60 / 111
第4章 王宮生活<大祭準備編>
59、忘れていた服装問題<前>
しおりを挟む
あれ?
なんだか花たちが元気がない?
自宮での昼食を終え、再び教会本部に戻る途中、以前ロイから水やりを依頼された庭園が、今日に限って目に飛び込んでくる。
このところ供物への祈祷参加で忙しく、こちらの庭園での水やりをスッカリ忘れていて、僕は軽い罪悪感に襲われた。
それに、あの隠れ家みたいな教会にも、行けてないしなぁ
この後、急ぎの用事がなかった僕は、久しぶりに、依頼された庭園の水やりをすることした。
もちろん、僕が水やりを忘れても、ここは王宮の庭園なのできちんと管理されているが、単なる僕だけの錯覚かもしれないが、一時期、ほぼ毎日のように通ったせいか、僕が水やりをすると、いつもほんのちょっとだけ、緑が輝く気がする。
だからこの庭園の水やりは、僕にとって全然苦にならなかった。
庭園での水やりを終え、やっぱり少し増したように見える緑の輝きに自己満足した僕は、いつもの流れで小高い丘にある、隠れ家のような教会にも足を向ける。
これまたいつものように、ここの祭壇にも祈りを捧げたが、以前と変わらず、祈祷後は心身共にスッキリした。
不思議だな
大聖堂の祭壇にむかって供物の祈祷をすると、ごっそり神力を持っていかれ、1日の終わりにはかなりフラフラになってしまうのだが、こちらの教会の祭壇で祈りを捧げると、逆に僕の方が力が貰えた気持ちになるのは、なぜだろう?
首を傾げながら、出入口へ向かおうとすると、例の魅惑のソファセットが僕の目に映った。
今日もキラキラと日光が降り注ぎ、とても優雅な空間だ。
まるで引き寄せられるように、誰もいないソファセットに僕は座り、ひと息ついた。
大祭といえば……うん?
何か大事な手配を忘れていないか?
ここのところの忙しさもあり、しばらくボーっとしていたが、脳がリラックスしたせいか、突如、ある重要な手配を忘れていたことを思い出した。
「うわぁーっ、どうしよう、服!」
あまりの衝撃に、僕はその場で立ち上がり、大声で叫んでしまう。
すると、突然、入口扉がガチャリと開き、こちらへ向かってくる、カツカツカツという軽やかな足音が聞こえ……耳障りの良い低音で、予期しなかった返答を耳にした。
「服がどうかしたのか?」
その金髪のせいもあるかもしれないが、今日も降り注ぐ日光さえも味方につけ、場をガラリと陽に変える、魅力的な男性が姿を見せる。
「アルフ様!」
まさかの返答と登場した人物に驚いた僕は、腰の力が抜けてしまい……今度はストンと元通りに座ってしまった。
「久しぶりだな」
そんな僕を流れるように一瞥し、アルフ様は僕の真向かいに静かに座られる。
同時にアルフ様の部下の方だろうか、素早くかつ丁寧に僕の分までお茶を入れて下さり、速やかに退室された。
なので、この煌びやかな空間には、アルフ様と僕だけになる。
「お久しぶりです」
僕はみっともない所を見られた恥ずかしさから、頬に熱が上がったまま、礼をするために立ちあがろうとしたが、アルフ様から「礼は良いから、茶を」と勧められた。
僕は、アルフ様のお言葉に甘えて、座したまま軽く一礼し、有り難く、お茶をいただく。
「おいしい」
図らずとも出た僕の言葉に、クスリと笑った気配がしたので、そちらに目を向けると、お茶を飲むアルフ様の顔色が、思いの外悪いことに気がついた。
「なんだ?」
あまりにも熱心に見つめていたせいか、アルフ様から僕は質問される。
「いえ、あの……顔色がすぐれないようにお見受けしまして……仕事がお忙しい……とか?」
僕の言葉に微かに肩を震わせたアルフ様は、持っていたカップを静かにソーサーに戻すと、苦笑を浮かべた。
「周りには、上手く隠していたつもりだったが、そなたにはバレてしまったか。
そうだ……少々、仕事が立て込んでいてな」
そう言いながらアルフ様は、少し俯いて、眉間を親指と人差し指で軽く摘んで、揉み続ける。
「そうでしたか。
良ければ、以前僕がやった、おまじない、またやりましょうか?」
アルフ様はハッとしたかのように、軽く息を飲んだが、やがて首を緩く左右に振って、僕に告げた。
「いや、あれは……今は自分で自覚するほど疲労を感じるので、そなたにまた多大な負担をかけてしまう。
前のように、倒られてしまうと、またセリムにひどく怒られる……もうすぐ帰ってくるとはいえ、今、セリムは不在で、そなたを治せる者がいないからな」
だから気持ちだけいただくよ、ありがとう、と呟くように言ったアルフ様が、僕にはなぜか大きな暗闇に飲み込まれそうな気がして、胸がギュッと締め付けられた。
なんだか花たちが元気がない?
自宮での昼食を終え、再び教会本部に戻る途中、以前ロイから水やりを依頼された庭園が、今日に限って目に飛び込んでくる。
このところ供物への祈祷参加で忙しく、こちらの庭園での水やりをスッカリ忘れていて、僕は軽い罪悪感に襲われた。
それに、あの隠れ家みたいな教会にも、行けてないしなぁ
この後、急ぎの用事がなかった僕は、久しぶりに、依頼された庭園の水やりをすることした。
もちろん、僕が水やりを忘れても、ここは王宮の庭園なのできちんと管理されているが、単なる僕だけの錯覚かもしれないが、一時期、ほぼ毎日のように通ったせいか、僕が水やりをすると、いつもほんのちょっとだけ、緑が輝く気がする。
だからこの庭園の水やりは、僕にとって全然苦にならなかった。
庭園での水やりを終え、やっぱり少し増したように見える緑の輝きに自己満足した僕は、いつもの流れで小高い丘にある、隠れ家のような教会にも足を向ける。
これまたいつものように、ここの祭壇にも祈りを捧げたが、以前と変わらず、祈祷後は心身共にスッキリした。
不思議だな
大聖堂の祭壇にむかって供物の祈祷をすると、ごっそり神力を持っていかれ、1日の終わりにはかなりフラフラになってしまうのだが、こちらの教会の祭壇で祈りを捧げると、逆に僕の方が力が貰えた気持ちになるのは、なぜだろう?
首を傾げながら、出入口へ向かおうとすると、例の魅惑のソファセットが僕の目に映った。
今日もキラキラと日光が降り注ぎ、とても優雅な空間だ。
まるで引き寄せられるように、誰もいないソファセットに僕は座り、ひと息ついた。
大祭といえば……うん?
何か大事な手配を忘れていないか?
