4 / 79
3
しおりを挟む
昨日の記憶はほとんどない。当たり前である。あの後粛々と芋を回収し冷蔵庫にひとまずぶち込み(クソデカ冷蔵庫だった、助かる)生活必需品を設置しただけだったのだから。
武藤様とはコンタクトを取らなかった。普通にリビングで宿題とかしてた。真面目な一面にキュンです。
最低限歯を磨いて即寝た記憶しかない。
「だからお前今日そんな芋ふかしてたんだ」
「うん。いる?」
「もう結構食った」
芋はふかした。水洗いした後水気を切らずラップにくるんでレンチンである。これで簡単にふかせるので、いくつか朝ふかして朝食、昼食を兼用している。芋は完全栄養食!
旧校舎の植物を世話してやって一息ついていると、水瀬が近況を聞いてきたのでこのエピソードを話したら引くほど笑われた。
「いや、朝から芋のふかしたやつを一生懸命食ってる友人見たら聞くだろ」
「2キロ消費しないといけないし……」
「加工してないとわりと足速いしな。チャチャっと料理に使っちまって冷蔵しとけ」
「そんな足速い?」
「お前の五十メートル走くらい」
「フゥン、植物にしては速いじゃん」
「お前は植物じゃないと許されない遅さしてるけどな」
コミュ障はえてして運動が出来ない。運動が出来ればひとまず周囲に話しかけてもらえるが、運動音痴は小学校で人権がないからコミュ障になりやすいのだ。大嘘である。俺の経験談でしかない。
旧校舎内に置いてある鉢植えにも水をやり、手入れをしてやる。ついでに校長の盆栽も様子を見てひとまず今日の作業は完了だ。
「でもまぁ、お前頭はいいよな」
「よくないが」
「成績はカスだけどな。いや、植物ひとつひとつの育て方覚えてんだろ? 普通にすごくね」
そうだろうか。
「昔はめっちゃ毎回調べてたし、何回も育ててるからな。育成難易度も高くはないのばっかだよ」
サギソウとか、原種ユリ系とかはまだ育てるのもおぼつかないしな。
でも褒められるのは嬉しい。もっと知識を披露して褒められたい。
「一応言っとくがもう褒めんぞ」
「はい」
水瀬は人の心を読めるのはわかった。こっちの方がすごいのでは? いや、俺の浅ましい考えなんてお見通しってことか? 浅ましいし浅いし……
旧校舎から帰る道すがら、グラウンドに行く水瀬に別れを告げる。今日は長く一緒にいられたなとほくほくするも、時間を確認すればいつも別れる時間だった。今日は武藤様観察をすっぽ抜かしてたから早く終わったんだろう。
「ん?」
本校舎の前を横切って寮の道に出るのが最短ルートだ。その通り歩いていれば、校門の前に人影が見えた。
クールな銀縁メガネに残酷さすら感じる怜悧な眼差し。
左腕に通した腕章には誇り高く“生徒会”と書かれて──いちおう俺も持ってるが(委員長なので)なんか申し訳なくて使ってない──いる。
(ふ、ふ、副会長!? 何見て……)
視線の先には咲き誇る花々(俺が育てた)
(ウワーーーーーッッ俺の花壇見てる!!!! あの副会長が!!!! 全人類見て、あの副会長が俺の花壇見てる!!!!!)
別に最推しじゃ無いけど、みんなに人気な人が自分の大切にしているものを評価してくれると嬉しいものだ。
もちろんただふと目に入っただけかもしれないが、それこそ花壇の美しさは、色んな人の目にふっと入って癒されるという事を至高としている。持論だけど。
近くの木に隠れ、様子を伺う。副会長は花の戦ぐ様子をじっと見ていた。計算し尽くして、四季いつでも美しい花を魅せる花壇は自慢のものだ。
もう少ししたら花々がもっと咲いて見頃なのだが、今だって独特の風情があるってもんよ。
(今日は武藤様ウォッチングじゃなくてなんか……副会長ウォッチングしてるな)
たまにはいいものである。多肉植物がいちばん好きだけど、桜に見惚れる日もあるのだし。
よくないのは生徒会ウォッチングを日常としてしまっている俺の異常性だけである。
「……ん?」
「?」
ふと副会長が顔を上げる。随分と油断しているのか、何やら不思議そうに。
それにつられて視線を上げると、塀の上に少年が立っていた。
「えっ?」
塀。金持ちで顔のいい学生を守るために作られた、三メートルほどの塀である。この広大な学校をぐるりと囲っていて、ええと、その上に? 少年??
もさもさ頭にびんぞこ眼鏡の少年はこちらに目を向ける事なく、ぴょいんと飛んで
「危ないっ!」
「せやぁ!!」
花壇にずしゃ、と着地した。
えっ飛んだ? てか着地? いや骨折れ、いやというか
「お、俺の花壇ーーッッ!!!!!!!!!」
「うおっ!?」
「!」
びんぞこ眼鏡と銀縁眼鏡に、ジョウロを持って立ち尽くす俺の姿がきらりと映った。映るな。
武藤様とはコンタクトを取らなかった。普通にリビングで宿題とかしてた。真面目な一面にキュンです。
最低限歯を磨いて即寝た記憶しかない。
「だからお前今日そんな芋ふかしてたんだ」
「うん。いる?」
「もう結構食った」
芋はふかした。水洗いした後水気を切らずラップにくるんでレンチンである。これで簡単にふかせるので、いくつか朝ふかして朝食、昼食を兼用している。芋は完全栄養食!
旧校舎の植物を世話してやって一息ついていると、水瀬が近況を聞いてきたのでこのエピソードを話したら引くほど笑われた。
「いや、朝から芋のふかしたやつを一生懸命食ってる友人見たら聞くだろ」
「2キロ消費しないといけないし……」
「加工してないとわりと足速いしな。チャチャっと料理に使っちまって冷蔵しとけ」
「そんな足速い?」
「お前の五十メートル走くらい」
「フゥン、植物にしては速いじゃん」
「お前は植物じゃないと許されない遅さしてるけどな」
コミュ障はえてして運動が出来ない。運動が出来ればひとまず周囲に話しかけてもらえるが、運動音痴は小学校で人権がないからコミュ障になりやすいのだ。大嘘である。俺の経験談でしかない。
旧校舎内に置いてある鉢植えにも水をやり、手入れをしてやる。ついでに校長の盆栽も様子を見てひとまず今日の作業は完了だ。
「でもまぁ、お前頭はいいよな」
「よくないが」
「成績はカスだけどな。いや、植物ひとつひとつの育て方覚えてんだろ? 普通にすごくね」
そうだろうか。
「昔はめっちゃ毎回調べてたし、何回も育ててるからな。育成難易度も高くはないのばっかだよ」
サギソウとか、原種ユリ系とかはまだ育てるのもおぼつかないしな。
でも褒められるのは嬉しい。もっと知識を披露して褒められたい。
「一応言っとくがもう褒めんぞ」
「はい」
水瀬は人の心を読めるのはわかった。こっちの方がすごいのでは? いや、俺の浅ましい考えなんてお見通しってことか? 浅ましいし浅いし……
旧校舎から帰る道すがら、グラウンドに行く水瀬に別れを告げる。今日は長く一緒にいられたなとほくほくするも、時間を確認すればいつも別れる時間だった。今日は武藤様観察をすっぽ抜かしてたから早く終わったんだろう。
「ん?」
本校舎の前を横切って寮の道に出るのが最短ルートだ。その通り歩いていれば、校門の前に人影が見えた。
クールな銀縁メガネに残酷さすら感じる怜悧な眼差し。
左腕に通した腕章には誇り高く“生徒会”と書かれて──いちおう俺も持ってるが(委員長なので)なんか申し訳なくて使ってない──いる。
(ふ、ふ、副会長!? 何見て……)
視線の先には咲き誇る花々(俺が育てた)
(ウワーーーーーッッ俺の花壇見てる!!!! あの副会長が!!!! 全人類見て、あの副会長が俺の花壇見てる!!!!!)
別に最推しじゃ無いけど、みんなに人気な人が自分の大切にしているものを評価してくれると嬉しいものだ。
もちろんただふと目に入っただけかもしれないが、それこそ花壇の美しさは、色んな人の目にふっと入って癒されるという事を至高としている。持論だけど。
近くの木に隠れ、様子を伺う。副会長は花の戦ぐ様子をじっと見ていた。計算し尽くして、四季いつでも美しい花を魅せる花壇は自慢のものだ。
もう少ししたら花々がもっと咲いて見頃なのだが、今だって独特の風情があるってもんよ。
(今日は武藤様ウォッチングじゃなくてなんか……副会長ウォッチングしてるな)
たまにはいいものである。多肉植物がいちばん好きだけど、桜に見惚れる日もあるのだし。
よくないのは生徒会ウォッチングを日常としてしまっている俺の異常性だけである。
「……ん?」
「?」
ふと副会長が顔を上げる。随分と油断しているのか、何やら不思議そうに。
それにつられて視線を上げると、塀の上に少年が立っていた。
「えっ?」
塀。金持ちで顔のいい学生を守るために作られた、三メートルほどの塀である。この広大な学校をぐるりと囲っていて、ええと、その上に? 少年??
もさもさ頭にびんぞこ眼鏡の少年はこちらに目を向ける事なく、ぴょいんと飛んで
「危ないっ!」
「せやぁ!!」
花壇にずしゃ、と着地した。
えっ飛んだ? てか着地? いや骨折れ、いやというか
「お、俺の花壇ーーッッ!!!!!!!!!」
「うおっ!?」
「!」
びんぞこ眼鏡と銀縁眼鏡に、ジョウロを持って立ち尽くす俺の姿がきらりと映った。映るな。
45
お気に入りに追加
162
あなたにおすすめの小説
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
フリーダム!!!~チャラ男の俺が王道学園の生徒会会計になっちゃった話~
いちき
BL
王道学園で起こるアンチ王道気味のBL作品。 女の子大好きなチャラ男会計受け。 生真面目生徒会長、腐男子幼馴染、クール一匹狼等と絡んでいきます。王道的生徒会役員は、王道転入生に夢中。他サイトからの転載です。
※5章からは偶数日の日付が変わる頃に更新します!
※前アカウントで投稿していた同名作品の焼き直しです。
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。
全17話、約6万文字。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる