから、尊敬できるな~って思う」
「……お前がちゃらんぽらんとは思えない」
うっ、これ褒められてるの? ずっと同じトーンだからわかんない……敵意はないと思うけど……てか犬神さまが京言葉でディスってたらわかんないし知ったら傷つくよ。言葉通りの意味だと思っておこう。うれしい。
「ありがと~。ま、そんなに警戒しなくても、反抗の意思はないよ~。今の高校にそこまで不満も……ないしぃ?」
「……」
「ほ、ほら。みんなのとこ行かない~? もうこの辺り、おれたちしかいなくなっちゃった……」
気心知れた相手は無言でも気まずくないらしい。
が、おれは犬神さまから嫌われているのである。自分のこと嫌いな相手と二人きり無言とか気まずくならない要素がないやろがい!
中央を指し示した俺に、犬神さまは少し首を傾げる。ついてくるだろうと歩みを進めた背中に、犬神さまの淡々とした声が届いた。
「田中宗介」
呼びかけられたから、なんて単純な理由で振り返ると、いつも通り顔の変わらない犬神さまが、目を逸らすことなく見つめてきて。
「お前の、ことは……信用している」
「え」
嘘だろ、俺信用されてたの!?
言葉の裏があるわけではない。コミュ障イヤーもコミュ障アイも反応しなかったので、本当に信用してくれていたのだろう。
えっ? じゃあ俺、ふつうに仲良くなりたがってる相手にあんな警戒マックス対応……
サイテーじゃん!
俺が脳内で大反省会を開きかけていても、犬神さまは気にすることなく言葉を続ける。
「……信用している、誰よりも……」
「え??」
えっ????
「ちょ、何でそんな信用──え!?!? このタイミングで向こう向かう!?!? 話終わってない、いや足早まじかこいつ!!!!!!!!!」
「構わない」
「アハハ、心が広くて助かったよ~」
薄情者の水瀬はとっくに俺を置いてペアの子とやらのところへ行ってしまった。裏切りだ、浮気だ! 水瀬なんてもう知らないからな!
今日一日、水瀬と合同だなーってうっすら楽しみにしてた俺の気持ちを返せよー!
「……お前は」
「ッ、……なぁに?」
脳内で暴れ回っていたら犬神さまに呼ばれ、叫びそうになる。向こうから話を振ってくるのは初だ。
「あの……水瀬ひろしと、恋仲なのか」
恋仲!?!?
随分古い言葉遣いだ。まぁ、恋と仲なのでニュアンスで意味はわかるけれど。
って、恋仲!? 俺と水瀬が!?!?
クソデカ声で否定をしかけ、思い至る。
(あ、でもそっか。チャラ男中の俺、よく水瀬といちゃつくふりしてるから……)
旧校舎がカップルの溜まり場にならないよう、俺は誰かといちゃついている様を見せる必要があった。偶然その相手にされまくっているのが水瀬なのだ。まぁ偶然というか、思惑を理解してくれる友達が水瀬しか居ないために起こる悲しき必然なのだが。
ただこれは、水瀬の名誉のため否定しておかなくてはならない。
そういう噂がある程度とは違い、同じクラスの人間が直接俺に肯定されたという情報源の力は強すぎる。
こんなもんは噂程度に曖昧な方が抑止力にもなるし、本人が実際恋愛をしたいという時に楽なのだ。
「え~? 別に恋人ではないけど~……ひろちゃんは友達だよ~」
どうやら二人三脚のリレーの練習をしているらしく、グラウンドの中央に俄かに人が集まっていた。一年から三年の希望者順でやるので、まだ時間はある。気まず。
「随分仲が良さそうだが」
「委員会の友達だし~? 放課後とか、よく遊んでるよ~。普通じゃない?」
コミュ障がふつうの人間関係語ってて草。そこからあぶれたのがお前だろうが──という水瀬の事実陳列が聞こえた気がする。くそ、脳内ですら美しく事実を並べよって。スーパーのバイトじゃないんだぞ。
「……ふむ」
しかし犬神さまは納得した様子。
この人は俺の言った『放課後遊んでる』を『旧校舎で水やりをしている』に捉えてはいないんだろうなぁ……
ゲーセンとか行ってみたいけど、幼い甥の世話があったので実は行ったことがない。一緒に行く友達もいないしな。
「でも、やけにひろちゃんのこと気にすんね? 会長さまにめっちゃ喧嘩売ってるから~? ひろちゃんがあんな人のこと嫌うの、初めてみたけど」
武藤様は昼同じ食卓につくことは無くなったけれど、時折絡みにきては水瀬が威嚇している。
その時大体犬神さまも一緒だし三人とも同じクラスだし、情報収集でもしたいのだろうか。
農家のはずが何故かAクラスで喧嘩がアホ強い獅童くんも会長嫌いだしな。
……アレッ。よく考えたら俺の周囲、反会長派しかいなくない?
