「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

文字の大きさ
上 下
104 / 110
第6章 王宮生活<帰還編>

103、動かす言葉<後>

しおりを挟む
「オレが……カッコ悪い?
 そして……見苦しい?」

 シルヴィス様は呆然ぼうぜんつぶやかれた。

 それもそうだ……僕はあまりシルヴィス様のことをぞんじ上げなかったが、弟のライから「王族に生まれ、王族として相応ふさわしくあるよう常に努力している方で、あらゆる世代の方からしたわれている」と常々つねづね聞かされていた。

 だからシルヴィス様にとって、今まで聞いたこともない評価だろう。

「えぇ、今のシルヴィス様には、全然、かれません」

 いっそのこと、ハッキリと僕は申し上げた。

 シルヴィス様はとうとう絶句され、僕らを取り囲んでいる騎士からも「不敬ふけいな!」という声が複数がる。

 だけどこれから伝える言葉が、どうかシルヴィス様にとって1つのきっかけになれば……と思い、僕は言葉をつむぎ続けた。

「シルヴィス様、僕らはつがいになり、当初の懸念けねん事項だった生命の危機を、無事乗り越えることができました。
 残ったのは、『運命のつがい』という名のもとに引き合わせられた、シルヴィス様と僕だけ。
 
 しかも僕は、意識がない年月と先の戦争によりお会いできない日々が長すぎて、シルヴィス様の人となりを、ほぼぞんじ上げません」

「これから知っていけば良い!」

 僕の告白に、我に返ったシルヴィス様から、すぐ返事がきた。

「でも知った上で、お互いかれ合わなかったら?」

 僕はシルヴィス様へ問い続ける。

「まずはレンがオレとつがってくれ、命を救ってくれたことに深く感謝する。

 オレは本能が強いせいか、出会った時から、そしてそなたが目を覚まさなかった3年間、さらに会えなかった2年間でさえ、レンのことが愛おしくてたまらなかった。
 この気持ちが、心の底から込み上げてくるものだと自覚している。
 だからこそレンに対する愛しさは、思い込みのたぐいではなく、本物だと確信しているのだ。

 そもそも誰かを愛おしいと思う気持ちに、理由は必要なのか?」

 シルヴィス様から問い返されて、僕はひと時、口を閉じて考えをまとめ、答えを返した。

「僕はシルヴィス様より本能が弱いせいか、あまり理由なしでこのましいとは思いません。
 僕がかれるのは……」

 ふと脳裏に浮かんだ姿をなつかしく思い、つい言葉が止まってしまう……結果的にそれが良い方向にみちびいたわけなのだが。

「レンはどういう人物にかれるのだ?」

 シルヴィス様の静かな問いかけに、僕はなつかしい日々にひたっていた意識と視線が引き戻される。

公私こうし混同こんどうせず、ひたむきに仕事する方……ですかね。

 僕は小さいながらも領地をおさめてきて、仕事をすることが好きなせいか……職務しょくむに真面目に取り組まれ、遂行すいこうされる方に好感をいだきます。
 もちろん、全てにおいて誠実さを持ち合わせている人が前提ぜんていでして、仕事だけできて、他には不誠実な人にはかれませんけどね。

 弟のライから、軍服姿で職務しょくむ邁進まいしんされるシルヴィス様は、特別に輝いてみえると、うかがっておりました。
 どうかその姿をぜひ僕に見せ、僕の運命はこの方で間違いないと、確信させていただけませんか?」

 そう……いまれ動く僕の心をうばって欲しい

 自分勝手で言葉にできない気持ちを目にたくし、つい僕は、まるでシルヴィス様の心までを射抜いぬくかのように熱心に見つめてしまった。

 シルヴィス様は目を見開いたまま、身動きひとつされず、返事もされない。

 そして、やっと僕の意図いとが通じたのか……僕の後ろで剣を下げる動きがあり、それに合わせて親衛隊全員が木刀ぼくとうを下ろした。

 誰もが物音1つ立てず、シルヴィス様の返答を待っている。

 シルヴィス様は、グルリと騎士たちの顔をひとりひとりゆっくりと見渡した後、僕に向かって力強く宣言された。

「分かった。
 これから全力で職務しょくむに取り組み、やっと意識が戻ったレンの心を、オレだけに向けさせてみせる」

 そう言って、何かが吹っ切れたように笑ったシルヴィス様は、恐ろしいほど男あふれ……僕の心臓が思わずドキッとねる。

 その効果は僕だけではなく部下にも及び、僕らの会話をうかがっていた騎士たちからも大歓声だいかんせいが上がった。

「シルヴィス様、一生ついていきます!」

「シルヴィス様は、どんな時もオレたちのほこりです!」

「お前たちに言ってない!
 レンに言ったんだ!」

 すかさずシルヴィス様はそう言い返されていたが、すごく嬉しそうだった。

 そんな光景をやっと安堵あんどのため息をついて見つめていた僕だったが、突然少し離れた場所から、パンパンパンパンという拍手はくしゅの音と共に、声がかけられる。

「さすがだな、レンヤード」

 その方の登場と共に人垣ひとがきが割れ、ゆっくりとこちらへ歩いてくる姿を認めた騎士たちは、順次じゅんじひざまずく。

「アルフ様!」

 僕は思わず声を上げ、シルヴィス様と共にあわてて礼を取った。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

貴方だけは愛しません

玲凛
BL
王太子を愛し過ぎたが為に、罪を犯した侯爵家の次男アリステアは処刑された……最愛の人に憎まれ蔑まれて……そうしてアリステアは死んだ筈だったが、気がつくと何故か六歳の姿に戻っていた。そんな不可思議な現象を味わったアリステアだったが、これはやり直すチャンスだと思い決意する……もう二度とあの人を愛したりしないと。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編連載中】

晦リリ
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話

雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。 一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

処理中です...