「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第6章 王宮生活<帰還編>

90、貞淑(ていしゅく)の証明<前>

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 まるで、嵐のようだった。

 シルヴィス様の舌が僕の唇に侵入しんにゅうを開始すると、縦横じゅうおう無尽むじんいつくばる。

「うっ……うゎ……」

 僕はすでおぼれそうになりながらも、両手を伸ばし、必死にシルヴィス様の肩にしがみついた。

 シルヴィス様は、肩にしがみついた僕の右手をご自身の左手でがすと、たがちがいに指をからめて握り直し、そっとシーツにい付ける。

「シ……シル……ヴィ……スさ……ま」

「レン、もっと大きく口を開くんだ」

 僕の舌を執拗しつように追いかけ、め回し、くわえ、やっと放されたと思ったら、今度は上顎うわあごめられた後、上下の歯茎はぐきにゆっくりとシルヴィス様の舌がう。

 静かな室内には、ニュチュ、チュパッという水音みずおとだけがひびきわたった。

 僕はそろそろ、意識が遠退とおのきかけてくる。

 シルヴィス様の肩をつかんでいた片手にも力が入らなくなり、ストンと寝台の上にすべり落ちた。

 甘い……そして体内にみ渡る充足じゅうそく感。

 液にそんな効能こうのうがあるなんて……やっぱりつがいだから?

 そんな答えがみちびき出されると、僕の身体からだしんに火がともり始め……僕も夢中になって、シルヴィス様の舌を追いかける。

 この僕の変化にシルヴィス様はニヤリと笑うと、ジュルルッと僕の液を吸い上げた。

 唇が熱を持つほど、すすり合い、こう内をめ回し、め回され……僕の呼吸が続かなくなったところで、たがいの唇にピーンと銀色の糸がついたまま、一度口を離される。

「夢にまでみた……この味だ」

 シルヴィス様は一言だけそうつぶやくと、液の糸がついたままの唇を、ゆっくりと僕の首筋に移動させた。

 ビクンッ

 つがっていても、首があらゆる場面においても急所きゅうしょであることには変わらず……しかも今はヒートの最中さいちゅう吐息といきを吹きかけられただけでも、反応してしまう。

 首をすくめた僕の反応にシルヴィス様はクスリと笑うと、大きく口を開け、舌を殊更ことさらき出すと、ネロリと僕の首筋をめ上げた。

「うっ……うぅん」

 僕は思わず目をつぶってしまったが、湿しめった軟体なんたい生物は、時々チクリと皮膚を吸い上げながら、僕の首筋を下へ下へとりていく。

 気持ちいい……

 その感触かんしょくにウットリとひたっていると、鎖骨さこつぎたあたりで、ふとシルヴィス様が顔を上げた。

「この部分、少しあとが残っている……もしや誰かと?」

 思ってもいなかったことを冷たい声で聞かれ、僕はあわてて否定する。

「ちっ……違います!
 こっ……この傷は、先ほど、アルフ様の前で……ヒートに飲み込まれないように……するために……自分でつめを立てまして……」

 分かってもらおうと、僕は必死で説明したが、逆にシルヴィス様のまとう空気は、さらに冷え込んだ。

「レン……つがった時、オレは教えなかったか?
 この場ベッドで、他の名を言うのはマナー違反いはんだ、と」

「あっ……あぁ……」

 僕は青ざめ、唇をふるわせる。

 シルヴィス様は、そんな僕を射抜いぬくように見つめたまま、ゆっくりと上体じょうたいをおこすと、僕の上にまたがったまま、みずからの黒衣こくいをゆっくりとぎ捨てた。

 ゆらりとあらわになった、相変わらず引き締まったシルヴィス様の上体じょうたいを見て、僕は息をんだ……まだ血がにじむ、複数のえてない傷が目に飛び込んできたからだ。

 どう声をかけていいのか分からず……ただただ、シルヴィス様を見上げていると、まだ僕の身体からだりょう側面そくめんまとわりついていた衣装を、シルヴィス様は左右に広げながら持つ。

 僕の衣装を握った手にシルヴィス様がクッと力を入れると、衣装は呆気あっけなくバラバラとさらに細かくやぶれた。

 その衝撃しょうげき的な光景に、僕は首をすくめ、身体を丸める。

 シルヴィス様は僕が身体を丸めたことを利用して、僕の背に残っていた衣装もろとも、ザザッと寝台の下へはらい落とした。

 文字通り全裸ぜんらとなった僕だが、ヒート中のため体内に熱がこもり、寒さは感じない。

 ただ、わずかばかりの理性が働き、思わず両腕で身体を抱きしめた。

 そんな僕の態度を見たシルヴィス様は、片方のまゆを上げ、僕にこう問いかける。

「隠すってことは……レン、オレに後ろめたいことがあるのか?」

「ちっ、違います」

 僕はあわてて、首を横に振って否定をするが、シルヴィス様のまとっている空気があまりにも鋭敏えいびんすぎて恐怖を覚え、なかなか身体からだに巻きつけた両腕をはずすことができない。

「抱かれたのか?
 兄上に?それともセリムか?」

「だっ……誰ともそんなことしていません!」

 とんでもない誤解ごかいに、僕は目に涙がまってきた。

「だったら、その両腕を退かして、オレに全てを見せるんだ」

 そう言ってシルヴィス様は、僕を静かに見下ろす。

 火花が散りそうな緊張感の中、僕はシルヴィス様に言われた通り、ゆっくりと両腕を身体からだ側面そくめんに戻した。

 シルヴィス様は音も立てず、僕の肩の上に右手をつくと、左手で僕のあごを軽くつかんで、目線を合わせてくる。

 つか、僕らは見つめ合う……僕は潔白けっぱくを証明するため、シルヴィス様は僕の言葉に嘘がないか検分けんぶんするために。

 やがて、シルヴィス様は片ほおゆがめると、少しだけ視線を下に落とし、目を見開いた。

「悪いが、レン、確かめてさせてくれ」

 そして、僕の左胸に顔を寄せた。
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