王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

文字の大きさ
上 下
7 / 200

6

しおりを挟む
寮の二十階というのには、二日目とはいえ全然慣れない。暮らしのスペースが広くなったのは普通にラッキーなのだが、元々十三階の1LDKを持て余していたのだからさして変わらない気がする。

ちん、と軽い音を立ててエレベーターが最上階の合図を送ってきた。

「どうも」
「ども~……」

今すれ違った人風紀委員長じゃなかった!?!?!?!?!? 思わず後ろをガン見するが、エレベーターはもういってしまった。仕事の早い機械である。これは俺の仕事が奪われる日も近いってね!

「ひょえー……やっぱ二十階って凄……」

武藤様以外は皆二人一部屋のはずだから、あのクラスの学校の有名人があと三人もいることになる。誰だろうか。こわ。俺邪魔すぎ。

「まぁ全然使うけど。たっだいま~!」

武藤様のいる部屋である。帰らないわけがない。寝泊まりしてた旧校舎はこの間暖房が壊れたし。

我が家(我が家!)の扉を開けると、リビングの方からいい匂いが漂ってきた。ダイニングキッチンだし誰かが料理でもしているのだろう。

「はぁ~疲れた疲れた。会長さま~? 帰ってきてたんだぁ」

知ってるくせに白々しくリビングに足を踏み入れると、なんかよくわかんないけど多分オリーブオイルとかのいい匂いがする。
テーブルの上には一人分、おしゃれそうな料理。アヒージョみたいな名前だった気がする。
お手伝いさんはいない。まさか。

「え、おいしそ! 会長さまがつくったの~?」

キッチンの方を振り向くと、武藤様が麗しい御尊顔を苦々しく歪めていた。えっなに!? 何かやらかした、俺!?

「……チッ。帰ってくるのかよ」
「俺の家ですけど……」
「お前の分はねぇ」
「あったらびっくりするけど……?」

そういえば同居における決まりごとみたいなのを作ってなかった気がする。別にこだわりとかないなら各々使ったら片すとかでいいと思うけど。

「会長さま、料理うまいね~。趣味なの?」

武藤様ファンクラブの会報には載ってなかったはずだが。趣味が料理、カッコ良すぎる。

「普通だろ」
「普通なの!?!?!?!?!?」

武藤様の眉間にさらに皺がよる。俺の声がデカすぎたのだ。申し訳ない。えっ普通なん? 帰ったらアヒージョとか作れてるのが普通なん? オリーブオイルクソ高いのに? でも武藤様の言うことに間違いはないしな……

「普通なんだぁ……へぇ、凄いね会長さまは……」
「上手くもねぇ皮肉言う暇あったら姿消せ」
「酷くなぁい!? あたり強! 俺なんかした!?」

武藤様がさらに眉間に皺を寄せ、鉄鍋を洗っているとは思えない顔をしている。親の仇の死体でも洗ってるみたいだ。え、俺そんな何かやらかしてる? 全然覚え無

──“ちなみに高校生活の醍醐味と言われている二年生の修学旅行だが、チャラ男の仮面を被りまくり明らかに引かれ嫌われるなど”──

ある~~~~。終わりです。

「……ま! せっかく同居生活なんだし、仲良くしよ~? 表面上でいいからさぁ」

コミュ障の一番苦手な言葉、表面上は仲良くするである。俺は一度優しくされたらずっと好きだ。ずっと仲良くなったと思ってる。心の中の優しくしてくれた人って枠にずっと入ってる。ぼっちなので。

だが武藤様はおそらくコミュ強。表面上は仲良くすると言うすべも心得ていることだろう。
表立って厳しくされたら俺のような心の弱い人間はすごく傷ついてもうなんか何もかも嫌になっちゃうから、お頼み申す。

「んでオレ様がお前に合わせてやんねぇといけないんだよ?」

道理である。何の反論もできない。

「ほら、オレが悲しいから?」
「勝手に悲しんでろ」
「ひどぉい!」

異議を申し立ててみるも、武藤様のような方が俺みたいな農民に目もくれるわけがなく。
仕方がない、俺も夕飯を作るか……

「ちょっとごめんねぇ」
「? んだよ……んだその芋」
「昨日のだけどぉ?」

冷蔵庫から芋を取り出し、武藤様の横でじゃっと水洗い。そのまま持参してきたラップに包む。

そしてレンジ。
まぁ七個くらい詰めれば入るだろ!

「朝から思ってたがな……ふかすなら四個までだ。壊してーのか?」
「えっ……でも詰めれば入、すみません……」

無理だった。
四個レンジに入れて出来上がるまで待つ。五分待ってまた取り出した頃には、武藤様はもう洗い終えてご飯を食べていた。

2回そういう動作を繰り返し、ラップを剥く。

「っぢ! あづ! はふ」

皮ごとかぶりつく。苦い、けどやはりうまい。さすが新じゃが。

ホクホクの中身を夢中になって貪れば、上顎が火傷して剥けた気配を感じる。食べ終わったらむいておこう。

「はふはふ、うまー!」
「芋そのまま……?」
「? なんかいったー? 会長さま」
「ンでもねぇ」

武藤様が何か言った気配を感じたのに聞き流してしまった。一生の不覚。
言っているうちにさっさと芋を食べ終わってしまう。どうやら俺は犬舌らしく、熱いものもパクパク食べれるのだ。熱いもんは熱いうちのがうまい!

「ごっそさまでした!」

ラップに手を合わせ、ゴミ袋に捨てる。皿はいらないのである。
さて、風呂にでも

「おい」

へ!?

「お前……芋だけか? 飯」
「え、うん……」
「……昨日もそれだろ」
「芋美味しいよ……?」

こちらに背を向けたまま、武藤様が質問してくる。昨日なこと覚えててくれたのかと喜ぶ前に怖いが先にくる圧だ。意図がわからず首を傾げながら答える。

「そォかよ」

興味なさげにそう吐き捨てられて、俺はますます首を傾げてしまった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~

いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。 ※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します! ※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。

不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です

新川はじめ
BL
 国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。  フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。  生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

病んでる僕は、

蒼紫
BL
『特に理由もなく、 この世界が嫌になった。 愛されたい でも、縛られたくない 寂しいのも めんどくさいのも 全部嫌なんだ。』 特に取り柄もなく、短気で、我儘で、それでいて臆病で繊細。 そんな少年が王道学園に転校してきた5月7日。 彼が転校してきて何もかもが、少しずつ変わっていく。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーー 最初のみ三人称 その後は基本一人称です。 お知らせをお読みください。 エブリスタでも投稿してましたがこちらをメインで活動しようと思います。 (エブリスタには改訂前のものしか載せてません)

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜 ・話の流れが遅い ・作者が話の進行悩み過ぎてる

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

神は眷属からの溺愛に気付かない

グランラババー
BL
【ラントの眷属たち×神となる主人公ラント】 「聖女様が降臨されたぞ!!」  から始まる異世界生活。  夢にまでみたファンタジー生活を送れると思いきや、一緒に召喚された母であり聖女である母から不要な存在として捨てられる。  ラントは、せめて聖女の思い通りになることを妨ぐため、必死に生きることに。  彼はもう人と交流するのはこりごりだと思い、聖女に捨てられた山の中で生き残ることにする。    そして、必死に生き残って3年。  人に合わないと生活を送れているものの、流石に度が過ぎる生活は寂しい。  今更ながら、人肌が恋しくなってきた。  よし!眷属を作ろう!!    この物語は、のちに神になるラントが偶然森で出会った青年やラントが助けた子たちも共に世界を巻き込んで、なんやかんやあってラントが愛される物語である。    神になったラントがラントの仲間たちに愛され生活を送ります。ラントの立ち位置は、作者がこの小説を書いている時にハマっている漫画や小説に左右されます。  ファンタジー要素にBLを織り込んでいきます。    のんびりとした物語です。    現在二章更新中。 現在三章作成中。(登場人物も増えて、やっとファンタジー小説感がでてきます。)

処理中です...