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第6章 王宮生活<帰還編>

89、いかせなかった助言<後>

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 おだやかな笑みを浮かべながら、シルヴィス様は、もう一度僕の衣装をながめる。

「こうしてじっくり見ても、本当に素晴らしいな」

 あまりにもシルヴィス様がたたえるので、僕の脳裏のうりよみがえった提言ていげんはロイの杞憂きゆうだと判断し、シルヴィス様の感想に同意どういした。

「えぇ、本当に素晴らしいと思います」

「だが……」

 シルヴィス様が、何か言いかけたので、僕は静かに待つ。

 その変化は一瞬だった。

 浮かべていた笑みをシルヴィス様はスッと消すと、おだやかな雰囲気ふんいき一転いってんけわしさをまとう。

 いでいたシルヴィス様の瞳に激情げきじょうともされ、僕の衣装の首元を軽くつかんでいた手に、ググッとにぶ圧力あつりょくをかけられた。

 ビリビリィ、ビリビリィ~

 シルヴィス様の手が、上から下へまるででるかのように動くと、それまで絶賛ぜっさんしていた衣装に大きな亀裂きれつが入り、真っぷたつにれる。

 えっ?

 僕は驚愕きょうがくのあまり、動けない。

 そんな僕の様子は予想通りだったのだろう……シルヴィス様は素早すばやく寝台に乗り上がり、横たわる僕の上に馬乗りになった。

 そして中央で二つにけた衣装を、大きくゆっくりと左右にはらい僕の裸体らたいさらすと、シルヴィス様は僕の心臓の上に手のひらを軽くえ、こう言った。

つがいに対するアルファの習性しゅうせいを、レンは知っているか?」

 シルヴィス様の問いかけに、もちろん僕は答えられない……ただ、わずかに目を見開くだけだ。

 僕の心臓の上に置いた手を、シルヴィス様はゆっくりとすべらすように、今度は上に向かわせる。

 シルヴィス様の大きな手が鎖骨さこつのぼり、その感触かんしょくに僕はビクリとして右側を向いたため、首筋くびすじあらわになった。

 僕の首筋くびすじ殊更ことさらゆっくりと指先を立ててなぞりながら、やがてほおまで辿たどり着くと……シルヴィス様はもう片方の手も使って両手で僕のほおを包み、正面をむかせる。

 ここで上半身をのっそりと一段と低くしたシルヴィス様は、また僕の目をのぞき込んだ。

「アルファはつがいに、自分が選んだもので着飾きかざらせたい欲求があるのだ」

 先ほどの僕への問いかけをご自分で答えられると、指先一つ動かせないままでいる僕の鼻に、シルヴィス様自身の鼻先をり付けられる。

 たがいの唇が、れ合いそうでれ合わない。

 僕の目の前に広がるのは、見目みめあざやかな青のみ。

 間近まじかのぞき込むと、その水晶体すいしょうたいけぶっているようにも見えた。

 この青だ!と思うのと同時に、
 のがれられない!!とも僕は思う。

 随分ずいぶん長い時間、ただじっと僕たちは見つめ合った。

 思わず僕がゴクリとのどを鳴らしたのが合図となり……シルヴィス様が僕に言いふくめるように、ゆっくりとげられる。

「どんなに素晴らしい衣装であっても、俺以外のアルファからおくられた物を、レンが身につけることは……決して許さぬ」

 そうシルヴィス様は力強く布告ふこくすると、僕の唇にらいついてきた。
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