「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

文字の大きさ
上 下
64 / 110
第5章 王宮生活<大祭編>

63、唯一の贈り物

しおりを挟む
 もう一度全身を鏡でうつし、不備ふびがないこと確認した後、僕はよしっ、と1つうなずくと、式典しきてん前に一度、本日の会場となる大聖堂を見てこようと思い、支度したく部屋を出ようと扉へ向かった。

 だが、何か忘れているような気がして、もう一度部屋を振り返る。

 その時ちょうど鏡にうつされている自身の姿が、ふたたび目に入った。

 やはり装飾そうしょく品、今回は正装せいそうなので宝飾ほうしょく品が1つもないのは、味気あじけないかなぁ

 サラが身支度みじたくを手伝ってくれた時は、何かしら身につけたりしたけれど、生花せいかや髪に編み込む時のリボンなど、ちょっとした小物だったりして、こういった正装せいそう時に着用ちゃくようできる、宝飾ほうしょく品などのたぐいではなかった。

 かといって、宝飾ほうしょく品なんて、今まで必要なかったので、僕は購入こうにゅうしたこともないし

 少し考え込んでいた僕だったが、僕に所有権しょゆうけんがあり、着用ちゃくようできそうな物が、ただ1つだけあったのを思い出し、自室じしつに置いてある机に、急いでけ戻った。

 引き出しの奥をガサゴソあさり、目当ての小箱こばこを手元に引き寄せて、僕は箱を開ける。

 そこには、かざぼりや宝石など何もないが、表面がツルッと金色に輝いている指輪があった。

 これは、僕が3年もの眠りから目覚めた時、いつの間にか、指につけていたものである。

 まだその頃の僕は寝たきりで、自力じりきで起き上がることもできず、意識もぼんやりとしていたため、最初は双子の弟ライのものかなぁ~と思っていた。

 だがよくよく考えると、ライは着飾きかざるのが大好きで、たくさんの宝飾ほうしょく品を持ってはいたが、繊細せんさいかざぼりきらめく宝石が入っているものなどを好み、こんなシンプルなものを身につけている所を見たことがない。

 ライの好みのものではないし、自分で買った覚えもない

 はて一体いったい、誰のものだろうと首をかしげて、しげしげとその指輪をながめていた時に、偶々たまたま僕の見舞いにおとずれたレイラ様が、にこやかに笑みを浮かべながら、教えてくれたのだ……結婚したさい、シルヴィス様からおくられた物だと。

 この指輪はシルヴィス様のものとついで作られていて、表面にかざぼり一切いっさいないのは、剣をにぎることも多いシルヴィス様にとって、支障ししょうがないようにとの配慮はいりょからだった。

 指輪の裏側にはシルヴィス様からのメッセージと名前が書かれていて、その文言もんごんはレイラ様にも内緒ないしょにされているらしい。

 だから自分がいない時にでも確認してみて、とまるで少女のように、はにかみながら、レイラ様が教えてくれたっけ。

 僕はその指輪を箱の台座だいざからはずすと、頭上ずじょうかかげて、そのメッセージを口にした。

「我が運命を生涯しょうがい愛す」

 僕は眠っていて、全く交流こうりゅうもなかった時に、シルヴィス様はこの文言もんごんえて選ばれた。

 だけど運命っていうだけで、よく知りもしない者と、領地への援助問題という事情があったとはいえ、簡単に結婚してしまい、本当に生涯しょうがい、その者だけを愛し続けられるだろうか?

 胸に巣食すくう不安に、ズシリと心臓をつかまれた気がして、僕は思わず片手で胸を押さえた。

 もちろん、そんな僕の疑問に、誰からも答えはない。

 ただ、窓から入ってくる光を受けて、何も表面にかざりはないからこそ、指輪はいっそうキラキラと輝いた。

 今の僕にとって、その光はまぶしすぎるが、宝飾ほうしょく品はこれだけだ。

 少しの間、無言むごんで指輪の輝きをながめた後、目覚めた時にはめていた位置である、左手薬指に指輪をはめ、今度こそ僕は自室じしつを後にした。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

欠陥αは運命を追う

豆ちよこ
BL
「宗次さんから番の匂いがします」 従兄弟の番からそう言われたアルファの宝条宗次は、全く心当たりの無いその言葉に微かな期待を抱く。忘れ去られた記憶の中に、自分の求める運命の人がいるかもしれないーー。 けれどその匂いは日に日に薄れていく。早く探し出さないと二度と会えなくなってしまう。匂いが消える時…それは、番の命が尽きる時。 ※自己解釈・自己設定有り ※R指定はほぼ無し ※アルファ(攻め)視点

どうも。チートαの運命の番、やらせてもらってます。

Q.➽
BL
アラフォーおっさんΩの一人語りで話が進みます。 典型的、屑には天誅話。 突発的な手慰みショートショート。

【本編完結】αに不倫されて離婚を突き付けられているけど別れたくない男Ωの話

雷尾
BL
本人が別れたくないって言うんなら仕方ないですよね。 一旦本編完結、気力があればその後か番外編を少しだけ書こうかと思ってます。

運命の番はいないと診断されたのに、なんですかこの状況は!?

わさび
BL
運命の番はいないはずだった。 なのに、なんでこんなことに...!?

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

5回も婚約破棄されたんで、もう関わりたくありません

くるむ
BL
進化により男も子を産め、同性婚が当たり前となった世界で、 ノエル・モンゴメリー侯爵令息はルーク・クラーク公爵令息と婚約するが、本命の伯爵令嬢を諦められないからと破棄をされてしまう。その後辛い日々を送り若くして死んでしまうが、なぜかいつも婚約破棄をされる朝に巻き戻ってしまう。しかも5回も。 だが6回目に巻き戻った時、婚約破棄当時ではなく、ルークと婚約する前まで巻き戻っていた。 今度こそ、自分が不幸になる切っ掛けとなるルークに近づかないようにと決意するノエルだが……。

【完結】テルの異世界転換紀?!転がり落ちたら世界が変わっていた。

カヨワイさつき
BL
小学生の頃両親が蒸発、その後親戚中をたらいまわしにされ住むところも失った田辺輝(たなべ てる)は毎日切り詰めた生活をしていた。複数のバイトしていたある日、コスプレ?した男と出会った。 異世界ファンタジー、そしてちょっぴりすれ違いの恋愛。 ドワーフ族に助けられ家族として過ごす"テル"。本当の両親は……。 そして、コスプレと思っていた男性は……。

僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。

処理中です...