上 下
4 / 5

3

しおりを挟む
昨日の記憶はほとんどない。当たり前である。あの後粛々と芋を回収し冷蔵庫にひとまずぶち込み(クソデカ冷蔵庫だった、助かる)生活必需品を設置しただけだったのだから。
武藤様とはコンタクトを取らなかった。普通にリビングで宿題とかしてた。真面目な一面にキュンです。

最低限歯を磨いて即寝た記憶しかない。

「だからお前今日そんな芋ふかしてたんだ」
「うん。いる?」
「もう結構食った」

芋はふかした。水洗いした後水気を切らずラップにくるんでレンチンである。これで簡単にふかせるので、いくつか朝ふかして朝食、昼食を兼用している。芋は完全栄養食!

旧校舎の植物を世話してやって一息ついていると、水瀬が近況を聞いてきたのでこのエピソードを話したら引くほど笑われた。

「いや、朝から芋のふかしたやつを一生懸命食ってる友人見たら聞くだろ」
「2キロ消費しないといけないし……」
「加工してないとわりと足速いしな。チャチャっと料理に使っちまって冷蔵しとけ」
「そんな足速い?」
「お前の五十メートル走くらい」
「フゥン、植物にしては速いじゃん」
「お前は植物じゃないと許されない遅さしてるけどな」

コミュ障はえてして運動が出来ない。運動が出来ればひとまず周囲に話しかけてもらえるが、運動音痴は小学校で人権がないからコミュ障になりやすいのだ。大嘘である。俺の経験談でしかない。

旧校舎内に置いてある鉢植えにも水をやり、手入れをしてやる。ついでに校長の盆栽も様子を見てひとまず今日の作業は完了だ。

「でもまぁ、お前頭はいいよな」
「よくないが」
「成績はカスだけどな。いや、植物ひとつひとつの育て方覚えてんだろ? 普通にすごくね」

そうだろうか。

「昔はめっちゃ毎回調べてたし、何回も育ててるからな。育成難易度も高くはないのばっかだよ」

サギソウとか、原種ユリ系とかはまだ育てるのもおぼつかないしな。
でも褒められるのは嬉しい。もっと知識を披露して褒められたい。

「一応言っとくがもう褒めんぞ」
「はい」

水瀬は人の心を読めるのはわかった。こっちの方がすごいのでは? いや、俺の浅ましい考えなんてお見通しってことか? 浅ましいし浅いし……

旧校舎から帰る道すがら、グラウンドに行く水瀬に別れを告げる。今日は長く一緒にいられたなとほくほくするも、時間を確認すればいつも別れる時間だった。今日は武藤様観察をすっぽ抜かしてたから早く終わったんだろう。

「ん?」

本校舎の前を横切って寮の道に出るのが最短ルートだ。その通り歩いていれば、校門の前に人影が見えた。

クールな銀縁メガネに残酷さすら感じる怜悧な眼差し。
左腕に通した腕章には誇り高く“生徒会”と書かれて──いちおう俺も持ってるが(委員長なので)なんか申し訳なくて使ってない──いる。

(ふ、ふ、副会長!? 何見て……)

視線の先には咲き誇る花々(俺が育てた)

(ウワーーーーーッッ俺の花壇見てる!!!! あの副会長が!!!! 全人類見て、あの副会長が俺の花壇見てる!!!!!)

別に最推しじゃ無いけど、みんなに人気な人が自分の大切にしているものを評価してくれると嬉しいものだ。
もちろんただふと目に入っただけかもしれないが、それこそ花壇の美しさは、色んな人の目にふっと入って癒されるという事を至高としている。持論だけど。

近くの木に隠れ、様子を伺う。副会長は花の戦ぐ様子をじっと見ていた。計算し尽くして、四季いつでも美しい花を魅せる花壇は自慢のものだ。
もう少ししたら花々がもっと咲いて見頃なのだが、今だって独特の風情があるってもんよ。

(今日は武藤様ウォッチングじゃなくてなんか……副会長ウォッチングしてるな)

たまにはいいものである。多肉植物がいちばん好きだけど、桜に見惚れる日もあるのだし。
よくないのは生徒会ウォッチングを日常としてしまっている俺の異常性だけである。

「……ん?」
「?」

ふと副会長が顔を上げる。随分と油断しているのか、何やら不思議そうに。
それにつられて視線を上げると、塀の上に少年が立っていた。

「えっ?」

塀。金持ちで顔のいい学生を守るために作られた、三メートルほどの塀である。この広大な学校をぐるりと囲っていて、ええと、その上に? 少年??