ここのところの忙しさもあり、しばらくボーっとしていたが、脳がリラックスしたせいか、突如、ある重要な手配を忘れていたことを思い出した。
「うわぁーっ、どうしよう、服!」
あまりの衝撃に、僕はその場で立ち上がり、大声で叫んでしまう。
すると、突然、入口扉がガチャリと開き、こちらへ向かってくる、カツカツカツという軽やかな足音が聞こえ……耳障りの良い低音で、予期しなかった返答を耳にした。
「服がどうかしたのか?」
その金髪のせいもあるかもしれないが、今日も降り注ぐ日光さえも味方につけ、場をガラリと陽に変える、魅力的な男性が姿を見せる。
「アルフ様!」
まさかの返答と登場した人物に驚いた僕は、腰の力が抜けてしまい……今度はストンと元通りに座ってしまった。
「久しぶりだな」
そんな僕を流れるように一瞥し、アルフ様は僕の真向かいに静かに座られる。
同時にアルフ様の部下の方だろうか、素早くかつ丁寧に僕の分までお茶を入れて下さり、速やかに退室された。
なので、この煌びやかな空間には、アルフ様と僕だけになる。
「お久しぶりです」
僕はみっともない所を見られた恥ずかしさから、頬に熱が上がったまま、礼をするために立ちあがろうとしたが、アルフ様から「礼は良いから、茶を」と勧められた。
僕は、アルフ様のお言葉に甘えて、座したまま軽く一礼し、有り難く、お茶をいただく。
「おいしい」
図らずとも出た僕の言葉に、クスリと笑った気配がしたので、そちらに目を向けると、お茶を飲むアルフ様の顔色が、思いの外悪いことに気がついた。
「なんだ?」
あまりにも熱心に見つめていたせいか、アルフ様から僕は質問される。
「いえ、あの……顔色がすぐれないようにお見受けしまして……仕事がお忙しい……とか?」
僕の言葉に微かに肩を震わせたアルフ様は、持っていたカップを静かにソーサーに戻すと、苦笑を浮かべた。
「周りには、上手く隠していたつもりだったが、そなたにはバレてしまったか。
そうだ……少々、仕事が立て込んでいてな」
そう言いながらアルフ様は、少し俯いて、眉間を親指と人差し指で軽く摘んで、揉み続ける。
「そうでしたか。
良ければ、以前僕がやった、おまじない、またやりましょうか?」
アルフ様はハッとしたかのように、軽く息を飲んだが、やがて首を緩く左右に振って、僕に告げた。
「いや、あれは……今は自分で自覚するほど疲労を感じるので、そなたにまた多大な負担をかけてしまう。
前のように、倒られてしまうと、またセリムにひどく怒られる……もうすぐ帰ってくるとはいえ、今、セリムは不在で、そなたを治せる者がいないからな」
だから気持ちだけいただくよ、ありがとう、と呟くように言ったアルフ様が、僕にはなぜか大きな暗闇に飲み込まれそうな気がして、胸がギュッと締め付けられた。
210
お気に入りに追加
1,184
あなたにおすすめの小説
国を救った英雄と一つ屋根の下とか聞いてない!
古森きり
BL
第8回BL小説大賞、奨励賞ありがとうございます!
7/15よりレンタル切り替えとなります。
紙書籍版もよろしくお願いします!
妾の子であり、『Ω型』として生まれてきて風当たりが強く、居心地の悪い思いをして生きてきた第五王子のシオン。
成人年齢である十八歳の誕生日に王位継承権を破棄して、王都で念願の冒険者酒場宿を開店させた!
これからはお城に呼び出されていびられる事もない、幸せな生活が待っている……はずだった。
「なんで国の英雄と一緒に酒場宿をやらなきゃいけないの!」
「それはもちろん『Ω型』のシオン様お一人で生活出来るはずもない、と国王陛下よりお世話を仰せつかったからです」
「んもおおおっ!」
どうなる、俺の一人暮らし!
いや、従業員もいるから元々一人暮らしじゃないけど!
※読み直しナッシング書き溜め。
※飛び飛びで書いてるから矛盾点とか出ても見逃して欲しい。
あなたは僕の運命の番 出会えた奇跡に祝福を
羽兎里
BL
本編完結いたしました。覗きに来て下さった方々。本当にありがとうございました。
番外編を開始しました。
優秀なαの兄達といつも比べられていたΩの僕。
αの父様にも厄介者だと言われていたけど、それは仕方がない事だった。
そんな僕でもようやく家の役に立つ時が来た。
αであるマティアス様の下に嫁ぐことが決まったんだ。
たとえ運命の番でなくても僕をもらってくれると言う優しいマティアス様。
ところが式まであとわずかというある日、マティアス様の前に運命の番が現れてしまった。
僕はもういらないんだね。
その場からそっと僕は立ち去った。
ちょっと切ないけれど、とても優しい作品だと思っています。
他サイトにも公開中。もう一つのサイトにも女性版の始めてしまいました。(今の所シリアスですが、どうやらギャグ要素満載になりそうです。)

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな
みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」
タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。


巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる