17 / 73
16
しおりを挟む
すっかり目も覚めたことなので、チャラ男としての武装を始める。染めた髪の毛が戻りかけてないか確認し、いくつかヘアピンを取り出し片方の前髪を止める。
いにしえのチャラ男を装いつつ畑の世話に邪魔にならないような服装である、さすが俺。
「あ? お前ジャージかそれ……」
「おしゃれジャージだよ~。どうせ汚れんのに制服着れるわけないじゃ~ん」
洗面所から戻ってくると、武藤様はスマートなウォッチをつけている。朝ジョグの用意ができたのだろう。
俺はといえば私服に見えるジャージの中に無地の白T。修学旅行の際、スキー研修で入り用になったものをまだ使っている。
「……今日肌寒いぞ」
「え? まさかぁ! 確かにちょっと寒いけど、寒さにもだいぶ慣れてきたしいけるって~!」
「室内だからな」
武藤様がリモコンを操作し、ガラス張りの窓を開ける。小さな駆動音と共に入り込んでくるありえんくらいの冷たい空気。
「寒い!!!!!!!!!」
「雪の日に調子乗って外出る犬じゃねぇか」
ウィーーーーン……と窓が閉じる。武藤様はだいぶ平気そうである。どういうこと? イエティの末裔とかなの? めちゃくちゃ美形のイエティなの?
「走りに行くから防寒対策してんだよ。おい、蹲るな。寝たら死ぬ寒さでもねぇだろ。寒さに乗じて怠けを出すな。お前雨だから外出なくていいって言うタイプか?」
言うタイプである。中学にトラウマはないが、雨で公共交通機関が停止することを待ち望み入念に天気予報とか見てた。
ぐだぐだしてても仕方がないので、部屋に戻って作業用の上着を着て戻ってくる。長靴とかは向こうに置いてあるので手ぶらだ。
上着を着てきた俺を見て、武藤様は何がどうしてかちょっと残念そうな顔をした。えっそんなダサい? ブランドのやつなんだけど……
「会長さま、もう出るの~? 俺も出ちゃおっかな~」
ウワサになっちゃうかもね~と笑えば、武藤様はいつも通り堂々推した、どこか冷徹な匂いの感じる表情で鼻を鳴らした。
「フン。テメェこそ、あの転校生は良いのかよ? 噂になってるぜ?」
「……へぇ~」
へぇ~~~~!
そゆこと教えてくれる友達がいないので知らなかった。
俺はまぁそこそこ有名人(悪い意味で)だが、俺なんかの噂をして何が楽しいのだろうか。おぼこい転校生たぶらかした最低男としてめちゃくちゃ悪口とか言われてるのかな。死にたい
「ッハ、知ってるくせに白々しい」
「……まぁね?会長さまがわざわざそんな噂を気にするなんて~って思っただけ~。なぁに? 気に入っちゃった?」
扉に鍵を差し込み、閉める。早々にエレベーターを呼び出した武藤様に小走りで駆け寄って笑えば、否定されると思ったのに何やら考え込んでいる様子。
えっ? まって? ほんとに?
「気に入った……なぁ?」
じろり、と金色の瞳が俺の全身を検分するようにざっと見つめた。
「最悪だとばかり思ってたが……ハン、想定よりは悪かねぇ」
──王道学園、という文化がこの世にある。
全寮制男子校で圧倒的な権力を持つ、美麗な男ばかりが揃った生徒会。
そんなところに芋臭い男が転校してきて、あれよあれよという間に学校の有名人に気に入られる、そういう文化。
(……え?)
