「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第5章 王宮生活<大祭編>

69、望まぬ対峙(たいじ)

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 再び大聖堂がようやく目の前に迫ると、僕たちに気づいた諸侯しょこうの1人が声を上げた。

「あっ、戻ってきたぞ!」

 その声に皆が一斉いっせいに振り返り僕たちを見たので、僕は驚いてしまい、一旦いったん、足が止まってしまう。

 そんな僕の横にロイは静かに立ち止まると、僕の肩をポンとたたいてこう言った。

「なるほど……この天候にこの大人数では、中に入ってお待ちいただいたほうがいいかもしれませんね。
 おまかせください、レンヤード様」

 ロイはそう言うと、僕を追いし、正面扉に立っている衛兵えいへいの元へ真っぐ向かう。

 僕も遅れまいと、小走こばしりになりながら、ロイの後をついていった。

 人だかりは自然と割れ、ロイと僕は人だかりをき分けることもなく、すぐに衛兵えいへいの元へ辿たどり着く。

 ロイを見た衛兵えいへいは、僕への対応とは違って、すぐにロイへ頭を下げた。

 それを見届けたロイは、衛兵えいへいに向かって、まずはこう言う。

「話はこちらにおられる、レンヤード様から聞いた。

 この御方おかたは、まぎれもなく、シルヴィス妃でいらっしゃると同時に、国教会にとっても大切な御方おかただ。
 これ以後、このような無礼ぶれいは許さぬ……しかと心得こころえよ」

「「はっ」」

 衛兵えいへいはロイに向かって、より深く頭を下げた。

「神官長様は、現在、儀式ぎしきへの準備中であるため、こちらに来ることはかなわなかった。

 代わりに副神官長である私が、神官長様より全権ぜんけん委任いにんされた。

 よって、今からくだめいは、神官長様からのめいだと思え」

「「はっ」」

 ロイは一度ここで言葉を切ると、ゆっくりと諸侯しょこうらを見渡し、よく通る声で衛兵えいへいめいを下した。

「今すぐ、その扉を開けて、こちらにいる諸侯しょこうらを中に入れるのだ」

「「はっ」」

 衛兵えいへいはそう返事をすると、もう一度ロイに向かって一礼いちれいし、すぐに正面扉を開ける。

 諸侯しょこうらは、前から順序じゅんじょよく、扉近くに立っているロイとその後ろにいる僕へと向かって、深く一礼いちれいしてから、大聖堂の中へ入っていった。

 その様子を見届みとどけながら、ロイは衛兵えいへいの1人に向かって、これから天候てんこうが荒れるので、諸侯しょこうたちの付添つきそい者たちは、仮設置をしてあるテントではなく、大聖堂わきにある待機場たいきじょうへ案内するよう、指示を出している。

 あんなに開けて!とお願いした扉が、いとも簡単に開いてしまうなんて……顔を知られているって、こんな力もあるんだ

 まるで魔法のような手際てぎわの良さに、僕は諸侯しょこうへの返礼へんれいも忘れ、ロイの後ろでポカンとして立ちくしていた。

 やがて、最後の1人が入り、それでもまだボケっとしていた僕に、ロイが手を差し出してきて、こう言った。

「さぁ、レンヤード様も中へ。
 もう、すぐにでも、雨が降りそうですから」

「ああぁ、ありがとう」

 なんだか、すごい劇を見せられたような衝撃しょうげきから僕は立ち直れず、ロイに言われるがまま、自分の手をロイへとあずける。

 そして、驚愕きょうがくのあまり、力が抜けてしまった身体をロイに引っぱってもらいながら、大聖堂の中に入った。

 すると、まるで僕が中に入ったのを確認したかのように、空で一瞬ドーンと雷鳴らいめいひびき、すぐにすさまじい大雨がザアザア降ってきた。

「間に合って良かったですね」

 僕の手を優しく離し、おだやかにそういうロイの横顔を、僕は見続けた。

「どうされました、レンヤード様?」

 そんな僕を、ロイは不思議そうに見返す。

 確かロイって、衛兵えいへいたちに命令した時、副神官長と名乗ったよね?!

 ということは、神官長様の名は……

「ねぇ、ロイ、神官長様の名は……」

 僕がロイへそう聞いた時、正面扉が、にわかさわがしくなった。

「こんなにるなんて!
 出てくる時間を間違えたわ。
 せっかくの大祭たいさいのための衣装が、ずぶれに……」

「ローサ様、そのままで。
 私たちがおきしますから」

「おおっ、ローサ妃!
 例えドレスが少しばかりれてしまっても、ローサ妃の美貌びぼうがあれば、何ら問題にもなりません」

 そう、正直なところ、儀式ぎしき開始時刻までは、出来れば会いたくなかった……ローサ妃とその侍女じじょたち、そして王都周辺の諸侯しょこうらが、一気いっきに正面扉から大聖堂の中へと雪崩なだれ込んできた。
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