「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第5章 王宮生活<大祭編>

72、責任の所在<後>

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 ローサの、なぜだが勝ちほこったような顔をこれ以上見たくなくて、僕は視線を床に落とす。

 これが王族間のけ引きなのか!

 仕掛しかけたのはローサだと思うが……明確めいかく証拠しょうこはない。

 理不尽りふじんさに対する怒りで、身体からだふるえてきたので、僕は両手ともこぶしを作ってにぎり、それを必死におさえようとした。

 それよりも……台無だいなしにされたなえ代替だいがえ案が浮かばない!

 どうしよう?
 どうすればいい!?

 床に座り込んだまま、その言葉だけがグルグルと、僕の頭の中で回っている。

 そんな中、この状況に疑問を投げかける声がした。

「それにしてもひどいですね。
 誰が一体こんなことを?

 この供物くもつなえは、この3ヶ月間、我々神官が来年1年の豊穣ほうじょうを願って、朝晩、祈祷きとうしてきました。
 穀物こくもつなえ自体は今から準備出来たとしても、祈祷きとうで込められた神力しんりょくまでは戻らない。

 我々神官の、尽力じんりょくをもにじったこの行為、もはや許しがたい……犯人にはきっと天罰てんばつが下るでしょう」

 ロイはきびしい表情でそう言うと、僕の目の前に手を差し出し、立ち上がるのを手伝ってくれた。

「まぁ、怖い、怖いわぁ~!

 こんなおそれ多いこと、本当に一体誰がしたのかしら?
 誰か、不審ふしんな人物など見てない?」

 ローサは、口では怖いと言いながら、目を楽しそうに輝かせ、口元をおうぎで隠したまま、全員をゆっくりと見渡した。

 すると、ローサの後方から小さく声が上がる。

 その声にすぐローサは反応し、その侍女じじょを自分のかたわらに呼び寄せ、名を呼んで質問した。

「サラ、あなた何か見たの?」

 サラだ!

 僕は大きく目を見開いた。

「あの……その……」

 サラしてはめずらしく、下を向いて言いよどんでいる。

「重要なことだから、はっきり言いなさい。
 例え間違っていたとしても、罰は与えないわ」

 ローサのその言葉に力をもらったのか、サラはクイっと顔を上げ、なぜか僕を見つめながら、口を開いた。

「私、今朝、見たんです……。
 ローサ様から言われたお使いの帰り、大聖堂の中に入っていく人影を」

「それは本当なの?!
 何か……男性とか女性とか、背が高いとか低いとか、髪の色など、特徴とくちょうは覚えてない?」

「はい……えっと……スラっとしていて男性のようでした。

 背の高さは、男性にしては、あまり高くはないです。

 髪の色は、薄い茶色といいますか……濃い茶色に白をまぜたような……あまり見たこともない、珍しい白っぽい茶色でした。

 ちょうど、そこにいらっしゃいます、レンヤード様のような……」

 分かってはいたが……サラ!
 お前もか!!

 僕はいきなり喉元のどもとめ付けられるような息苦いきぐるしさを感じて、あわててのどに手をあてた。

「あっ、その髪色の方なら、僕も見ました」

 今度は若い神官が、手を上げた。

「あのっ……そのっ……言いにくいのですが、私もレンヤード様の髪色とよく似てたので、レンヤード様かと思って、そのまま……」

「「「あっ、私たちも見ました!」」」

 すると、ローサ付きのサラ以外の侍女じじょたちと、さらに若い神官ら数名も手を上げる。

 その場にいる皆の視線に僕はさらされ、ひるみそうになったが、ここで潔白けっぱくの主張だけはしておかないと、僕が犯人にされてしまう!

 そう思った僕は、苦しい呼吸の中、なんとか声をしぼり出して、こう叫んだ。

「私ではありません!

 最後の1か月間だけですが、私も供物くもつ祈祷きとうに参加しました。
 あの祈祷きとうにどれだけの神力しんりょくが使われるのか、私は身を持って知っております。
 自分たちの身をけずって、供物くもつ神力しんりょくそそいでいるのです。

 私をふくめ、神官の皆が心込めて祈祷きとうした、そんな大切な供物くもつを、なんでみずからら、わざわざこわさないといけないのでしょうか?
 こわしたところで、私には、何一つ良いことはございません。
 むしろこまるだけです!

 それに今朝は一歩も部屋の外には、出ておりません!」

 僕の主張を聞いたローサは、苦笑にがわらいを浮かべると、やんわりと僕に言いはなった。

「まぁ、何もレンヤード様が犯人とは言っておりませんわ。
 落ち着いてくださいませね。

 では、レンヤード様。
 今朝、一歩も外には出られなかったと、ご自身の他に、証言してくださる方はいらっしゃいますか……レンヤード様付きの侍女じじょとか?」

 最後の一文を言う時だけ、またしてもローサの目がキラッと輝いた。

 知っているのだ……僕の答えを。

「いや……私に付く侍女じじょはいないので……証言するものはいない」

 僕は憔然しょうぜんとして、下を向いてそう答えた。

「まぁ、シルヴィス妃ともあろう御方が、侍女じじょの1人もいないなんて……普通はありえませんわ!

 でも、今、重要なのは、それではありません。
 皆様、聞こえまして?」

 そうローサは皆に向けていうと、祭壇さいだんそでの向こう側、列席れっせきしている諸侯しょこうたちをおうぎで指した。

 何が起こっているんだ!
 もうすぐ儀式ぎしきなのに、大丈夫なのか?
 そこで隠れてないで、説明しろ!!

 諸侯しょこうたちの要求の声は、どんどん大きくなっていった。
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