エレベーターが一階に着く。さっさとジョギングに行ってしまった武藤様を眺めながら、俺はエレベーターの中に立ち尽くしていた。
悪くはない。あんなにもメンチを切り合って喧嘩したというのに、武藤様の心情は悪くないらしい。
「転校生に……俺たちの武藤様が……?」
由々しき事態である。
王道学園──この私立超王道高校は、名に違わぬラブストーリーを始めようとしているのかもしれない。
いにしえのチャラ男を装いつつ畑の世話に邪魔にならないような服装である、さすが俺。
「あ? お前ジャージかそれ……」
「おしゃれジャージだよ~。どうせ汚れんのに制服着れるわけないじゃ~ん」
洗面所から戻ってくると、武藤様はスマートなウォッチをつけている。朝ジョグの用意ができたのだろう。
俺はといえば私服に見えるジャージの中に無地の白T。修学旅行の際、スキー研修で入り用になったものをまだ使っている。
「……今日肌寒いぞ」
「え? まさかぁ! 確かにちょっと寒いけど、寒さにもだいぶ慣れてきたしいけるって~!」
「室内だからな」
武藤様がリモコンを操作し、ガラス張りの窓を開ける。小さな駆動音と共に入り込んでくるありえんくらいの冷たい空気。
「寒い!!!!!!!!!」
「雪の日に調子乗って外出る犬じゃねぇか」
ウィーーーーン……と窓が閉じる。武藤様はだいぶ平気そうである。どういうこと? イエティの末裔とかなの? めちゃくちゃ美形のイエティなの?
「走りに行くから防寒対策してんだよ。おい、蹲るな。寝たら死ぬ寒さでもねぇだろ。寒さに乗じて怠けを出すな。お前雨だから外出なくていいって言うタイプか?」
言うタイプである。中学にトラウマはないが、雨で公共交通機関が停止することを待ち望み入念に天気予報とか見てた。
ぐだぐだしてても仕方がないので、部屋に戻って作業用の上着を着て戻ってくる。長靴とかは向こうに置いてあるので手ぶらだ。
上着を着てきた俺を見て、武藤様は何がどうしてかちょっと残念そうな顔をした。えっそんなダサい? ブランドのやつなんだけど……
「会長さま、もう出るの~? 俺も出ちゃおっかな~」
ウワサになっちゃうかもね~と笑えば、武藤様はいつも通り堂々推した、どこか冷徹な匂いの感じる表情で鼻を鳴らした。
「フン。テメェこそ、あの転校生は良いのかよ? 噂になってるぜ?」
「……へぇ~」
へぇ~~~~!
そゆこと教えてくれる友達がいないので知らなかった。
俺はまぁそこそこ有名人(悪い意味で)だが、俺なんかの噂をして何が楽しいのだろうか。おぼこい転校生たぶらかした最低男としてめちゃくちゃ悪口とか言われてるのかな。死にたい
「ッハ、知ってるくせに白々しい」
「……まぁね?会長さまがわざわざそんな噂を気にするなんて~って思っただけ~。なぁに? 気に入っちゃった?」
扉に鍵を差し込み、閉める。早々にエレベーターを呼び出した武藤様に小走りで駆け寄って笑えば、否定されると思ったのに何やら考え込んでいる様子。
えっ? まって? ほんとに?
「気に入った……なぁ?」
じろり、と金色の瞳が俺の全身を検分するようにざっと見つめた。
「最悪だとばかり思ってたが……ハン、想定よりは悪かねぇ」
──王道学園、という文化がこの世にある。
全寮制男子校で圧倒的な権力を持つ、美麗な男ばかりが揃った生徒会。
そんなところに芋臭い男が転校してきて、あれよあれよという間に学校の有名人に気に入られる、そういう文化。
(……え?)
エレベーターが一階に着く。さっさとジョギングに行ってしまった武藤様を眺めながら、俺はエレベーターの中に立ち尽くしていた。
悪くはない。あんなにもメンチを切り合って喧嘩したというのに、武藤様の心情は悪くないらしい。
「転校生に……俺たちの武藤様が……?」
由々しき事態である。
王道学園──この私立超王道高校は、名に違わぬラブストーリーを始めようとしているのかもしれない。
34
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
生徒会長親衛隊長を辞めたい!
佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。
その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。
しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生
面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語!
嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。
一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。
*王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。
素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
チャラ男は愛されたい
梅茶
BL
幼い頃優等生としてもてはやされていた主人公。しかし、母が浮気をしたことで親は離婚となり、父について行き入った中学校は世紀末かと思うほどの不良校だった。浮かないためにチャラ男として過ごす日々にストレスが溜まった主人公は、高校はこの学校にいる奴らが絶対に入れないような所にしようと決意し、山奥にひっそりとたつ超一流学校への入学を決める…。
きまぐれ更新ですし頭のおかしいキャラ率高めです…寛容な心で見て頂けたら…
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる