王道学園のコミュ障ニセチャラ男くん、憧れの会長と同室になったようで

伊月乃鏡

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昨日の記憶はほとんどない。当たり前である。あの後粛々と芋を回収し冷蔵庫にひとまずぶち込み(クソデカ冷蔵庫だった、助かる)生活必需品を設置しただけだったのだから。
武藤様とはコンタクトを取らなかった。普通にリビングで宿題とかしてた。真面目な一面にキュンです。

最低限歯を磨いて即寝た記憶しかない。

「だからお前今日そんな芋ふかしてたんだ」
「うん。いる?」
「もう結構食った」

芋はふかした。水洗いした後水気を切らずラップにくるんでレンチンである。これで簡単にふかせるので、いくつか朝ふかして朝食、昼食を兼用している。芋は完全栄養食!

旧校舎の植物を世話してやって一息ついていると、水瀬が近況を聞いてきたのでこのエピソードを話したら引くほど笑われた。

「いや、朝から芋のふかしたやつを一生懸命食ってる友人見たら聞くだろ」
「2キロ消費しないといけないし……」
「加工してないとわりと足速いしな。チャチャっと料理に使っちまって冷蔵しとけ」
「そんな足速い?」
「お前の五十メートル走くらい」
「フゥン、植物にしては速いじゃん」
「お前は植物じゃないと許されない遅さしてるけどな」

コミュ障はえてして運動が出来ない。運動が出来ればひとまず周囲に話しかけてもらえるが、運動音痴は小学校で人権がないからコミュ障になりやすいのだ。大嘘である。俺の経験談でしかない。

旧校舎内に置いてある鉢植えにも水をやり、手入れをしてやる。ついでに校長の盆栽も様子を見てひとまず今日の作業は完了だ。

「でもまぁ、お前頭はいいよな」
「よくないが」
「成績はカスだけどな。いや、植物ひとつひとつの育て方覚えてんだろ? 普通にすごくね」

そうだろうか。

「昔はめっちゃ毎回調べてたし、何回も育ててるからな。育成難易度も高くはないのばっかだよ」

サギソウとか、原種ユリ系とかはまだ育てるのもおぼつかないしな。
でも褒められるのは嬉しい。もっと知識を披露して褒められたい。

「一応言っとくがもう褒めんぞ」
「はい」

水瀬は人の心を読めるのはわかった。こっちの方がすごいのでは? いや、俺の浅ましい考えなんてお見通しってことか? 浅ましいし浅いし……

旧校舎から帰る道すがら、グラウンドに行く水瀬に別れを告げる。今日は長く一緒にいられたなとほくほくするも、時間を確認すればいつも別れる時間だった。今日は武藤様観察をすっぽ抜かしてたから早く終わったんだろう。

「ん?」

本校舎の前を横切って寮の道に出るのが最短ルートだ。その通り歩いていれば、校門の前に人影が見えた。

クールな銀縁メガネに残酷さすら感じる怜悧な眼差し。
左腕に通した腕章には誇り高く“生徒会”と書かれて──いちおう俺も持ってるが(委員長なので)なんか申し訳なくて使ってない──いる。

(ふ、ふ、副会長!? 何見て……)

視線の先には咲き誇る花々(俺が育てた)

(ウワーーーーーッッ俺の花壇見てる!!!! あの副会長が!!!! 全人類見て、あの副会長が俺の花壇見てる!!!!!)

別に最推しじゃ無いけど、みんなに人気な人が自分の大切にしているものを評価してくれると嬉しいものだ。
もちろんただふと目に入っただけかもしれないが、それこそ花壇の美しさは、色んな人の目にふっと入って癒されるという事を至高としている。持論だけど。

近くの木に隠れ、様子を伺う。副会長は花の戦ぐ様子をじっと見ていた。計算し尽くして、四季いつでも美しい花を魅せる花壇は自慢のものだ。
もう少ししたら花々がもっと咲いて見頃なのだが、今だって独特の風情があるってもんよ。

(今日は武藤様ウォッチングじゃなくてなんか……副会長ウォッチングしてるな)

たまにはいいものである。多肉植物がいちばん好きだけど、桜に見惚れる日もあるのだし。
よくないのは生徒会ウォッチングを日常としてしまっている俺の異常性だけである。

「……ん?」
「?」

ふと副会長が顔を上げる。随分と油断しているのか、何やら不思議そうに。
それにつられて視線を上げると、塀の上に少年が立っていた。

「えっ?」

塀。金持ちで顔のいい学生を守るために作られた、三メートルほどの塀である。この広大な学校をぐるりと囲っていて、ええと、その上に? 少年??

もさもさ頭にびんぞこ眼鏡の少年はこちらに目を向ける事なく、ぴょいんと飛んで

「危ないっ!」
「せやぁ!!」

花壇にずしゃ、と着地した。
えっ飛んだ? てか着地? いや骨折れ、いやというか

「お、俺の花壇ーーッッ!!!!!!!!!」
「うおっ!?」
「!」

びんぞこ眼鏡と銀縁眼鏡に、ジョウロを持って立ち尽くす俺の姿がきらりと映った。映るな。
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