王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

文字の大きさ
上 下
28 / 200

27

しおりを挟む
元々、獅童くんに恋をしているのでは疑惑はあった。有耶無耶になっていたのは認めるが。

確か、獅童くんが言った覚えのない個人情報を把握しており怖くて何もかも忘れたのだ。
それに関しても、俺の記憶にないだけでついこぼしたのだろうと結論が出ている。

「改めて考えるべきだと思うんだよ、俺は」
「それで坊ちゃんのいない隙を見計らって会議? 直接思いを聞けばいいだろ」
「そうだって言われたらどうしたらいいのかわからん……!」

やらかした小テストの補習、ついでに部活動見学ということで獅童くんは学校に残っており、今日は俺と水瀬二人きりの委員会である。

この高校も部活が多く、委員会の合間では回りきれない。そういうわけでより多く回れるよう、今日は一日休んでもらうことにした。

「つったってなぁ。俺は心底興味ないし、ムトウサマ」

だろうな。武藤様の恋バナをするような相手としては力不足である。同じAクラスだからか個人情報には詳しいが、何やら仲が悪いみたいだし。俺には教えてくんなかったのに!

「水瀬も水瀬だろ! 仲悪いなら言ってくれたら良かったんに……」
「あの箱入りは嫌いだけど、宗介がキャーキャー言ってんのは割と面白く見てっから」

殿下の武藤様を箱入り息子扱いなんて、といきり立ちたくなるファン心を抑える。
水瀬はいつでも飄々と斜に構えているので(ちょぅと悪口である)少なくとも本心以外は口にしない。

武藤様のよく見えるベンチから、武藤様の凱旋を双眼鏡で覗く俺の隣。宣言通り水瀬は興味なさげに爪なんかいじって座っていた。

「だって二年間、俺と武藤様って接点なかったんだぜ? そりゃ一緒に住むようになったけど……そんくらいでわざわざ一緒に飯食うか?」
「ま、食わんわな」
「そう! そんで、俺が警戒対象なのはまぁ、今に始まったことじゃないらしいじゃん? それでも長い間、昼食中見向きもされなかった」

俺と水瀬が二人でいた頃と違う状況といえば後輩の出現となる。
生徒会執行部の方々は各々好きな席があるようで、全員が揃ってない時は基本的にいまもテラスへ行っている。
ので、彼らは会長である武藤様についてきてこんな大所帯となっていると考えられるだろう。
執行部で確か六人だ。いつメンにしては多い。

「つまり武藤様の興味の対象が後輩の中にいるわけだ。一番話してるのが獅童くんだから」
「坊ちゃんのことが好き、と……小学生みてーな推論ではあるが、王道学園とかわけわからんこと言ってた時よかは筋道立ってるんじゃねーの?」

それに関しては反論できない。
武藤様が獅童くんに恋しているのではないか疑念は定期的に湧いてきており、とくに何もやることがない深夜などは異常だった。

昨日なんか深夜に水瀬へ王道学園のシナリオがどうとかメッセージを送っており、迷惑をかけるなどした。起きた時送った記憶無さすぎて笑ったが、まぁ俺のやりそうなことである。

「そういや、お前ってムトウサマにどうあってほしいの?」
「?」
「聞いたことなかったよな」

水瀬が武藤様を嫌っていたからか、そういえば聞かれたことがなかった。
実は、俺はガチ恋勢ではない。
武藤様に対して憧れたり照れたり抱かれたがったりと忙しいが、ユニコーンほど人生を束縛しようという気はないし。

完全に憧れというには執着が重い気がするが、武藤様に俺だけを見てほしいと思うことはないので……

「武藤様には憧れてるし、お近づきになりたいし、でもなんか恋ってほどでもねーかな」

双眼鏡の奥では今日も作り物じみた笑顔の武藤様が周囲に手を振っている。
あの作り物みたいな顔が最初は見ていられなかったような気がする。それから目が離せなくなって、今はこれだ。

「武藤様が飾らず笑える相手なら、俺じゃなくたっていいとは思ってる」
「重」

うるさすぎ。知っとるし。
武藤様ユニコーン──親衛隊過激派は、武藤様が直接管理していない分凶暴で、武藤様に近づく人間全てを排除したがるものも一部いる。中にはまるきり話が通じない人も。

「……まぁ、お前が親衛隊過激派じゃなくて良かったわ」

水瀬からそう言われて目を瞬かせる。
水瀬は大事な友達だ。でも、俺が過激派だったら多分、武藤様嫌いのこいつは遊んでくれなかったと思う。

「俺も──」
「田中さま!! 田中さま!!」

聞き覚えのある声に思わず体をこわばらせる。
旧校舎へつながる中庭、その渡り廊下へと慌てて顔を出したのは島田くんだった。
また獅童くんが何かやらかしたのだろうか?

「どしたの、また獅童くんが──」
「大変です!!」

島田くんはざっと顔を青ざめさせていた。
それにふざけられない雰囲気を察して、俺は姿勢を正す。
結論から言うとそれは正しかった。しかし一つ誤算があったのは、いつものように獅童くんが何かをやらかした案件ではなかったこと。

「獅童が、獅童が呼び出しを受けて──武藤親衛隊に!!」

つんざくようなSOS。
異常事態の気配がもうすぐそこまでやってきていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

推しを擁護したくて何が悪い!

人生1919回血迷った人
BL
所謂王道学園と呼ばれる東雲学園で風紀委員副委員長として活動している彩凪知晴には学園内に推しがいる。 その推しである鈴谷凛は我儘でぶりっ子な性格の悪いお坊ちゃんだという噂が流れており、実際の性格はともかく学園中の嫌われ者だ。 理不尽な悪意を受ける凛を知晴は陰ながら支えたいと思っており、バレないように後をつけたり知らない所で凛への悪意を排除していたりしてした。 そんな中、学園の人気者たちに何故か好かれる転校生が転入してきて学園は荒れに荒れる。ある日、転校生に嫉妬した生徒会長親衛隊員である生徒が転校生を呼び出して──────────。 「凛に危害を加えるやつは許さない。」 ※王道学園モノですがBLかと言われるとL要素が少なすぎます。BLよりも王道学園の設定が好きなだけの腐った奴による小説です。 ※簡潔にこの話を書くと嫌われからの総愛され系親衛隊隊長のことが推しとして大好きなクールビューティで寡黙な主人公が制裁現場を上手く推しを擁護して解決する話です。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。 ※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します! ※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

王様は知らない

イケのタコ
BL
他のサイトに載せていた、2018年の作品となります 性格悪な男子高生が俺様先輩に振り回される。 裏庭で昼ご飯を食べようとしていた弟切(主人公)は、ベンチで誰かが寝ているのを発見し、気まぐれで近づいてみると学校の有名人、王様に出会ってしまう。 その偶然の出会いが波乱を巻き起こす。

王子様から逃げられない!

白兪
BL
目を覚ますとBLゲームの主人公になっていた恭弥。この世界が受け入れられず、何とかして元の世界に戻りたいと考えるようになる。ゲームをクリアすれば元の世界に戻れるのでは…?そう思い立つが、思わぬ障壁が立ち塞がる。

処理中です...