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失念していたが、この高校に通うのはこれからの世界を担う由緒正しき御曹司たち。特にAクラスなんかは長く代が続いているのもあり、政界を担う存在が多い。

「宗介は一般人だぜ。巻き込んでやんなよ。ま、俺もあんたと積極的に話す気はないが」
「優しいふりか? 随分板についてんなァ。それともコイツに籠絡でもされたかよ」
「はは! どうだかな。だとしたらあんたらも愉快だろうよ」

餃子定食の味がしない……。
二人ともめちゃくちゃ笑顔なのに、全然笑顔に温度がない。特に水瀬。水瀬お前、もっとやわらかに笑うはずだろなんだその顔は~~~~(口を出すのが怖いので言えない)

動揺しすぎてお行儀が悪いと分かりながらも甥にメッセージを送ってしまった。

『え、武藤さまと水瀬がめっちゃ喧嘩してるし俺の隣犬神さまで逃げられんのだがウケる』
『誰と誰と誰がなに??』

そりゃそう。
でもお前水瀬は知ってるだろ、正月とか帰省のとき大抵泊りに来るんだから。

『ひろにぃが喧嘩するような人とは思えない。宗介おじちゃんに付き合えてるんだから』

二人称の格差おかしいだろ。俺もお兄ちゃんの年頃ですが!?!?

姉ちゃんのせいだな、絶対……。
姉ちゃんは若くして子供を産んで、しかも男に逃げられたから今忙しい。

一人じゃ暮らせないからと五年前に実家へ甥と来て、俺が実家から追いやられてる。
姉ちゃんは暴君で、小さい頃から俺は奴隷みたいに扱われてきた。
母さんに似たらしい。祖母談。確かに根明だもんな。

「……おいコラ。宗介、食事中にスマホいじるな。行儀悪いぞ」
「あ、ごめん」

目敏い水瀬に注意されるが、既読をつけちゃったのでメッセージだけ返しておく。その様子に、ようやくパニーニを食い始めた水瀬が首を傾げた。

「みつる?」
「ん」
「今小学校だろ」
「知らんの? 振替休日」
「あー、入学式」

やっぱ弟とかいないと忘れがちよな、振替休日。
去年はみつるの入学式だったのに(忙しい姉に変わって俺と水瀬が見に行った。写真を撮ってこなきゃ殺すと言われたので。理不尽だ)早いものだ。

そしてみつるが株でボロ儲けしたのも去年である。俺の甥、天才すぎるかも。流石に。

何故か雰囲気が軽くなった水瀬にホクホクしながら対応していると、目の前で武藤さまが何やらドン引きしたような顔をしていた。
ドン引きしたような顔というか、している。ドン引き。

「え? ちょ、ちょっなにぃ~……?」

後輩とかもなんか引いてる。
引いてないのはグデンとした獅童くんと享楽主義の椿さまだけだ。双子はそっくりなので見た目じゃ見分けられないけど、表情とか嗜好でわかる。

「……お前、緩い奴とは思っていたがまさか子供までこさえ」
「甥だが!?!?」
「ぶほっ! だっははは!!!!!」

水瀬が弾けるように笑い始めた。いやそんな綺麗なもんじゃねぇ。笑い声が汚ない。近所のおっさんみたいだ。

「七歳上に姉ちゃんがいるの~! で、その子供! 変な推測やめてくれる~!?」
「お、おう、すまん」

水瀬はずっっと笑っている。周囲が和やかになったのはいいが、めちゃくちゃ恥ずかしい。餃子定食は別の意味で味がしない。

「ハッハー! 君もなかなか苦労しているね! ほら、トマトをあげよう」
「え? ありがとう……?」
「礼には及ばないよ! 同じ年頃の血縁がいる同志だからね!」

一番日の当たるところだからか水瀬の隣に座っていたレオさまが、サラダに載っていたトマトをくれる。レオさまの好物はトマトなので、これは親愛表現と捉えていいだろう。

分かる。俺も小学生の弟いる人とかちょっと親近感あるし。

「植物みてぇな奴だな……」
「東郷くんは素直じゃないなぁ」

緊張を緩ませた後輩二人がようやく何を食べるか話し合いはじめる。そう言えば荷物見せてたまんまだったかも。

「姉ちゃんの方が苦労してるし~……別におれは」
「ハッハー!! トマト二個だよ!!」
「?? ありがとね……?」

どうやらわりと気に入られたらしい。レオさまは親愛表現がわかりやすい。すきだ。

どうやら執行部の皆さまここで食事をとるつもりらしく──主にちゃっかりサラダを食ってたレオさまのせいで──俺は水瀬の隣に移動したかったが、犬神さまがガードしていた。
そんな嫌い? 俺のこと。

「…………」
「…………?」

武藤さまは俺をずっとガン見していたが。
せっかくの餃子定食だったが、結局最後まで味がしなかった。
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