王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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特殊な高校ではあるが、四時間目が終わると昼休みという時間割に関しては普通の高校と同じである。昼休みは食堂にのんびりと赴き、食事を摂るのだが

「っでぇい逃げんなゴラ! オメーーは反省文だよ!!」
「センパイ!! センパーイ!! わぁん!!」

教室につながる扉。ばたばたと暴れ倒している獅童くんをどうにかこうにか担任らしい教師が捕まえていた。この高校は一度クラスを振り分けされると基本変わらないので、教師に関しては特に絡みがない。

「テメっこのクソガキが三年教室まで来やがって!! おい田中!! お前のだろどうにかしろ!!」
「えぇ……」

俺はマークされているらしい。何故だ。
とはいえ俺も相手の名前くらいは知っている。何しろ美形だし目立つし。あとなんとなく絡みなくても学年外の目立ってる先生ってほんのり知らない? 全校集会とか……

「そんなこと言われても……仁川センセイ? 勘違いされがちだけど~別にその子おれの管轄じゃないし~……」

仁川藤次。大人らしく色気のある風貌と垂らしの性格、ちょっとした口の悪さと気だるげな態度からホストのようだと持て囃されている生徒会顧問。
とはいえ園芸委員会って何故か顧問が顔出さないのでめちゃくちゃ絡みないんだけど。

「オメーの言うことしか聞かねぇんだよ」
「おれの言うことも全然聞かないけど?」

呼ばれたので近付くと、ぐすぐすと鼻を啜りながら獅童くんが大人しくなった。俺が近付いたので落ち着いたらしい。赤ちゃんか?

暴れてる姿はブチギレたポメラニアンの如し(止めてる側が引くほど痛めつけられてる点も含め)ではあるので、狂犬扱いも順当かもしれない。

「よ、ようやく落ち着きやがった……ゾウも倒れる鎮静剤を打ったってのに……」
「生徒になんてもの打ってんだあんたは! 効いてないからよかったものの……え、効いてないよね? 獅童くん大丈夫?」
「二度と許さない構え」
「あー、明日から覚悟した方がいいですね」
「死んでしまう」

多少は効いているのか、ちょっとグデンとしている。もう暴れる気力もないのだろう。顔だけはめちゃくちゃ不満そうだ。
びんぞこ眼鏡のせいでほぼ表情は見えないが、口元が歯茎を見せて威嚇している。やめなさい。

「田中先輩! すみませんコイツ、先輩のとこに行くって聞かなくて!」
「ぜぇ……ぜぇ……獅童……ころす……」

廊下の方から息を切らした市ヶ谷くんとボロッボロの東郷くんが走ってくる。
俺はといえばグデンとした獅童くんを受け取っていた。うわ重!! ほぼ筋肉だこいつ!!

「何か知らないけど、ちゃんと反省文書かないとダメでしょ? なんで来ちゃったの……」
「センパイといっしょにお昼したくて……やって……」
「もー仕方ないなぁ」

満更でもない。こんなに真っ直ぐ慕ってますみたいな顔されたら好きになっちゃう。俺はちょろくはないが愛情に弱いので。
ニマニマと緩む顔を抑え、真面目な顔を作る。

「じゃあお昼の時、一緒に書こうか~? 何したの~?」
「花壇に火ィつけようとしてた奴がいたんでぶちのめして屋上から吊るしました」
「おれとしてはやったれの気持ちだけど流石にやりすぎなので反省しようね~」
「すんません……」

ぶちのめすまでで済ませて欲しかった。その時点だったら絶対仁川先生も手出さなかっただろうし。

「ぶちのめすまでだったら良かったんだがな」

ほらね。この学校はかなり治安がカスなのである。

「!?!? 大月が謝罪した……!?」
「ふん、流石じゃねぇか……田中の兄貴!」

この流れも昨日しただろ。そして東郷くんの中で俺のランクがぐんぐん上がっている。めちゃくちゃ嫌われてたのに。何田中の兄貴ってちょっと恥ずかしいな。

グデンとした獅童くんを持って移動していると、市ヶ谷くんと東郷くんもついてきた。もともとお昼は一緒に摂る予定だったらしい。こんな暴走機関銃みたいな姿を見せても一緒にいてくれる友人、大切にした方がいい。

「え、ちょっと何あいつ……田中さまに抱き上げられて移動って、何様のつもり?」「見てあれ、市ヶ谷さまに東郷さま」「は? なんだアレ。地味マリモのくせに」

予想通りではあるが、ヒソヒソと妬みのこもった陰口がグデンとした獅童くんに向けられる。

「……アイツら」
「ほっときなよ東郷くん。何も出来やしないから」

反応しかけた東郷くんを市ヶ谷くんが諌めた。ただの親衛隊ならまさにその通りなのだが、親衛隊ユニコーンの怖さを舐めている。俺如きにどうしてそんな情熱をと思うが、このままでは獅童くんに危害が加えられる。

どうしよっかな。少し頭を悩ませていると──

「あ、あの、田中さま!」

目の前に、今朝の生徒くんが躍り出てきた。

「……や、今朝の子じゃん? どうしたの?」
「どうしたというか、そのっ……その転校生とは、どういうご関係で……?」

少し頭を働かせる。ここでの対応を間違えてはいけない。俺に害意が向けられず、さらに獅童くんを守ってやらねばならない。

「ウーン……この子、転校してきたばっかじゃん? だからまぁ、おれが教育係になったわけなんだけど~」

なので、ここは獅童くんの悪評を利用させてもらう。

「……確かに、少し暴力的で……教師も手を焼いてるみたいですが」
「でしょ?」

もちろんこれだけではダメだ。獅童くんを睨む目に明確な悪意がこもった。おおよそ、俺の手を煩わせやがってという敵意だろう。
だからここで盲信を利用する。

「おれとしては生徒会に任せた方がいいと思うけどなぁ~……ほら、だって教育できるタマでもないじゃ~ん? おれみたいな奴より、よほど常識的な相手の方が──」
「そんなことないです!!」

よし、かかった。

「田中さまはお優しい人ですし、立ち振る舞いが上手いのだってみんな知ってます! そいつが田中さまのいうことしか聞かないのもそのお人柄あってこそ……教育係に選ばれたのだって、相応しいと思われたからです!」

真っ赤になって反論してくる真っ直ぐさに思わず笑ってしまう。流石に立ち振る舞いが上手いは過言だが、後輩として無邪気に信頼できる先輩で荒れたのならば何よりである。
コミュ障が狼の皮を被ってるだけのバッドコミュニケーション連発人間ではあるが、期待に応えたいという気持ちはあるのだ。

「そ? なら良いけど~……まぁ、おれのこと信頼してくれてるなら、なんかあったら教えてくれるくらいが嬉しいな~。この子が問題起こしたとかでも、別の話でも」
「はっ……はい! 教育係ですもんね! 親衛隊一同応援しています!」

流石に完璧交流パーフェクトコミュニケーションである。こんな場所で大声で親衛隊の一人がこう宣言してしまえば、親衛隊の方針はこれで決まってしまう。
特に俺の意向が含まれているのもあり、このルールが覆ることはないだろう。

生徒とは和やかに別れ、周囲もやり取りを聞いていたのか陰口を叩くことは無くなった。

「……田中先輩、ありがとうございます」
「はは。別に構わんよ。大したことでもないしね」
「フン……」

後輩二人がそっと横に並んでくれる。なんとなく親密度が上がった気がした。
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