「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第5章 王宮生活<大祭編>

81、見慣れぬ伝言

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 いつもはうなされながら目が覚めるのだが、今日は珍しくパチリと目が開く。

 視界がゆが症状しょうじょうも今朝はないようで、久しぶりに気分が良くなった。

 でも……また……朝が来てしまった

「お目覚めですか?レンヤード様」

 僕がモゾモゾと身体からだを動かしたことで目が覚めたことが知られ、優しく話しかけられる。

「はい、今日は気分が良いです」

 僕はそう返事をし、今日こそはと、ゆっくりと上半身を起こそうとしたが、直後、頭がズキンと痛んだ。

「つぅ……」

 思わず頭に手を当て、起き上がることをあきらめ、枕に頭を戻す。

 そして毎日恒例こいれいになった質問を今度は僕が、視界にうつった少々白髪じりの女性にたずねた。

「ねぇ、マーサ、今日はあの大祭たいさいからどれくらいつ?」

「2ヶ月と10日でございます」

 毎日の問答もんどうれたのか、すぐにマーサから答えが返される。

「もう、そんなにってしまったのか……」

 答えを聞いた僕のこの返答までが、毎日の恒例こうれい行事になっていた。

「さぁ、レンヤード様、お顔をきましょうか?
 さっぱりしますよ」

 マーサは僕の返答など気にせず、テキパキと顔をいてくれる。

「今日は気分が良いんだ、自分でやったのに……」

 子どものようなあつかいに、僕は顔をしかめながら、ひかえめに主張してみた。

 すると、マーサから笑われながらも、ビシッと言われてしまう。

「頭を動かして痛い時は、無理してはいけません。
 レイラ様からも決して無理はさせるな!と厳命げんめいされておりますよ」

「そうなんだ……いつもありがとう」

 そう、この年配ねんぱいの女性は、レイラ様の古参こさん侍女じじょで、マーサと紹介された。

 若い侍女じじょを目にすると、ついサラを思い出して身体からだふるえが止まらなく僕のために、僕の身体からだが回復するまで、身の回りの世話をしてくれる、とレイラ様から説明を受けていた。

 僕たち双子の母親は早くに亡くなってしまったので、母親という存在がどういうものか僕にはイマイチ想像がつかないが、もし生きてくれていたら、こういうものかな?と思うほど、マーサは僕に良くしてくれる。

 あの衝撃しょうげき的な件で僕は身体からだにも心にも大きなダメージをったらしく、目が覚めた時は、すでにあの大祭たいさいから1ヶ月近くった後だった。

 あんなに大祭たいさい儀式ぎしきについて学んだのに、僕は結局、何もかせることが出来なかった……なさけない。

 聞いた話によると、結局僕とサラ、取り乱したローサ以外は怪我けが人もいなかったため、大祭たいさい儀式ぎしきはあの後、僕ら3人をのぞいて、1時間近く遅れて開始され、無事終了したらしい。

 僕は意識がないままだったので、もちろん儀式ぎしきに参加できず、そしてサラは、あの時セリム様が教えてくれた通り、落雷らくらいにより絶命ぜつめいしたことがその場で確認された。

 しかし本人は死亡しても、供物くもつを意図的に傷つけた罪は問われ、実家は国教会から破門はもんされ、断絶だんぜつしたらしい。

 ローサは、彼女自体何かをした訳ではなかったが、あの場でサラの死を目撃した者たちが神のたたりだとさわいだため、そのことを信じ、恐慌きょうこう状態におちいった同僚の侍女じじょたちが次々と証言し、供物くもつを傷つける計画をサラと共謀きょうぼうして立てたことが明らかになった。

 ただ、彼女の実家は高位こうい貴族だったため、教会からの破門はもんかろうじてまぬがれたらしいが、代わりに実家の爵位しゃくいはかなり落とされ、シルヴィス様のすぐ下の弟君であり、夫であるナラヴィス様との間に子どももいなかったこともあり、ナラヴィス様からは離縁りえんが言い渡され、実家に戻ったらしい。

 何よりローサ自身が、サラの絶命ぜつめいしたあの光景を見た時から、精神的に不安定になり、「次は私が罰される」とはん狂乱きょうらん状態が続いたため、実家で静養せいようせざるえなかった……というのが真実のようである。

 ローサの夫であったナラヴィス様は、海軍をひきいており、現在任務にんむで海上にいるため、王宮にすぐに顔を出すことがかなわなかったことと、僕も体調不良で寝込ねこんでいたため、長文の謝罪しゃざい文がシルヴィス様の執務しつむてと僕の元に届いた。

 それら一連いちれんの結末をレイラ様から聞いて僕をおそったのは、深いむなしさと極度きょくど身体しんたい衰弱すいじゃくであった。

 頭を強く打ったせいか、頭痛と眩暈めまいに常に悩まされ、また閃光せんこうを直接見た影響からか、視界がゆがんだりすることも多く、一日のほとんどを目を閉じて横になっていた。

 だが眠ろうとすると、サラの身体からだが倒れる光景と音が幾度いくどとなく脳裏のうりで再生され、不眠にも悩まされる。

 食事も取れず、ほぼ寝たきりの僕のもとへ、セリム様はじめ、神力しんりょくが高い方たちが再び根気こんきよく治療をしてくださり、ようやく起き上がれるようになったのがつい最近で……体調にはまだ波があった。

 こういう時、以前なら祈ることによって心の安定を図っていたが、祭壇さいだんを見るだけで、やはりあの件を思い出し……ひどい時には気を失ってしまうので、それもままならない。

 なので僕は実質じっしつ、ほぼシルヴィス宮に引きこもる日々を送っていた。

「なんとか、立て直さないとな……」

 誰もいないので、ひとり言も言いたい放題だ。

 大祭たいさいも終わったし、何もやることもない、もちろんシルヴィス様の情報も機密きみつ保持ほじのせいで、何1つ知らされない……僕ってここにいる意味あるのかな?と自問じもん自答じとうの日々が続く。

 元々もともと大祭たいさいが終わったら、故郷こきょうにちょっとだけ帰ろうと思っていたので……今ならそれが可能ではないのか?という考えが自分の中で段々だんだんと大きくなっていった。

 長い長い自分との問答もんどうの末、一度故郷こきょうに帰ろうと心に決めると、不思議と少しだけ落ち着きを取り戻し……まずは身体からだを元に戻すことに目標をさだめる。

「ねぇ、マーサ、今日は、あの大祭たいさいからどれくらいっただろう?」

 いつもの朝……だが、昨夜は久しぶりに悪夢にうなされることもなく、ぐっすり眠れ、最近の中では、1番気分良く目が覚めた。

「ちょうど3ヶ月目でございますよ。
 今朝はすごく顔色が良いですね、レンヤード様」

「うん、今日は良い目覚めだった。
 顔を洗ってくるね!」

 ようやく、短い距離なら歩けるようになった僕は、以前のように自分でなるべく身支度みじたくととのえるようになった。

 さっぱりし、気分が良いまま部屋に戻ると、机には朝食が置かれている。

 まだ時折ときおりふらつくため、マーサの介助かいじょを受けて席に座ると、笑みを浮かべたマーサから声をかけられた。

「今日は何か良いことでもあるんですか?」

「いや、何もないけど、目覚めがいいと気持ち良いよね」

 にこやかに、僕も答える。

「そうですわね。
 じゃあ、何か良いことが起こるかもしれませんよ」

 何かをふくむようにマーサが言うが、何ら予定もないと分かっている僕は、力無く笑いながら言い返す。

「そうだと嬉しいなぁ」

 そう言いながら、僕は朝食に手を伸ばした。

 僕が食べ始めたのをマーサは笑みを浮かべて見届みとどけると、僕が気を使わないで済むように、一礼して部屋を出て行く。

 今日は一段いちだんと、食事も美味おいしい

 食べ終わり、お茶を飲もうとカップに手を伸ばそうとした時、ソーサーの下に何かカードのようなものが置いてあるのに、ふと僕は気がついた。

 なんだろう?

 カサリとその小さなカードを開いてみると、こう書かれていた。

『あの衣装を見てみたい
 一緒にお茶を飲もう
 おかの上の教会にて待つ』
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