王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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ジョウロを持って立ち尽くしたまま花壇の様子をさっと観察する。花々は散り、すっかりと踏み潰されてしまっていた。もちろん全部ではないが、全体の調和を著しく損なっているのには変わりがない。

「お、俺の花壇……」

何が起きてるんだ。なんか人降ってきてたし、二の句が告げない。一回情報を処理させて欲しい。進んで行く会話の把握が遅いということでコミュ障な場合もあるのだ。

「あ、ご、ごめっ、すんません!」
「へっ」
「折角こんな綺麗な花壇、急いどったんです! 申し訳ね! 田舎から出てきたばっかで、門が閉まっどったもんだから、ほんまに……」

独特なイントネーションの少年……少年? が慌てて花壇から降りる。もさもさ頭にびんぞこメガネの、ウニの擬人化みたいな子だった。よく見るとうちの制服を着てて線が細い。
例の転校生だろうか。

「……急いでいたからとはいえ、塀に登るのは感心しませんね」
「おっしゃる通りで……」

副会長がメガネを光らせ少年を注意した。もしかしてこれ庇ってくれてる? と夢を見るのは副会長検定落第である。
副会長はルールというルールに引くほど厳しいお方で、そのルールの偏愛っぷりに副会長ファンクラブは様々な独自のルールを厳密に守ることでアピールするというよくわからんことになっているのだ。

「貴方も。園芸委員長の……田中宗介くんでしたか。旧校舎の改造、お見事です。いつか視察に参りますね」
「は、ははは~……しばらくは忙しいですかね……」

ほらね! 飛び火だよもう!
実は園芸委員会、権力が無さすぎて一代で改造するには予算がちょっとばかし足りなかったのだ。
なのでこう、ね。隠れてバイトとかクラファンとかで地道に稼いだのだ。

それが確実にばれている。怖い。

ちなみにクラファンなんて集まりやしないと思ってたけれど、めちゃくちゃ援助してくれた方がいてどうにかなった。返礼品は俺がスケッチした植物の様子とタネと手描き栽培レシピである。

「……ま、まぁ。ごめん動揺してなんか、あの、怪我とかない? 土柔らかいから、クッションになってるといいけど」

あんなに花壇花壇言ったくせになんのつもりだという話だが、一応心配はちゃんとしているのだ。副会長に注意されて怯んでいる転校生に声をかける。

「は、はい! 怪我は無いけど……すんません、丁寧に作られてたのに……」
「えっ分かるの?」
「そら! 俺は都会んことには詳しくないですが、田舎で農家やっとりましたからね」

自慢げに胸を叩いたあと、転校生はまたしょんぼりと体を縮めてしまう。ただでさえ小柄なのにそうされると、ポメラニアンでも相手しているような気がしてきてしまった。

「構わんよ、でも反省してるなら、この花壇を復活させるの手伝ってくれない?」
「花壇を?」
「うん。このまま整えたら変なスペース空いちゃうから、そこに花を植えてあげて欲しい。知りたいことあったら俺が教えるから」

伝えれば、転校生の顔が明らかに輝く。

「もちろんです! 俺が出来るんなら、何でも! 園芸委員会でええですか? センパイのとこ!」
「え!? いや、無理して入んなくていいよ。他の委員会と比べて地味だし質素だし……ちょっと手伝ってくれるだけで」
「俺に委員会入る資格がなかとですか!? それはそうかもしれんが、挽回する気はあります!」
「話聞かないな」

全然話聞かないじゃん。副会長は付き合ってられないとでも思ったのがいつの間にか姿を消していた。うそだ、さっきため息吐いてどっか行くのを見た。ほんのりと傷付く。

「この手は出したくなかったんですがセンパイ……」
「?」
「俺んちなら、豊潤が格安で手に入ります」
「ほっ、豊潤……!? あの、肥料の……!?」

最高級肥料、豊潤。そもそも価格が高騰している肥料の中、唯一無二絶対の性能を誇る肥料である。
そんな豊潤が、格安で。

「仲良かったんよ、そこの会社とね。そして……敷石、縁石、真竹もろもろ」
「!?!? それは……ッ」
「こんなに庭づくりの上手いセンパイなら、日本庭園にも手出しとるはずや。それらをね……」

ちょいちょいと手招かれ、フラフラついていく。

「纏めて……」

耳元で囁かれた金額。

「園芸委員会にようこそ転校生くん。委員会の届けは教務課で受けられるよ」
「シャス!!!!!!!」

俺は弱かった。
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