「あーー、アレだよ? って言ってもこう、会長さまのことは嫌いじゃないんだよ~? ちょっと素直じゃないだけでぇ~……」
「それなら」
「んぇ?」
木陰でグラウンドの様子を見る。一年生は初めての二人三脚に戸惑っていて、恋人同士で組んで恥ずかしがっていたりシンプルに息が合わなくて転んだりと初々しい。三年の何人かはヤジを飛ばしに行っている。
「──会長、好きか」
パン、と空砲が鳴った。
一年生が走り出す。盛り上がる生徒の声がやけに鮮明に聞こえてきた。
「……す、きだよ? そりゃ、生徒会長様、だし」
ざぁ、と五月の爽やかな風が、犬神様の栗毛をそよそよと揺らす。体操服のシャツの下を風が通って行ったような気がして、涼しいのに何故か汗をかいていた。
何だか、犬神さまは神妙だった。異様な緊張感が迸る。ただ警戒しているだけとは思えない緊張に、身がすくむ。変な汗が出る。
「ほ、ほんとだよ。ケッコー真面目だよね、ちゃんとしてるっていうかさぁ……おれは見ての通りちゃらんぽらんだから、尊敬できるな~って思う」
「……お前がちゃらんぽらんとは思えない」
うっ、これ褒められてるの? ずっと同じトーンだからわかんない……敵意はないと思うけど……てか犬神さまが京言葉でディスってたらわかんないし知ったら傷つくよ。言葉通りの意味だと思っておこう。うれしい。
「ありがと~。ま、そんなに警戒しなくても、反抗の意思はないよ~。今の高校にそこまで不満も……ないしぃ?」
「……」
「ほ、ほら。みんなのとこ行かない~? もうこの辺り、おれたちしかいなくなっちゃった……」
気心知れた相手は無言でも気まずくないらしい。
が、おれは犬神さまから嫌われているのである。自分のこと嫌いな相手と二人きり無言とか気まずくならない要素がないやろがい!
中央を指し示した俺に、犬神さまは少し首を傾げる。ついてくるだろうと歩みを進めた背中に、犬神さまの淡々とした声が届いた。
「田中宗介」
呼びかけられたから、なんて単純な理由で振り返ると、いつも通り顔の変わらない犬神さまが、目を逸らすことなく見つめてきて。
「お前の、ことは……信用している」
「え」
嘘だろ、俺信用されてたの!?
言葉の裏があるわけではない。コミュ障イヤーもコミュ障アイも反応しなかったので、本当に信用してくれていたのだろう。
えっ? じゃあ俺、ふつうに仲良くなりたがってる相手にあんな警戒マックス対応……
サイテーじゃん!
俺が脳内で大反省会を開きかけていても、犬神さまは気にすることなく言葉を続ける。
「……信用している、誰よりも……」
「え??」
えっ????
「ちょ、何でそんな信用──え!?!? このタイミングで向こう向かう!?!? 話終わってない、いや足早まじかこいつ!!!!!!!!!」
145
お気に入りに追加
330
あなたにおすすめの小説

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!
ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。
「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」
なんだか義兄の様子がおかしいのですが…?
このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ!
ファンタジーラブコメBLです。
平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。
※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡
【登場人物】
攻→ヴィルヘルム
完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが…
受→レイナード
和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。
フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~
いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。
※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します!
※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
目立たないでと言われても
みつば
BL
「お願いだから、目立たないで。」
******
山奥にある私立琴森学園。この学園に季節外れの転入生がやってきた。担任に頼まれて転入生の世話をすることになってしまった俺、藤崎湊人。引き受けたはいいけど、この転入生はこの学園の人気者に気に入られてしまって……
25話で本編完結+番外編4話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる