「運命の番」だと胸を張って言えるまで

黎明まりあ

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第4章 王宮生活<大祭準備編>

59、忘れていた服装問題<前>

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 あれ?
 なんだか花たちが元気がない?

 自宮じきゅうでの昼食を終え、再び教会本部に戻る途中とちゅう、以前ロイから水やりを依頼された庭園が、今日に限って目に飛び込んでくる。
 このところ供物くもつへの祈祷きとう参加で忙しく、こちらの庭園での水やりをスッカリ忘れていて、僕は軽い罪悪ざいあく感におそわれた。

 それに、あの隠れみたいな教会にも、行けてないしなぁ

 この後、急ぎの用事がなかった僕は、久しぶりに、依頼された庭園の水やりをすることした。
 もちろん、僕が水やりを忘れても、ここは王宮の庭園なのできちんと管理されているが、単なる僕だけの錯覚さっかくかもしれないが、一時期、ほぼ毎日のように通ったせいか、僕が水やりをすると、いつもほんのちょっとだけ、緑が輝く気がする。
 だからこの庭園の水やりは、僕にとって全然苦にならなかった。

 庭園での水やりを終え、やっぱり少し増したように見える緑の輝きに自己満足した僕は、いつもの流れで小高こだかおかにある、隠れのような教会にも足を向ける。
 これまたいつものように、ここの祭壇さいだんにも祈りをささげたが、以前と変わらず、祈祷後は心身しんしん共にスッキリした。

 不思議だな

 大聖堂の祭壇さいだんにむかって供物の祈祷をすると、ごっそり神力しんりょくを持っていかれ、1日の終わりにはかなりフラフラになってしまうのだが、こちらの教会の祭壇さいだんで祈りを捧げると、逆に僕の方が力がもらえた気持ちになるのは、なぜだろう?

 首をかしげながら、出入口へ向かおうとすると、例の魅惑みわくのソファセットが僕の目にうつった。 
 今日もキラキラと日光がそそぎ、とても優雅な空間だ。
 まるで引き寄せられるように、誰もいないソファセットに僕は座り、ひと息ついた。

 大祭たいさいといえば……うん?
 何か大事な手配を忘れていないか?

 ここのところの忙しさもあり、しばらくボーっとしていたが、脳がリラックスしたせいか、突如とつじょ、ある重要な手配を忘れていたことを思い出した。

「うわぁーっ、どうしよう、服!」

 あまりの衝撃に、僕はその場で立ち上がり、大声で叫んでしまう。
 すると、突然、入口扉がガチャリと開き、こちらへ向かってくる、カツカツカツというかろやかな足音が聞こえ……耳障みみざわりの良い低音ていおんで、予期しなかった返答を耳にした。

「服がどうかしたのか?」

 その金髪のせいもあるかもしれないが、今日も降り注ぐ日光さえも味方につけ、場をガラリとように変える、魅力的な男性が姿を見せる。

「アルフ様!」

 まさかの返答と登場した人物に驚いた僕は、腰の力が抜けてしまい……今度はストンと元通りに座ってしまった。

「久しぶりだな」

 そんな僕を流れるように一瞥いちべつし、アルフ様は僕の真向まむかいに静かに座られる。
 同時にアルフ様の部下の方だろうか、素早くかつ丁寧ていねいに僕の分までお茶を入れて下さり、速やかに退室された。
 なので、このきらびやかな空間には、アルフ様と僕だけになる。

「お久しぶりです」

 僕はみっともない所を見られた恥ずかしさから、頬に熱が上がったまま、礼をするために立ちあがろうとしたが、アルフ様から「礼は良いから、茶を」とすすめられた。
 僕は、アルフ様のお言葉に甘えて、したまま軽く一礼し、有りがたく、お茶をいただく。

「おいしい」

 はからずとも出た僕の言葉に、クスリと笑った気配けはいがしたので、そちらに目を向けると、お茶を飲むアルフ様の顔色が、思いのほか悪いことに気がついた。

「なんだ?」

 あまりにも熱心に見つめていたせいか、アルフ様から僕は質問される。

「いえ、あの……顔色がすぐれないようにお見受けしまして……仕事がお忙しい……とか?」

 僕の言葉にかすかに肩をふるわせたアルフ様は、持っていたカップを静かにソーサーに戻すと、苦笑を浮かべた。

まわりには、上手く隠していたつもりだったが、そなたにはバレてしまったか。
 そうだ……少々、仕事が立て込んでいてな」

 そう言いながらアルフ様は、少しうつむいて、眉間みけんを親指と人差し指で軽くつまんで、み続ける。

「そうでしたか。
 良ければ、以前僕がやった、おまじない、またやりましょうか?」

 アルフ様はハッとしたかのように、軽く息を飲んだが、やがて首をゆるく左右に振って、僕に告げた。

「いや、あれは……今は自分で自覚するほど疲労を感じるので、そなたにまた多大な負担をかけてしまう。
 前のように、倒られてしまうと、またセリムにひどく怒られる……もうすぐ帰ってくるとはいえ、今、セリムは不在で、そなたを治せる者がいないからな」

 だから気持ちだけいただくよ、ありがとう、とつぶやくように言ったアルフ様が、僕にはなぜか大きな暗闇に飲み込まれそうな気がして、胸がギュッと締め付けられた。
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