2 / 73
1
しおりを挟む
久々に寮に帰った俺は、掲示板の張り紙を見て絶句した。
「部屋割りの変更?」
ぺらっと薄い一枚の紙に書かれていた内容といえば、絶望なんだか希望なんだかわからない内容。日付を見れば貼られたのはだいぶ前で、確認してなかった俺の落ち度なんだけど!
え、誰かに聞きたいな……と周囲を見渡すも、寮母さん──とはいうが男だ──と目が合った瞬間心が折れた。
我ながら気持ち悪いくらい繊細なんだけど、なんか見られてる時に行動するのが無理み。誰も俺を気にしないで欲しい。
顔を逸らして部屋に一旦足を向ける。とりあえず荷物は撤収した方がいいだろう、あとは自分で見て判断
「田中くん、張り紙ちゃんと見た?」
アァッ話しかけられた!
「……見たよ~! え、ビックリしたんだけど? 言ってくれたらよかったじゃ~ん!」
「事前告知したよ、田中くんが全然帰ってこないだけで」
めっちゃ正論言われた!
「いやぁ~はは……委員会の仕事が楽しすぎて?」
「ふーん? まぁいいけど……変更とはいえ大々的じゃなくてね、二年生に今度転校生が来るんだ」
「こんな時期に~? 普通に入学式から来たら良くね?」
「それがなんか、理事長の意向らしくて」
ふーん、と相槌を打ちながら、ほんのり転校生という存在に胸をそわつかせる。まるで物語の主人公みたいじゃん? わくわくするね。
まぁ俺は後輩の顔を全然覚えてない──話したことない人しか居ないので──ので関係ない話なんだが。誰が転校生かもわかんないよ。
「だから田中くんと他数人の部屋を変えたんだけど」
「ワッッッ、じゃあなおさら直接言って」
唐突に関係ある話になってきちゃった。えっ、三年になって新たに人間関係作るの無理すぎるんだけど。もう三年相手に使うCP(コミュニケーションポイント)が残ってないよ。
「でも田中くん、全然私物なかったから……親御さんに協力してもらって家具とか移動しておいたよ、これ次の部屋の鍵ね」
「そこまでするなら声かけて~?? なんで直俺じゃなくて母さんなの?」
文句を言いながら鍵を受け取ってしまう。弱い人間……。
ここ最近母さんから私物要るのかLINEが多かったの、そういうことなんだ。シンプルにやめて欲しい。
とはいえ部屋に見られると恥ずかしいものを隠しているわけでもなく、何なら見られたくないものとかもないので言うほど困っているわけではない。
寮母さんと別れエレベーターに乗り、部屋番号を確認する。
「へぇ~最上階。眺め良さそ」
我が寮は高校だけでなく、初等部から付属大学までの人間を押し込められる二十階建てのマンションであることが特徴だ。
基本的に学年が上がるごとに階層も上がって行き、使える広さも上がる。
初等部の子らなんかは好奇心で身を乗り出したりするので高いところに住めないのだ。寮母さんが駆け付けやすい、目の届くところという意味もある。
「上の階ってことは大学生とか? 歳上かぁ~……」
音の出ないエレベーターの中、ため息を吐く。もう全方位人見知りである。今から相手水瀬とかになんないかな。あいつ実家通いだけど。
エレベーターが止まり、チン、と軽い音が鳴る。
憂鬱な気持ちで外に出て。
「えっ」
困惑する。
高級感のある内装、シャンデリアのような形をした照明に美しく曲線を描く柱。まさに城みたいなそこには行き止まりにはめ殺しの洒落た窓が取り付けられており、眺めも光の入り方も満点だ。
が。
「……部屋数少なくない?」
部屋数が少なすぎる。
困惑して調べれば、二十階には三部屋しかないらしい。三部屋! だだっ広い最上階で三部屋である。
気が狂ったか? ちなみに俺が元いた十三階は七部屋あった。
「ええと、2001……馬鹿みたいな数字だな、2001ってどこ」
ルームキーを握りしめた手が汗ばんでいる。こんな部屋で普通に暮らしてる金持ち、気が合わないどころの話ではない。金銭感覚が合わない相手とは仲良くなれないんだぞ! 俺は誰とも仲良くなれないけど。
コツコツと地面を踏み鳴らし、扉を探す。扉が少ないのですぐに見つかった。
「ええと、同居人は」
息を呑む。
儀礼として確認した表札には、俺の名前ともう一つ、とんでもない名前が刻まれていた。
「……武藤、瑛一……」
どうやら俺は、今世紀最大の幸運にして試練を掴んでしまったらしい。ヒャッホウ神様ありがとう! 嘘です死にまーーす。情緒ガッタガタである。
「部屋割りの変更?」
ぺらっと薄い一枚の紙に書かれていた内容といえば、絶望なんだか希望なんだかわからない内容。日付を見れば貼られたのはだいぶ前で、確認してなかった俺の落ち度なんだけど!
え、誰かに聞きたいな……と周囲を見渡すも、寮母さん──とはいうが男だ──と目が合った瞬間心が折れた。
我ながら気持ち悪いくらい繊細なんだけど、なんか見られてる時に行動するのが無理み。誰も俺を気にしないで欲しい。
顔を逸らして部屋に一旦足を向ける。とりあえず荷物は撤収した方がいいだろう、あとは自分で見て判断
「田中くん、張り紙ちゃんと見た?」
アァッ話しかけられた!
「……見たよ~! え、ビックリしたんだけど? 言ってくれたらよかったじゃ~ん!」
「事前告知したよ、田中くんが全然帰ってこないだけで」
めっちゃ正論言われた!
「いやぁ~はは……委員会の仕事が楽しすぎて?」
「ふーん? まぁいいけど……変更とはいえ大々的じゃなくてね、二年生に今度転校生が来るんだ」
「こんな時期に~? 普通に入学式から来たら良くね?」
「それがなんか、理事長の意向らしくて」
ふーん、と相槌を打ちながら、ほんのり転校生という存在に胸をそわつかせる。まるで物語の主人公みたいじゃん? わくわくするね。
まぁ俺は後輩の顔を全然覚えてない──話したことない人しか居ないので──ので関係ない話なんだが。誰が転校生かもわかんないよ。
「だから田中くんと他数人の部屋を変えたんだけど」
「ワッッッ、じゃあなおさら直接言って」
唐突に関係ある話になってきちゃった。えっ、三年になって新たに人間関係作るの無理すぎるんだけど。もう三年相手に使うCP(コミュニケーションポイント)が残ってないよ。
「でも田中くん、全然私物なかったから……親御さんに協力してもらって家具とか移動しておいたよ、これ次の部屋の鍵ね」
「そこまでするなら声かけて~?? なんで直俺じゃなくて母さんなの?」
文句を言いながら鍵を受け取ってしまう。弱い人間……。
ここ最近母さんから私物要るのかLINEが多かったの、そういうことなんだ。シンプルにやめて欲しい。
とはいえ部屋に見られると恥ずかしいものを隠しているわけでもなく、何なら見られたくないものとかもないので言うほど困っているわけではない。
寮母さんと別れエレベーターに乗り、部屋番号を確認する。
「へぇ~最上階。眺め良さそ」
我が寮は高校だけでなく、初等部から付属大学までの人間を押し込められる二十階建てのマンションであることが特徴だ。
基本的に学年が上がるごとに階層も上がって行き、使える広さも上がる。
初等部の子らなんかは好奇心で身を乗り出したりするので高いところに住めないのだ。寮母さんが駆け付けやすい、目の届くところという意味もある。
「上の階ってことは大学生とか? 歳上かぁ~……」
音の出ないエレベーターの中、ため息を吐く。もう全方位人見知りである。今から相手水瀬とかになんないかな。あいつ実家通いだけど。
エレベーターが止まり、チン、と軽い音が鳴る。
憂鬱な気持ちで外に出て。
「えっ」
困惑する。
高級感のある内装、シャンデリアのような形をした照明に美しく曲線を描く柱。まさに城みたいなそこには行き止まりにはめ殺しの洒落た窓が取り付けられており、眺めも光の入り方も満点だ。
が。
「……部屋数少なくない?」
部屋数が少なすぎる。
困惑して調べれば、二十階には三部屋しかないらしい。三部屋! だだっ広い最上階で三部屋である。
気が狂ったか? ちなみに俺が元いた十三階は七部屋あった。
「ええと、2001……馬鹿みたいな数字だな、2001ってどこ」
ルームキーを握りしめた手が汗ばんでいる。こんな部屋で普通に暮らしてる金持ち、気が合わないどころの話ではない。金銭感覚が合わない相手とは仲良くなれないんだぞ! 俺は誰とも仲良くなれないけど。
コツコツと地面を踏み鳴らし、扉を探す。扉が少ないのですぐに見つかった。
「ええと、同居人は」
息を呑む。
儀礼として確認した表札には、俺の名前ともう一つ、とんでもない名前が刻まれていた。
「……武藤、瑛一……」
どうやら俺は、今世紀最大の幸運にして試練を掴んでしまったらしい。ヒャッホウ神様ありがとう! 嘘です死にまーーす。情緒ガッタガタである。
35
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~
無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。
自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。
生徒会長親衛隊長を辞めたい!