もさもさ頭にびんぞこ眼鏡の少年はこちらに目を向ける事なく、ぴょいんと飛んで

「危ないっ!」
「せやぁ!!」

花壇にずしゃ、と着地した。
えっ飛んだ? てか着地? いや骨折れ、いやというか

「お、俺の花壇ーーッッ!!!!!!!!!」
「うおっ!?」
「!」

びんぞこ眼鏡と銀縁眼鏡に、ジョウロを持って立ち尽くす俺の姿がきらりと映った。映るな。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!

甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!! ※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

言い逃げしたら5年後捕まった件について。

なるせ
BL
 「ずっと、好きだよ。」 …長年ずっと一緒にいた幼馴染に告白をした。 もちろん、アイツがオレをそういう目で見てないのは百も承知だし、返事なんて求めてない。 ただ、これからはもう一緒にいないから…想いを伝えるぐらい、許してくれ。  そう思って告白したのが高校三年生の最後の登校日。……あれから5年経ったんだけど…  なんでアイツに馬乗りにされてるわけ!? ーーーーー 美形×平凡っていいですよね、、、、

お飾りは花だけにしとけ

イケのタコ
BL
王道学園で風紀委員長×生徒会長です 普通の性格なのに俺様と偽る会長に少しの出来事が起きる 平凡な性格で見た目もどこにでもいるような生徒の桃谷。 ある日、学園で一二を争うほどの人気である生徒会ほぼ全員が風紀委員会によって辞めさせられる事態に 次の生徒会は誰になるんだろうかと、生徒全員が考えている中、桃谷の元に理事長の部下と名乗る者が現れ『生徒会長になりませんか』と言われる 当然、桃谷は役者不足だと断るが…… 生徒会長になった桃谷が様々な事に巻き込まれていくお話です

掃除中に、公爵様に襲われました。

天災
BL
 掃除中の出来事。執事の僕は、いつものように庭の掃除をしていた。  すると、誰かが庭に隠れていることに気が付く。  泥棒かと思い、探していると急に何者かに飛び付かれ、足をかけられて倒れる。  すると、その「何者か」は公爵であったのだ。

うちの家族が過保護すぎるので不良になろうと思います。

春雨
BL
前世を思い出した俺。 外の世界を知りたい俺は過保護な親兄弟から自由を求めるために逃げまくるけど失敗しまくる話。 愛が重すぎて俺どうすればいい?? もう不良になっちゃおうか! 少しおばかな主人公とそれを溺愛する家族にお付き合い頂けたらと思います。 説明は初めの方に詰め込んでます。 えろは作者の気分…多分おいおい入ってきます。 初投稿ですので矛盾や誤字脱字見逃している所があると思いますが暖かい目で見守って頂けたら幸いです。 ※(ある日)が付いている話はサイドストーリーのようなもので作者がただ書いてみたかった話を書いていますので飛ばして頂いても大丈夫だと……思います(?) ※度々言い回しや誤字の修正などが入りますが内容に影響はないです。 もし内容に影響を及ぼす場合はその都度報告致します。 なるべく全ての感想に返信させていただいてます。 感想とてもとても嬉しいです、いつもありがとうございます! 5/25 お久しぶりです。 書ける環境になりそうなので少しずつ更新していきます。

攻略対象の一人だけどお先真っ暗悪役令息な俺が気に入られるってどういうことですか

さっすん
BL
事故にあってBLゲームの攻略対象の一人で悪役令息のカリンに転生してしまった主人公。カリンは愛らしい見た目をしていながら、どす黒い性格。カリンはその見た目から見知らぬ男たちに犯されそうになったところをゲームの主人公に助けられるて恋に落ちるという。犯されるのを回避すべく、他の攻略対象と関わらないようにするが、知らず知らずのうちに気に入られてしまい……? ※パクりでは決してありません。

BlueRose

雨衣
BL
学園の人気者が集まる生徒会 しかし、その会計である直紘は前髪が長くメガネをかけており、あまり目立つとは言えない容姿をしていた。 その直紘には色々なウワサがあり…? アンチ王道気味です。 加筆&修正しました。 話思いついたら追加します。

処理中です...