「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第6章 王宮生活<帰還編>

102、動かす言葉<中>

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 さすがに後ろのタナー様から向けられた真剣しんけんに、ゾワリと恐怖を感じるが、今、僕が集中すべきは、目の前にいるシルヴィス様との対話たいわだ。

 僕は奥歯をギリっとみ締めてその恐れに耐え、シルヴィス様にもう一度確認を入れた。

「シルヴィス様、僕の勝ちでいいですね?」

 僕がシルヴィス様に対して木刀ぼくとうかまえをかないので、親衛隊もまた、僕に対するかまえをくことはない。

 その光景をシルヴィス様は忌々いまいましそうににらみながら、僕の言葉にうなずいて同意された。

「そうだ、レンの勝ちだ」

 シルヴィス様からその言葉をもぎ取った僕は、ようやく木刀ぼくとうを下ろしたが……親衛隊はまだかまえたままだ。

「お前たち……」

 シルヴィス様はうなるようにそう言うと、僕のすぐ後ろで真剣しんけんかまえているタナー様を非難するように、目線をさだめた。

 そうか……親衛隊長のタナー様が剣を下ろさないから、他の隊員たちも下さないんだ
 もう僕から殺気は出ていないはずなのに、それだけじゃダメなのかな?

 あくまでもその疑問は胸にしまい、代わりに僕は苦笑を浮かべ、シルヴィス様に話しかけた。

「いいです、このままで……それにしてもシルヴィス様、随分ずいぶんしたわれていますね」

 この問いかけにシルヴィス様はけわしい表情をくずさず、何ら返事もされなかったが、僕は気にせず続ける。

戦勝せんしょうとはいえ僕が勝ちましたので、これからは僕をかかえて歩くのはやめてくださいね」

「……承知しょうちした」

 シルヴィス様の顔が悲しそうにゆがみ、返事も一瞬遅れたが、ご本人からの言質げんちを取ったので、まぁ、良しとしよう

 それに……本題はこれからだ

 もしかしたら親衛隊員かタナー様に、本当にられるかもしれない

 息を吸ってお腹にため、痛みに対する覚悟を決めはしたものの、進んで傷を負いたくない僕は、先にシルヴィス様に進言しんげんすることにした。

「この場で、もう1つ、シルヴィス様にお伝えしたいことがございます。

 余計よけいなことかもしれませんが、僕の発言内容を聞いて、もし僕に木刀ぼくとうないし、剣を振りかざす者がおりましたら、恐れながら、その方は隊長ないし副隊長からはずされた方が良いと僕は思います」

 軍組織への踏み込んだ僕の発言に、聞いていた騎士たちはざわめいた。

 当然だ……僕は完全なる部外者だからだ

 でもこの方面からの提言ていげんは、多分僕しか言えないだろう

 あ~でも、嫌だな……地位も美貌びぼう知力ちりょくも力も全てお持ちのシルヴィス様にこの言葉を正面しょうめんからぶつけるなんて

 そして誰よりもシルヴィス様を敬愛けいあいするタナー様に、瞬時にられるかもしれない……今も振り返って確認しなくても、すごくにらまれているのが気配けはいで伝わってくるし

 本当は僕だって言いたくないが、もうこの作戦しか思い付かないから……やっぱり言うしかない!

 内面でのたくさんの葛藤かっとうて、僕はシルヴィス様を見つめた……シルヴィス様も僕だけを見つめている。

 両手をこぶしにして強く握り、僕は意を決して言い放った。

「今のシルヴィス様は、カッコ悪いです!」

 僕の予想通り、見事にその場は静まり返った。

 シルヴィス様の身体からだもビシッと固まり……やがて一言だけれたようだ。

「はっ?」

 周囲でいくつかカチリと剣をはずそうとする音が聞こえたが、言ってしまった以上引き返せず、僕はもう腹をくくっておもいを伝える。

「はっきり申し上げますが、今のシルヴィス様は、すぅごぉーくカッコ悪いです!

 確かに、先の戦いはそれはそれは壮絶そうぜつで、深い心の傷をわれたとレイラ様から聞いております。
 でもそれは、シルヴィス様だけではなく、ここにおられる全ての騎士も体験してきました。
 だけど、どうでしょう?

 誰ひとりとして、奥様や恋人、パートナーと一緒に出勤し、職務中ずぅーっと一緒に過ごし、しかも必ず抱っこしている方、この中にいますか?
 シルヴィス様以外いませんよね?

 逆に言えば、シルヴィス様だけです……こんな公私こうし混同こんどうしているのは!
 すごく見苦しいです!」

 僕の言葉にシルヴィス様は青ざめ、親衛隊員の何名かは木刀ぼくとうを下ろしてくれた。

 このまま、イケる?

 僕は、少しだけ手応てごたえを感じた。
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