佳奈
BL
私立黎明学園という全寮制男子校に通っている鮎川頼は幼なじみの生徒会長の親衛隊長をしている。
その役職により頼は全校生徒から嫌われていたがなんだかんだ平和に過ごしていた。
しかし季節外れの転校生の出現により大混乱発生
面倒事には関わりたくないけどいろんなことに巻き込まれてしまう嫌われ親衛隊長の総愛され物語!
嫌われ要素は少なめです。タイトル回収まで気持ち長いかもしれません。
一旦考えているところまで不定期更新です。ちょくちょく手直ししながら更新したいと思います。
*王道学園の設定を使用してるため設定や名称などが被りますが他作品などとは関係ありません。全てフィクションです。
素人の文のため暖かい目で見ていただけると幸いです。よろしくお願いします。
不良高校に転校したら溺愛されて思ってたのと違う
らる
BL
幸せな家庭ですくすくと育ち普通の高校に通い楽しく毎日を過ごしている七瀬透。
唯一普通じゃない所は人たらしなふわふわ天然男子である。
そんな透は本で見た不良に憧れ、勢いで日本一と言われる不良学園に転校。
いったいどうなる!?
[強くて怖い生徒会長]×[天然ふわふわボーイ]固定です。
※更新頻度遅め。一日一話を目標にしてます。
※誤字脱字は見つけ次第時間のある時修正します。それまではご了承ください。
チャラ男は愛されたい
梅茶
BL
幼い頃優等生としてもてはやされていた主人公。しかし、母が浮気をしたことで親は離婚となり、父について行き入った中学校は世紀末かと思うほどの不良校だった。浮かないためにチャラ男として過ごす日々にストレスが溜まった主人公は、高校はこの学校にいる奴らが絶対に入れないような所にしようと決意し、山奥にひっそりとたつ超一流学校への入学を決める…。
きまぐれ更新ですし頭のおかしいキャラ率高めです…寛容な心で見て頂けたら…
BL漫画の世界に転生しちゃったらお邪魔虫役でした
かゆ
BL
授業中ぼーっとしていた時に、急に今いる世界が前世で弟がハマっていたBL漫画の世界であることに気付いてしまった!
BLなんて嫌だぁぁ!
...まぁでも、必要以上に主人公達と関わらなければ大丈夫かな
「ボソッ...こいつは要らないのに....」
えぇ?! 主人公くん、なんでそんなに俺を嫌うの?!
-----------------
*R18っぽいR18要素は多分ないです!
忙しくて更新がなかなかできませんが、構想はあるので完結させたいと思っております。
チャラ男会計目指しました
岬ゆづ
BL
編入試験の時に出会った、あの人のタイプの人になれるように…………
――――――それを目指して1年3ヶ月
英華学園に高等部から編入した齋木 葵《サイキ アオイ 》は念願のチャラ男会計になれた
意中の相手に好きになってもらうためにチャラ男会計を目指した素は真面目で素直な主人公が王道学園でがんばる話です。
※この小説はBL小説です。
苦手な方は見ないようにお願いします。
※コメントでの誹謗中傷はお控えください。
初執筆初投稿のため、至らない点が多いと思いますが、よろしくお願いします。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる