「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第6章 王宮生活<帰還編>

105、剣先の行方<中>

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「いくらレンヤードがタナーを不問にすると言っても、衆目しゅうもくもあり、行為としても物騒ぶっそうなものだ。
 そして今後同じことが起こった時、王族をまもるという点でも、不問という前例を作ることは得策とくさくではない。

 だがレンヤードの言い分に、一理いちりあるのも確かだ。
 今回、タナーへの処罰しょばつはレンヤードが考え、レンヤードの処罰は私が決めようと思うが、どうだ?」

おおせのままに」

 僕はそう言って頭を下げ、タナー様も肯定こうていの意を表わすように、頭を下げ直した。

 僕への処罰内容がまだ分からないが、少なくともタナー様への処罰は、アルフ様から言い渡されるよりも、僕が考えた方が重くないと思う。

 アルフ様は僕らからの返答を了承りょうしょうすると、すぐ僕にうながされた。

「では、レンヤード、タナーの処罰をどうする?」

 アルフ様の目が、悪戯いたずらを思いついた子どものように輝き、周囲の騎士たちからは、若干じゃっかん気迫きはくに満ちた目で見られたため、僕の緊張感は最高潮に達したが、少し前に思いついたことを声にする。

「タナーへの処罰は、私ができないことをやってもらおうと思います」

「ほぉ……それはなんだ?」

 アルフ様の期待にはこたえられないが、僕としては気にかかっていても、なかなか実現できなかった事なので、ともすればすぐ閉じようとする口を懸命けんめいに開いた。

「私は……まだ心の整理がつかず……大聖堂に行くことができません。
 ですのでタナーには大聖堂の清掃と、中庭なかにわ中央にある……小さめの石碑せきひへ……可愛らしい花束を……手向たむけてほしい……です」

 なんとか言えた!

 僕は安堵あんどのあまりホッと息を吐いた。

 あれから時がっているにも関わらず、まだ胸にするどい痛みが走るので、僕は右手を胸に当てながら、すぐ下を向いてしまう。

「レン」

 しかしそんな僕の両肩を、後ろから力強い腕が包み込む……シルヴィス様だ。

 ゆっくりと後ろのシルヴィス様をあおぎ見る、少しうるんだ僕の目と、痛ましそうに僕を見るシルヴィス様の瞳がぶつかり合う。

 あの場にシルヴィス様は居なかったが、もちろん全容ぜんようは知っているのであろう。

 まだズキズキとする胸の痛みに僕は何も言えなくて、何度も浅く呼吸を繰り返していると、わずかな沈黙の後、アルフ様のおごそかな声が聞こえた。

「タナー、聞こえたな?
 レンヤードが言った処罰を受けよ」

「はっ」

 タナー様のいさましい返事に続けて、僕の両肩に手を置いたシルヴィス様が、追加で命令を出される。

「親衛隊は真剣をもちいていないが、殺意を持って木刀ぼくとうをレンヤードに向けた。
 大聖堂は広い……親衛隊もタナーを手助けするために、タナーが清掃する際に加わるように。
 そうすれば1日で清掃を終わらせることができるだろう。
 それとタナーが花束を選ぶ際も、それが可愛いものか、助言じょげんするように」

「「「「「はっ」」」」」

 最後は半分笑いながら言ったシルヴィス様の声に、お手本のような親衛隊の返事が重なる。

「さて、残りはレンヤードの処罰だ。
 それにしても……あの剣の構えは見事であった。
 それゆえ、これより執務しつむ室に戻るまでの、私の護衛ごえいつとめよ」

 アルフ様の予想外の処罰内容に僕は、いや、その場にいる全員が耳を疑い、ポカンとしていると、すかさずアルフ様から「返事は?」とかされる。

「はっ、はい!」

 僕の返事を聞く前に、もうこの場を去っていくアルフ様の後ろ姿をあわてて追うと、シルヴィス様がすかさず「私も行く」と言って、僕の横に並んだ。

 その声を聞いたアルフ様は、立ち止まって振り返る。

「ならぬ、シルヴィスは職務しょくむに戻れ。
 書類が溜まっているぞ!
 いくぞ、レンヤード」

「はっ」

 呆然ぼうぜんとしてその場に立ち尽くしたシルヴィス様に僕は一礼をすると、足早に鍛錬たんれん場を出ていかれるアルフ様を小走りに追いかけた。

 アルフ様、歩くの早すぎる!

 シルヴィス様に抱えられていた弊害へいがいで、僕はしばらく歩いていないために筋力きんりょくが落ち、全然追いつけない。

 仕方なしに僕は、アルフ様、本職の護衛の方、侍従じじゅうの方で構成された、王様御一行ごいっこうの最後尾で1人遅れながらも、懸命けんめいに足を動かした。

 鍛錬場を後にし、しばらく日光がそそぐ庭園沿いを歩いていくと、今が開花時期だろうか、様々な種類の花々が咲きほこあでやかな花壇に囲まれた、小さな広場に差しかかる。

 見事な花々の競演きょうえんに、僕は思わず足を止めて見入っていると、前方よりアルフ様の良く通る声が聞こえてきた。

のどかわいた、茶の用意を」

 すぐ近くに元々設置されていたテーブルと椅子に、侍従の方々が心得たようにすみやかにお茶の準備がなされていくのを、僕は感心しながらながめていると、再びアルフ様の声がした。

「レンヤード、こっちに来て、私をしっかり護衛せよ!」

 護衛の心構えが全く足りなかったことに僕は深く反省しながら、本職の護衛の方が待機している場所へ急いで駆け寄る。

「違う、私の隣に座って護衛するのだ!」

 えっ?隣に座るの?

 疑問をいだきながらも、僕は言われるがまま、アルフ様の隣に座った。
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