90 / 97
第6章 王宮生活<帰還編>
89、いかせなかった助言<後>
しおりを挟む
穏やかな笑みを浮かべながら、シルヴィス様は、もう一度僕の衣装を眺める。
「こうしてじっくり見ても、本当に素晴らしいな」
あまりにもシルヴィス様が褒め称えるので、僕の脳裏に甦った提言はロイの杞憂だと判断し、シルヴィス様の感想に同意した。
「えぇ、本当に素晴らしいと思います」
「だが……」
シルヴィス様が、何か言いかけたので、僕は静かに待つ。
その変化は一瞬だった。
浮かべていた笑みをシルヴィス様はスッと消すと、穏やかな雰囲気は一転、険しさを纏う。
凪いでいたシルヴィス様の瞳に激情が灯され、僕の衣装の首元を軽く掴んでいた手に、ググッと鈍い圧力をかけられた。
ビリビリィ、ビリビリィ~
シルヴィス様の手が、上から下へまるで撫でるかのように動くと、それまで絶賛していた衣装に大きな亀裂が入り、真っ二つに破れる。
えっ?
僕は驚愕のあまり、動けない。
そんな僕の様子は予想通りだったのだろう……シルヴィス様は素早く寝台に乗り上がり、横たわる僕の上に馬乗りになった。
そして中央で二つに裂けた衣装を、大きくゆっくりと左右に払い僕の裸体を晒すと、シルヴィス様は僕の心臓の上に手のひらを軽く添え、こう言った。
「番に対するアルファの習性を、レンは知っているか?」
シルヴィス様の問いかけに、もちろん僕は答えられない……ただ、わずかに目を見開くだけだ。
僕の心臓の上に置いた手を、シルヴィス様はゆっくりと滑らすように、今度は上に向かわせる。
シルヴィス様の大きな手が鎖骨を昇り、その感触に僕はビクリとして右側を向いたため、首筋が顕になった。
僕の首筋を殊更ゆっくりと指先を立ててなぞりながら、やがて頬まで辿り着くと……シルヴィス様はもう片方の手も使って両手で僕の頬を包み、正面をむかせる。
ここで上半身をのっそりと一段と低くしたシルヴィス様は、また僕の目を覗き込んだ。
「アルファは番に、自分が選んだもので着飾らせたい欲求があるのだ」
先ほどの僕への問いかけをご自分で答えられると、指先一つ動かせないままでいる僕の鼻に、シルヴィス様自身の鼻先を擦り付けられる。
互いの唇が、触れ合いそうで触れ合わない。
僕の目の前に広がるのは、見目鮮やかな青のみ。
間近で覗き込むと、その水晶体は煙っているようにも見えた。
この青だ!と思うのと同時に、
逃れられない!!とも僕は思う。
随分長い時間、ただじっと僕たちは見つめ合った。
思わず僕がゴクリと喉を鳴らしたのが合図となり……シルヴィス様が僕に言い含めるように、ゆっくりと告げられる。
「どんなに素晴らしい衣装であっても、俺以外のアルファから贈られた物を、レンが身につけることは……決して許さぬ」
そうシルヴィス様は力強く布告すると、僕の唇に喰らいついてきた。
「こうしてじっくり見ても、本当に素晴らしいな」
あまりにもシルヴィス様が褒め称えるので、僕の脳裏に甦った提言はロイの杞憂だと判断し、シルヴィス様の感想に同意した。
「えぇ、本当に素晴らしいと思います」
「だが……」
シルヴィス様が、何か言いかけたので、僕は静かに待つ。
その変化は一瞬だった。
浮かべていた笑みをシルヴィス様はスッと消すと、穏やかな雰囲気は一転、険しさを纏う。
凪いでいたシルヴィス様の瞳に激情が灯され、僕の衣装の首元を軽く掴んでいた手に、ググッと鈍い圧力をかけられた。
ビリビリィ、ビリビリィ~
シルヴィス様の手が、上から下へまるで撫でるかのように動くと、それまで絶賛していた衣装に大きな亀裂が入り、真っ二つに破れる。
えっ?
僕は驚愕のあまり、動けない。
そんな僕の様子は予想通りだったのだろう……シルヴィス様は素早く寝台に乗り上がり、横たわる僕の上に馬乗りになった。
そして中央で二つに裂けた衣装を、大きくゆっくりと左右に払い僕の裸体を晒すと、シルヴィス様は僕の心臓の上に手のひらを軽く添え、こう言った。
「番に対するアルファの習性を、レンは知っているか?」
シルヴィス様の問いかけに、もちろん僕は答えられない……ただ、わずかに目を見開くだけだ。
僕の心臓の上に置いた手を、シルヴィス様はゆっくりと滑らすように、今度は上に向かわせる。
シルヴィス様の大きな手が鎖骨を昇り、その感触に僕はビクリとして右側を向いたため、首筋が顕になった。
僕の首筋を殊更ゆっくりと指先を立ててなぞりながら、やがて頬まで辿り着くと……シルヴィス様はもう片方の手も使って両手で僕の頬を包み、正面をむかせる。
ここで上半身をのっそりと一段と低くしたシルヴィス様は、また僕の目を覗き込んだ。
「アルファは番に、自分が選んだもので着飾らせたい欲求があるのだ」
先ほどの僕への問いかけをご自分で答えられると、指先一つ動かせないままでいる僕の鼻に、シルヴィス様自身の鼻先を擦り付けられる。
互いの唇が、触れ合いそうで触れ合わない。
僕の目の前に広がるのは、見目鮮やかな青のみ。
間近で覗き込むと、その水晶体は煙っているようにも見えた。
この青だ!と思うのと同時に、
逃れられない!!とも僕は思う。
随分長い時間、ただじっと僕たちは見つめ合った。
思わず僕がゴクリと喉を鳴らしたのが合図となり……シルヴィス様が僕に言い含めるように、ゆっくりと告げられる。
「どんなに素晴らしい衣装であっても、俺以外のアルファから贈られた物を、レンが身につけることは……決して許さぬ」
そうシルヴィス様は力強く布告すると、僕の唇に喰らいついてきた。
261
お気に入りに追加
1,090
あなたにおすすめの小説
【完結】別れ……ますよね?
325号室の住人
BL
☆全3話、完結済
僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。
ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ふしだらオメガ王子の嫁入り
金剛@キット
BL
初恋の騎士の気を引くために、ふしだらなフリをして、嫁ぎ先が無くなったペルデルセ王子Ωは、10番目の側妃として、隣国へ嫁ぐコトが決まった。孤独が染みる冷たい後宮で、王子は何を思い生きるのか?
お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。
公爵家の五男坊はあきらめない
三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。
生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。
冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。
負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。
「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」
都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。
知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。
生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。
あきらめたら待つのは死のみ。
侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる