王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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「つっ……かれたぁ~……」

部屋に帰ってきてすぐソファに倒れ込む。触り心地のいいベルベットのソファは備え付けのものらしい。入寮パンフレットに書いてあった。

「今日はいろんな人と交流できたぞ……ふふ……」

本校舎にある園芸委員会の部屋にも顔を出しておもむろにお土産も配ったし、何人かと話せた。今日の俺は陽キャだったかもしれん。
あっでも、急にお土産配るってきしょくない? 何も無かったのに。陰口言われてたらどうしよう。

「ぐおおおお~~~~やらかしたか」
ガチャ
「も~~…………」

世界がひっくり返っている。上下反転した武藤さまが、虫でも見るかのような顔でコチラを見ていた。当たり前である。俺は今ソファの上でおもむろにブリッヂをしていた。

「……おかえり」
「…………」

絶句。武藤さまも絶句するんだ……

「お前、今日も居んのかよ……」
「俺の家に俺がいるだけなんだが」

なんか毎回これ言われてる気がする。初日も記憶は朧げなのだが言われたような気がしないでもない。記憶がないので定かではないが。

「いっつも旧校舎にいるらしいじゃねぇか。ンで急に寮に帰ってくンだよ。俺様目当てか? 園芸委員長さまよォ」

ギギクーーッッ
た、確かに武藤さまとお友達とまではいかないけどもうちょいこうお近づきになれたらなーとか運良く友達っぽいやりとりとかできたらなーとか思ってはいたがそんなまさかそれだけが理由とかそんなね。

「別にい~? 旧校舎の空調が壊れただけですけど~? せっかくだしQOL上げとくかと思っただけですけど~」
「お前毎日芋をふかした奴だろうが」
「そっそれは……」

嘘です。はしゃいでました。旧校舎の空調が壊れたのは事実だが、今四月なので普通に何とかなるしな。
だがそれがバレるわけにはいかない! なぜなら自分のファンが家に住み着いてるとか普通にキモいからだ! キモがられたくない! 何より武藤さまのお心を悲しませるわけにはいかない!

「白状するけど、俺は料理が引くほど苦手です」

なので、別の恥ずかしいことを白状してお茶を濁す、肉を切らせて骨を守る作せ──

「それは知ってる」

知ってた! 完!!

「料理うまい奴が毎日芋ふかす訳ねぇだろ。飽きねぇのか」
「ちょっと飽きてる……二日前くらいに」
「届いた直後じゃねぇか」

やっぱり武藤さま、芋に対して何か気にかかってはいたんだな。俺の推測が斜め上だっただけで。まぁ確かに同室のやつが毎日芋食ってたら気でも狂ったのかと思う。

「毎日餃子定食食べてるから、ここ三日は口にするもの全部ワンパターンで死ぬかと思った」
「自業自得……」

ちなみに俺は言葉の響きで因果応報とか悪因悪果とかの方が好きだ。関係ないですね、はい。

「正直料理に対するモチベはないけど美味しいものは食べたい~……公園の鳩とかになりたい」
「たまにワンカップ片手に怒鳴られるぞ」

でもそのおじさん餌くれるじゃん。ええいままよと何もかもを吐露しダメ人間を露呈すれば、武藤さまは何やらそわ、と体を揺らした。

「フン、どうだかな……テメェの奇行も、油断させるためのもんかもしれねぇしな。まさかあんな犬を隠してたとはなァ?」

何かを振り払うように武藤さまが口の端を釣り上げる。
俺のコミュ障アイは武藤さまの少しの変化も見逃さないが、普段の皮肉げな笑みより吊り上げる唇の角度が二ミリほど下がっている。
言葉以上に何か思うところがあるらしい。

でも言葉の裏は読めない! 役立たずである、俺は。誰も俺を愛さない。この間SNSで病んだらいいねが三個ついた。親と水瀬みうちだった。

「住んで三日の家で奇行する人間に油断することはないでしょ」
「じゃああの犬は何なんだよ」
「知らんよぉ……芋あげただけで……普通に本人が海賊みたいなものだし~……」
「到底信じられねぇな」

全然信じてくれない。俺のこと嫌い? 嫌いは嫌いだったわ。悲し。
武藤さまは買い物袋の中からいくつか知らん調味料を取り出し、冷蔵庫に入れた。まだ残っている芋を見てうわ、と声を出していたが。

もう何も出来ることがない。ソファに沈む俺をチラリと見て、つぶやいた声。

「野良犬に餌はやるなよ」

どうやら、ちょっとだけ信じてくれる気になったらしい。何で? お心が海のように広いから?
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