上 下
74 / 97
第5章 王宮生活<大祭編>

73、涙の謝罪<前>

しおりを挟む
 皆の視線が諸侯しょこうらの声に向けられると、ローサは満足した笑みを浮かべ、再び、自分の口元をおうぎで隠しながら、こう言った。

「犯人探しも大事ですが、今は一旦いったん、レンヤード様の髪色を持つ男性があやしいということで、取りえず置いておきましょうか?

 儀式ぎしき開始時間がせまってますし、こちらで何か起こったことを知った諸侯しょこうらを、なだめることが先決せんけつですわ。

 どのみち、諸侯しょこうらに手渡す予定だった供物くもつはすぐには用意できないのですから。

 そうですよね?レンヤード様!」

「そっ……そうだ……すまない」

 うつむいたまま答えた僕に対して、ローサはクスクス笑った。

 なぜだ?

 この場で不自然な笑い声に釣られて、僕はやっと顔を上げてみたが、その頃にはローサの笑い声は止み、代わりに深く大きなため息を、僕に向かってき出されただけだった。

「仕方ありませんね。
 こうなったら、前任者ぜんにんしゃとしての私の責任も少しばかりありますので……私が諸侯しょこうらの不満をおさめますわ」

「でも、どうやって?」

 思わず声に出た僕の疑問に、ローサはさもあきれたといった表情と、とがった声色こわいろで答える。

「まぁ、レンヤード様、こういった場合、する事はただ1つ、謝罪しゃざいですわ。

 しゃ・ざ・い!

 全く、前代ぜんだい未聞みもんの事件ですわ!
 諸侯しょこうらに渡す穀物こくもつなえがないなんて!

 今すぐに、代わりとなる供物くもつはなく、これと言った手立てだてもない。

 では、いさぎよく事情を話して、謝るしかないのではありません?」

 そうローサは一気にまくし立てると、侍女じじょたちに、にじられたなえを再び供物台くもつだいに乗せ、持つように言いつけた。

 そして、まだこの状況についていけない僕の手を乱暴につかみ、諸侯しょこうらの前に引っ張って行こうとする。

「お待ちください、ローサ様。
 レンヤード様に……」

 あわててロイがローサを止めようとするが、ローサはロイをギロリとにらむと、低い声でこう言いはなった。

「副神官長、では、私とレンヤード様に代わって、あなたが謝罪しゃざいする?

 もっともあなたが謝罪しゃざいするというなら、この件は、教会側のせきとなるのだけど、それで本当にいいのかしら?」

「そっ、それは……」

 ロイがそれ以上言葉をかさねる前に、僕がすぐさまさえぎる。

「ロイ、それはダメだ!
 供物くもつの管理は王族が担当だ!
 教会を巻き込む気はない。

 分かった、謝罪しゃざいは私がする。
 だから、ローサ、手を離してくれ。
 私は、逃げも隠れもしない」

 僕がそう言うと、ローサは僕の手を憎々にくにくしげに、すぐさまパッとはらった。

「では、早く行きますわよ!
 急がないと、儀式ぎしきが始まってしまうわ」

 ローサはそう言うと、列席れっせきしている諸侯しょこうたちの最前列さいぜんれつに向かって、さっさと歩き出す。

 僕もあわててローサの後に続こうとすると、ロイから声をかけられた。

「分かりました、レンヤード様。
 では、せめておそばにいさせてください」

 本当は、足がふるえるほど怖い
 だけど、王族であるがゆえに、行かなければならない

 そんな今の僕にとって、ロイの申し出は、大変心強いものだった。

「ありがとう、ロイ」

 僕はロイにお礼を言うと、ローサに追いつくよう、け出す。

 すぐにローサに追いつくと、僕は息をととのえながら、心の準備もした。

 祭壇さいだんそでから出る一歩前で、ローサは一度足を止め、すぐ後ろにいる僕をチラッと振り返り、確認してきた。

「覚悟はできまして?
 レンヤード様?」

「あぁ」

 僕が迷いなく返事したのを見届けると、ローサは、ほぼ全席埋まった諸侯しょこうらの前へ、ひるむ事なく歩いていく。

 あっ、出てきたぞ!
 ローサ様、ご説明を!

 後ろにいるのは、シルヴィス妃か?

 何があったのだ?
 誰か教えてくれ!

 段々と声が大きくなる一方の諸侯しょこうらに対して、祭壇さいだん前中央でローサは立ち止まり、一喝いっかつした。

「静かに!
 これより説明いたします」

 ローサの一喝いっかつに、諸侯しょこうらはいっせいに口を閉じ、前に並んだ僕たちを、じっと見つめる。

 すごいあつ

 まだ、ただ立っているだけの僕だったが、心臓の鼓動こどうがうるさいくらいに鳴り響いていた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

公爵家の五男坊はあきらめない

三矢由巳
BL
ローテンエルデ王国のレームブルック公爵の妾腹の五男グスタフは公爵領で領民と交流し、気ままに日々を過ごしていた。 生母と生き別れ、父に放任されて育った彼は誰にも期待なんかしない、将来のことはあきらめていると乳兄弟のエルンストに語っていた。 冬至の祭の夜に暴漢に襲われ二人の運命は急変する。 負傷し意識のないエルンストの枕元でグスタフは叫ぶ。 「俺はおまえなしでは生きていけないんだ」 都では次の王位をめぐる政争が繰り広げられていた。 知らぬ間に巻き込まれていたことを知るグスタフ。 生き延びるため、グスタフはエルンストとともに都へ向かう。 あきらめたら待つのは死のみ。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

俺は北国の王子の失脚を狙う悪の側近に転生したらしいが、寒いのは苦手なのでトンズラします

椿谷あずる
BL
ここはとある北の国。綺麗な金髪碧眼のイケメン王子様の側近に転生した俺は、どうやら彼を失脚させようと陰謀を張り巡らせていたらしい……。いやいや一切興味がないし!寒いところ嫌いだし!よし、やめよう! こうして俺は逃亡することに決めた。

処理中です...