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第6章 王宮生活<帰還編>

98、突きつけた要求<前>

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「話はタナーから聞いた。
 オレに不満があるようなので、次の将軍職にはタナーを指名し、オレはこのまま辞職じしょくしようと思っている」

 シルヴィス様の言葉が終わらない内に、親衛しんえい隊から次々と声が上がる。

「我々の将軍はシルヴィス様だけです!
 シルヴィス様の辞職じしょくは求めておりません!
 それに、シルヴィス様不在ふざいですと、我が国の戦力は大幅おおはばに失われます!」

「そうです!
 シルヴィス様がいらっしゃらなかったら、先の戦争では勝てませんでした!
 ただ我々は、つがい様を職場に持ち込まないでいただきたいだけです!」

 持ち込む……確かに僕は荷物だ……しかもかなり厄介やっかい

 シルヴィス様の腕の中で、僕はため息をいた。

「そうか……だが、オレもゆずれないのだ。
 この離れていた2年間、耐えがたい痛みを感じていた。
 レンがオレの腕の中にいて、その重みを感じる時だけ、自分が生きている実感がくのだ」

 両者りょうしゃゆずらない反対の主張に、一瞬、その場がシーンと静まりかえる。

 その静寂せいじゃくを破ったのは、日頃から調整ちょうせい役である、副官タナー様のひと声だった。

「こうして顔を合わせても、やはり話は平行線でしたので、当初の親衛しんえい隊の申し出通り、決闘けっとうを行います」

「分かった。
 どういうルールにする?」

 異存いぞんはないようで、すぐシルヴィス様が聞き返される。

「なんせ、シルヴィス様はバケモノ……失礼、最強なので、シルヴィス様たい親衛しんえい隊でいいのではないでしょうか?
 ルールは簡単で、身体からだが地面に着いた時点で失格となります」

 シルヴィス様も親衛しんえい隊もうなずいて、了承りょうしょうの意を伝えた。

 それを確認したタナー様は、続いてシルヴィス様へ申し出る。

「レンヤード様は、お席を作りましたので、そちらへご案内します」

 タナー様のその言葉に、ようやく自分の足で歩くことができると、僕はうれしさのあまり笑顔になる……だが、

「いや、いい、このまま戦う」

「「「「「はっ?ええっ!!」」」」」

 シルヴィス様の言葉に、その場にいた全員が驚きの声をあげる。

 ウソでしょう!

 僕の顔は引きった。

「シルヴィス様、さすがに無理なのでは?」

 親衛しんえい隊長の1人が、この場にいる皆んなの心情しんじょうを口にする。

「いや、無理ではないし、レンをひと時でも離したくない。
 その代わりオレが勝ったらお前たちは、オレがレンを抱きかかえたまま、職務しょくむくことを受け入れろ」

 シルヴィス様は、っすら笑みを浮かべながら、親衛しんえい隊にそう宣告せんこくする。

 親衛しんえい隊はしばらくザワついていたが、第1隊長が代表して返事をした。

「はっ、かしこまりました」

 その返事を聞いて、シルヴィス様は僕にこう言われる。

「悪い、レン。
 決して傷つけないし、落とすこともしないから、オレの首に手を回して、しがみついててくれないか?」

 正直、恐怖を感じないわけではないが、シルヴィス様にあそこまで言われると、断ることもできない。

 僕は、シルヴィス様の言われた通りにした。

「分かりました、これでいいですか?」

 ガッシリとしたシルヴィス様の首に思いっきり抱きついた僕を、シルヴィス様はそれはそれは、すっごく嬉しそうに笑って、一度、力一杯僕を抱きしめられてから、めるようにこうつぶやいた。

「あぁ、それでいい」
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