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 共用のバスルームは脱衣所と分かれており、どこかで見た目の細かいとかいうシャワーと一緒に大理石の湯船が置いてある。湯船から向かって右側、外に面した壁はガラス張りで、麓の街まで見渡せた。

「うわ……こんなに設備違うんだ……」

 ちゃぷ、と音を立てて肩まで浸かった。背はわりと高い方だけれど、足がゆうゆうと伸ばせる。縮まってお風呂に入る武藤様は想像できないのでこれが正解なのだろうが。

(今日の武藤様も素敵だったなぁ~……)

 帰ったら料理をなされている──洗い物だけど──武藤様と遭遇するなんて、それなんて新婚?
いや、調子に乗っちゃいけないんだけど。

(ファンクラブに知られたら殺されるな)

武藤様のファンクラブは抱かれたい系男子、通称チワワが多いとはいえ普通に男の集団だ。
いわゆる処女厨みたいな過激派も一定数いて、行動力もえげつないのでファンクラブ内でも問題視されている。

そんなユニコーン達に俺が同居していることを知られたら何を言われるか。言われるというかされるか。そこだけが懸念ポイントである。

「ふぅ……しかし今日は色々あった……」

昨日に引き続き怒涛だ。あのまりもくんが来たからだろうか。小柄でなんとなくワタワタしてるから、ポメラニアンとかに似てる。
表立って後輩と仲良くしたのは初めてだからパニックになって訳分からん嘘ついてしまったけど。

「園芸委員会の後輩にも、ちゃんと優しくしてあげればよかったかもなぁ」

明日話しかけてみよ。
ぐたーっと力を抜いて麓の街の光を見つめていると、俺の脳にふと天啓が降りてきた。

今日の武藤様の奇行についてである。

「じゃがいも食いたかったんかな」

そういうことだ。
ちょっと待って欲しい。一旦話を聞いて欲しい。確かに武藤様はじゃがいもとかいう庶民の食べ物を口にしないかもしれないが、じゃがいも使えなかったら結構な量の料理がオワコンになるし。

武藤様=料理がお上手……A
じゃがいも=いろんな料理に使う……B

A+B=武藤様はじゃがいもをご所望

完璧な図式である。自分が怖い。IQ200。IQって初めて聞いた漫画作品とか世代によって分かれるよね。俺は某有名ニンジャ漫画。

全てを理解した俺は要するに風呂場ハイテンションとかいうものだった。
が、昔から風呂でハイテンションになったところで誰に何か言えることもなく沈静化していたため、風呂の異常性に気づいてはいなかった。

人は時折の失敗を通して成長するが、失敗するチャンスのない人間もいる。そう、コミュ障である。

早速風呂から上がった俺は体を拭き、パジャマを身につけ、廊下を曲がる。リビングまでの扉を勢いよく開き、自信満々に宣言した。

ちなみに武藤様はリビングにあるソファで読書をしていた。勤勉な姿にきゅんです。

「会長さま! 芋いる!?!?」
「いらん」
「……!!」

賢い俺は理解した。風呂場ハイテンションというものの魔力と──今日の夜、この呆れたような睥睨を思い出して悲しくなるのだろうという己の動向を。

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